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1巻
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それにしても、涙の理由を根ほり葉ほり訊かれると思っていたのに、なにも追及されなくて拍子抜けだ。
その後黙り込んだ彼は、窓の外に広がる夜景を見ながらマティーニを口に運んでいた。
きっといつもこうしてリラックスしているのだろうなと思いつつ、私も特になにも話さずカクテルを飲み続ける。
しかし雄司のメッセージがふと頭をよぎり、泣きそうになった。
彼は今頃、恵さんと会っているのだろうか。家に誘ったのだから、当然会うだけでは済まないだろう。私を抱いたあのベッドで、彼女を……
「有馬?」
「すみません」
涙がこぼれてしまい、慌てて拭う。
「お前が話したくないなら訊かない。でも、話せば楽になることもあるぞ」
楽になるのだろうか。
もしかしたら彼は、私が彼氏に浮気をされたと確信しているのかもしれない。先日家まで送ってもらった際に、そんな話をしたからだ。
そういえばあのとき、『女を不安にさせる男なんて、捨ててやればいい』と言われたな。それなのに、捨てる前に捨てられてしまった。ううん。もうずっと前からあやしいと思っていたのに、結婚を夢見ていた私は、雄司を捨てられなかったんだ。
なんてバカなんだろう。自立した女性になりたくて仕事を頑張ってきたのに、平気で浮気をする男にずるずる引きずられて、都合のいい女に成り下がっていたんだ、私。
いたたまれなくなり、カクテルを喉に流し込む。
「ピッチが速すぎだ」
心配そうに私を見つめる柳原さんに、ほとんど空になったグラスを取り上げられてしまった。けれど、彼はもう一杯同じものを頼んでくれる。私が酔いたい気分だとわかっているようだ。
「私……やっぱり浮気されてたみたいです」
なんとなく察しているだろう彼に打ち明けた。
「そうか」
「バカですよね。そうじゃないかと疑ってたのに、怖くて訊けなかった。気のせいだと思おうとしてました」
涙が止まらなくなり、落ち着こうと深呼吸すると、柳原さんの手が伸びてきて私の頬の涙をそっと拭った。
「有馬はバカじゃない。一途だっただけだ」
あきれているのではないかと思ったのに、一途だと言ってもらえて少し救われた気持ちになる。
でもきっと、彼が考える一途とは違う。
雄司以外の男性を視界に入れなかったという点では一途だった。けれども、結婚を夢見ていたから雄司から離れられなかっただけで、出会った頃のような強い〝好き〟という感情はもう持っていなかったように思う。それも、浮気を疑っていたからかもしれないけれど。
「私、結婚にあこがれていたんです。周りの友達が皆結婚してしまったから、取り残されたみたいで焦ってました。だから浮気に勘づいていたのに、気づいていないふりをして……」
「そうか。別れを切り出されたのか?」
柳原さんはかすかに眉をひそめる。
「いえ。雄司が――彼が、浮気相手に送るメッセージを間違えて私に送信してきたんです。私には出張だと言ってデートの誘いを断ったくせに、その彼女を家に……。よく考えたら、地方に支店を持っていない会社の経理部に泊まりの出張なんてあるはずないのに」
フィエルテは全国展開しているので、柳原さんクラスになるとしょっちゅうどこかに飛んでいく。だからそういうものだと思っていたが、よく考えるとおかしい。
声を震わせながら告白すると、彼が励ますようにテーブルの上の私の手をそっと握った。
「お待たせしました」
ウエイターがロングアイランドアイスティーをテーブルに置いた。すると柳原さんは、それを私のほうにずらしてくれる。
「ゆっくり飲め」
「ありがとうございます」
私はカクテルに口をつけ、気持ちを落ち着けようとした。
あと何杯飲んだら、雄司を忘れられるだろう。いや、裏切られた心の傷はなにをしても癒えない気がする。
「そんな男はもう忘れろ」
「そう、ですね」
それができたら簡単なのに。忘れられれば、上司相手に愚痴をこぼすような醜態をさらさずに済む。
あの間違いメッセージのあと、フォローの電話ひとつない。電話なんてかけられないか。言い訳できない内容だったし。
ああ、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
カクテルを飲みながらひとりで葛藤していると、今度は桃の香りが漂うベリーニを注文してくれた。口当たりがいいせいもあって勢いよく飲み進んでいたものの、途中で柳原さんにグラスを取り上げられてしまった。
「一気はやめろ」
「すみません」
「この際、もやもやは全部吐き出せ」
柳原さんの表情は険しくて、まるで私の痛みを同じように感じてくれているかのようだった。
「……私、魅力ないんだろうな」
仕事は充実しているけれど、その分、私生活に気を回せない。
自分に〝女子力〟なるものが備わっているとは思えないし、男性に甘えるのも得意じゃない。彼女、そして結婚相手として選ばれるには、いろいろなものが欠如しているんだろうなと考えてしまう。
「そうかな」
「えっ?」
「お前は十分魅力的だと思うが。それに気づかない男の目が節穴なだけ。そんな男、お前が捨ててやればいい」
柳原さんって、こんなに優しい嘘がつける人なんだ。私があまりにボロボロだから、そう言うしかないのか。
「あはっ、ありがとうございます」
今はお世辞でもいい。温かい言葉に包まれたい。
やはりピッチが速すぎたのか、酔いが回りふわふわしてきた。
いつもならこんなに早く酔ったりしないんだけどな。
「有馬、大丈夫か?」
「……はい」
そう返事をしたものの、頭がボーッとしてきた。ただ、裏切られた痛みだけは鮮明に浮かび上がり、私を苦しめてくる。
「なんで……」
「有馬?」
「私、なにかした?」
幾度となくスマホをチェックして、デートOKの返事を期待して待っていたなんて、バカみたいじゃない。
「有馬。出よう」
向かいにいたはずの柳原さんがいつの間にか隣にいて、私の肩をトントンと叩く。
「すみませ……」
立ち上がろうとしたが、よろけて彼に支えられた。
抱えられるようにしてバーを出たところで、不意に抱き上げられて慌てる。
「だ、大丈夫ですから」
「全然歩けてないぞ。つかまってろ」
それ以上拒否する気力もない私は、おとなしく彼に抱かれたままエレベーターに乗った。
涙がこぼれそうで目を閉じていると、エレベーターが到着して柳原さんが歩き始めたようだ。
そういえば、彼はここに泊まるんだった。タクシーで帰らなければ。
回転の鈍った頭でそう考えて目を開いたら、そこがロビーではなかったので驚いた。
「あれ?」
「このまま帰せない。俺の部屋に泊まれ。俺はもうひと部屋取ってくるから」
こっぴどい捨てられ方をした私にも、まだ優しい言葉をくれる人がいるんだ。
心がすさんでいるせいか、そんなふうに考えてしまい、目頭が熱くなる。
「気分悪い?」
「大丈夫です」
涙をこらえようとして顔をしかめたからか、気遣ってくれる。
やがて部屋に到着すると、彼は私をベッドに下ろした。
「水飲むか?」
うなずくと彼は一旦離れていき、ペットボトルの水を持ってきてキャップをひねってくれた。
「ゆっくり寝て。それじゃあ」
柳原さんはまるで子供をあやすかのように私の頭をポンと叩き、離れていく。それが妙に寂しくて顔をしかめた。
「行かないで」
とっさに彼の腕をつかんでしまったものの、ハッと我に返る。
私、なにしてるんだろう。
「ごめんなさい。なんでも――」
慌てて手を放したが、彼は振り返り、私からペットボトルを取り上げる。そして水を口に含み……
「ん……っ」
なんと口移しで私に飲ませようとした。
「下手だな。ちゃんと飲め」
うまく飲めずに口からこぼれてしまう。すると、彼は有無を言わさずもう一度繰り返した。今度はゴクンと飲み込めたが、熱い眼差しを注がれて息が止まりそうになる。
「お前、わかってる?」
「なに、が?」
「俺も男なんだけど」
その質問に答えられない。多分、わかっていて引き止めたのだ、私は。
「忘れさせてやろうか」
彼はベッドに上がってきて私の顔の横に両手をつき、艶やかな視線を向けてくる。
「有馬……」
そして、私の頬にそっと触れた。過激な発言とは裏腹にその触れ方があまりに優しくて、すがりつきたくなる。
「……忘れ、させて……あっ」
首にこぼれた水に舌を這わせられて声が漏れる。
「お前がいい女だとわからせてやる」
ジャケットを脱ぎ捨てた彼は、体を密着させて私を抱きしめた。
すぐさま重なった唇が熱くてクラクラする。遠慮なしに唇を割って口内に入ってきた彼の舌が、私のそれを絡めとり、うごめく。
「ん……」
ため息まじりの甘い声が漏れてしまい焦ったものの、彼はお構いなしにキスを続ける。
雄司も、今頃恵さんを抱いているのだろうか。ふとそんなことが頭をよぎる。
「なに考えてる」
一旦顔を離した彼は、私の心の中を探るように視線を合わせてきた。
「いえっ」
「俺がお前を抱くんだ。余計なことは考えるな。ま、考えられないようにしてやるけどな」
ネクタイをシュルリと外して放り投げた彼が、再び唇を重ねてくる。
何度も角度を変え、貪るようなキスが続く。逃げても逃げても、彼の舌が私のそれに巻きついてきて放してくれない。
「はっ……」
息が苦しくなり彼の胸を押した。しかし、すぐに顎を持ち上げられて唇が重なる。しばらくしてようやく離れた彼の唇との間に銀糸が伝った。こんなに激しくて情熱的なキスは初めてだった。
「全然足りない」
私は息を切らしているのに、彼は私の唇を指でなぞり余裕の顔だ。
「スイッチ、入った?」
再び距離を縮めてきた彼は、今度は私の耳元でささやく。
「違っ……」
全身が火照り、彼を求める気持ちがあふれてきそうなのに、恥ずかしくて否定する。
「嘘つきにはお仕置きが必要だ」
ゾクゾクするような甘い声で言う彼は、耳朶を甘噛みしたあと私の首筋に舌を這わせ始めた。
「待って」
「待てない。お仕置きだって言っただろ?」
彼は私のセーターの裾から手を入れ、ブラの上から胸をつかんで揉みしだく。
「有馬は感じてるだけでいい。お前の頭の中、俺でいっぱいにしてやる」
「あぁっ、イヤッ……」
「イヤ? こんなに濡らしておいて?」
スカートをまくり上げてショーツの中に手を入れてきた彼は、花弁を指で押し広げて、恥ずかしい液体が滴る口をなぞる。
ダメ。触れられたらますます蜜があふれてしまう。
彼氏の裏切りを上司に慰めてもらうなんて間違っている。いくら心が傷つきそこから鮮血が噴き出しているからといって、越えてはならない一線を越えようとしているのだと自覚した私は、体をひねって彼の手から逃れようとした。
「やっぱり、こんなことしちゃ――んっ」
私の拒否の言葉は、彼の唇に吸い取られてしまった。
「俺を煽っておいて、いまさらやめられると思っているのか?」
「ごめんなさい。でもっ……」
たしかに引き止めたのは私だけれど、酔った勢いもあった。
「気持ちよくしてやるから、力を抜け」
彼の目を見つめて首を横に振り、ダメだと伝えているのに、どんどん体が火照ってくるのはどうしてだろう。
「今は全部忘れて俺に溺れろ。お前はいい女だ」
そう言われた瞬間、じわりと涙があふれてきた。
「ほんと、に?」
「ああ」
指を絡めて私の手をしっかりと握る彼は、見たことがないような柔らかな表情でうなずく。
「誰でもいいなら、あとくされのない女を選ぶ。部下なんて、最高に面倒な相手だ。それでも抱きたいと思ったんだ」
説得力のある言葉に、心が揺らいだ。
瞬きすると目尻から涙がこぼれていく。彼はそれをそっと拭ったあと、私の額に唇を押しつけた。
「どうしても嫌ならやめる」
強引だったくせして、最後は私の意思を聞いてくれる優しさを感じる。私は彼を見つめたまましばらく黙っていた。そして……彼もまた、視線を絡ませたままなにも言わない。
張り詰めた空気が緊張を煽ってくる。
私が受け入れると伝えなければ、きっとこの先には進まないだろう。
私、どうしたいの? 今頃他の女を抱いている雄司に操を立てて柳原さんを拒み、ずっと泣き続けるの?
そもそも言い訳の電話ひとつないのは、雄司が私との関係を清算しても構わないと思っているからに違いない。彼にとって私は、その程度の女なのだ。
自問自答してみると、すでに答えが出ていた。
もう、無理だ。雄司と同じ未来は歩けない。
「……抱いて、くだ――んあっ」
その言葉を合図に、彼は欲情をむき出しにして私を翻弄しだした。
あっという間にセーターをまくり上げ、いたるところに舌を這わせてくる。
体が火照るのは、アルコールのせいなのか、それとも彼の愛撫が情熱的だからかわからない。
「んっ」
彼は私の唇をふさぎ、大きな手で円を描くように胸をまさぐった。ブラをずらされそうになり恥ずかしさのあまりうつぶせになると、背中にも舌を這わせてくる。尖らせたそれで背骨の凹凸をなぞり、徐々に上がってきたかと思うと、ブラのホックを外してしまう。
「理性なんてすぐに吹き飛ばしてやる」
うしろから抱きしめられて耳元で艶やかにささやかれ、体がゾクッと震える。
「あっ……」
彼はシーツと私の体の間に手を滑り込ませた。そして自由になった双丘をすくい上げるように手で包み込み、ツンと主張する先端を指で撫で始める。
「あぁっ、ダメッ」
「ダメと言うわりには、耳まで真っ赤だぞ」
イジワルな言葉になにも返せない。胸の尖りを指でつままれた瞬間、強い快感に襲われたからだ。
「こっち向いて。かわいがってやれないだろ?」
ゆっくり顔を彼のほうに向けると、待っていたかのように唇が重なる。キスに没頭している間に、あっさり仰向けにされてしまった。
彼は私の腕をシーツに縫いとめ、チュッというリップ音を立てながらいたるところに花を散らしていく。やがて乳房の先端までたどり着くと、それを口に含み、舌を小刻みに動かし始めた。
「んっ、はぁ……ん」
「体がガクガク震えてる」
「言わないで」
恥ずかしいから。それだけではない。息が上がって苦しいくらい感じてる。
再び愛撫を始めた彼は、今度は右手でストッキング越しに太ももを撫で始めた。何度も太ももの内側を往復した手が、一番敏感な部分をいとも簡単に探し当てる。
「あっ……」
そこをゆっくり撫でられ、腰が浮く。しかしさっき直に触れられているせいか、もっと強い刺激が欲しくなってしまう。
それから彼はシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になった。腕にはたくましい筋肉がのっているのに、私の秘所をもてあそぶ指は優しい。
「有馬」
柔らかい声で名前を呼ばれて視線を合わせると、そこにはそこはかとない色香を放った彼の顔があった。
「すごくきれいだ」
そうささやかれて再び視界が滲んでしまうのは、浮気をされて自信というものをズタズタに引き裂かれたせい。
「泣くな。俺がお前の体の隅々まで愛してやる」
「柳原さん……」
我慢しきれず涙が目尻からこぼれると、まぶたに優しいキスをくれた。
もう一度覆いかぶさってきて唇を重ねる彼は、ストッキングとショーツをあっという間に取り去った。
恥ずかしい部分をあらわにされて、とっさに両脚を閉じようとするけれど拒まれてしまった。それどころか、私の両膝をがっしりと抱えた彼が、太ももに舌を這わせ始める。ときには軽く食み、ときには強く吸い上げ、膝から中心へ何度も何度も愛撫は続くが、肝心な部分には触れてくれない。
「ん……っ」
「どうした? 腰が動いてるぞ」
彼はイジワルだ。わかっているくせして私に言わせようとする。
口を閉ざしていると、「すごいな」と蜜口からあふれる愛液を指ですくってみせる。
それでも触ってほしいなんて恥ずかしくて言えない。
何度も首を振って拒否していると、ふっと笑った彼は私に軽いキスをした。
「普段あんなに強気なくせに、こんなにうぶな反応するなんて、反則だ」
なにが反則なの?
「このとろけた顔、他の男には見せたくない」
私の髪に手を入れた彼は、優しく撫でながらささやく。そして私の手を取り、指先に唇を押しつけた。
「お前だけじゃない。俺も感じてる。もう苦しいくらいだ」
彼は私の手を自分の脚の間に持っていく。隆起したそれに触れた瞬間、胸がドクンと跳ねる。
私が彼を欲しいと思うように、彼も私に欲情してくれているんだ。
それがわかった瞬間、最後に残っていた理性の欠片が飛んでいった。
「して……」
「有馬?」
「もっと触って。全部忘れさせて」
私の頭の隅々まであなたでいっぱいにして。雄司のことなんて考えられないくらい、私を翻弄してよ。
懇願すると彼は優しい表情で小さくうなずき、深い口づけを落とす。このまま呑み込まれてしまうのではないかと思うほどの激しいキスに、体が燃えるように熱くなってきた。
秘所の奥に潜む雛尖は、すでに弾けていて愛撫を待っている。彼はそれを指で執拗になぞり、再び乳房にも舌を這わせ始めた。
「あぁぁ……そんな、両方……んはぁっ」
すさまじい快感に襲われて達しそうになると、刺激が止まる。期待していたせいか、体の奥のほうがギュッと疼いた。
「もっと欲しい?」
焦らさないで。早く私を貫いて。
「……欲しい」
こんな恥ずかしいことを口にするのは初めてだけれど、とろとろに溶かされた体が彼を欲してやまないのだ。
「イッて」
彼は私の耳元でささやきながら、今度は淫らな液があふれる蜜壺に指を入れてきた。
長い指が中で動くたび、クチュッという淫猥な音が響いて恥ずかしくもなるけれど、気持ちよすぎて息が上がっていく。
「はっ、……んん……っ」
再び私の脚を広げた彼は、今度はいきなり花芽を舌でつつく。
「あぁっ、ダメッ。お願い……も、イヤぁ」
一番敏感な部分を丁寧に舌で転がされ、そして軽く甘噛みされて、体が大きく跳ねた。その瞬間、頭が真っ白になり呼吸が乱れる。
「イけたな。でも、へばるなよ。まだこれからだから」
息を荒らげて放心していると、彼は自分もボクサーブリーフを脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿になった。
「挿れるぞ」
「待って、まだ……あん!」
彼ははちきれんばかりに大きくなったそれを蜜口にあて、軽く痙攣している私の中に送り込んでくる。すると再び強い快楽に襲われ、微弱な電流が駆け抜けたかのように、ガクッと体が揺れた。
「またイッたのか。敏感すぎ」
「違っ……」
抗議したものの、二度も連続して達してしまったのだからまったく説得力がない。
「このとろけた顔、すごく淫らだ」
「見ないで」
とんでもない指摘に逃げ出したい気持ちになり、手で顔を覆う。
「どうして? 興奮するけど」
彼は私の手をはがして、手の甲にキスをする。それだけでなく指先を口に含み、生温かい舌を絡ませてきた。
「ん……」
「どこに触れても感じるみたいだな。これはどう?」
見せつけるように舌を出し、私の指を一本一本舐め始める。
指先がこんなに敏感になるなんて知らなかった。体がゾクゾクして無意識に腰が動く。
「こんなんじゃ足りないか。好きなだけイけ」
「そんな……。はぁっ……」
私の手を解放した彼は、花溝を押し開くようにさらに進む。腰を押さえられて一気に最奥まで貫かれ、勝手に背がしなった。
「んあっ!」
「ああっ、たまらない」
とんでもない色香を纏い恍惚の表情を浮かべる彼は、私の頬に優しく触れて口づけをする。
「柳原さん……」
「どうした?」
「強く……強く抱きしめて」
なぜだかわからないけれど、そうしてほしい気分だった。
願いを聞き入れてくれた彼は、私の体をギュッと抱きしめて激しい律動を続ける。
「あっ、あっ……」
動きに合わせて声が漏れてしまい恥ずかしくてたまらないが、とても我慢できるものではなかった。
しばらくして動きを止めた彼は、つながったまま私をグイッと引っ張り上げて向き合って座る。
彼の額にうっすらと浮かぶ汗が、動きの激しさを物語っていた。
上司と淫らな行為をしていると自覚したらいたたまれなくなり、彼の首に手を回してピッタリくっついて顔を隠す。
「かわいいな、お前は。仕事中とは全然違う」
「柳原さんだって」
こんな甘い言葉を吐くなんて、誰も知らないはずだ。
「そうだな。これは俺とお前だけの秘密だ」
秘密だなんて、なんとなくくすぐったい。
「なぁ、朝まで抱きつぶしていい?」
「あ、朝?」
びっくりしすぎて離れると、「やっと、顔見せてくれた」と笑う。
「本気だけどね」
「えっ。あっ」
思いきり突き上げられた私は、それからまた甘い声をあげ続ける羽目になった。
その後黙り込んだ彼は、窓の外に広がる夜景を見ながらマティーニを口に運んでいた。
きっといつもこうしてリラックスしているのだろうなと思いつつ、私も特になにも話さずカクテルを飲み続ける。
しかし雄司のメッセージがふと頭をよぎり、泣きそうになった。
彼は今頃、恵さんと会っているのだろうか。家に誘ったのだから、当然会うだけでは済まないだろう。私を抱いたあのベッドで、彼女を……
「有馬?」
「すみません」
涙がこぼれてしまい、慌てて拭う。
「お前が話したくないなら訊かない。でも、話せば楽になることもあるぞ」
楽になるのだろうか。
もしかしたら彼は、私が彼氏に浮気をされたと確信しているのかもしれない。先日家まで送ってもらった際に、そんな話をしたからだ。
そういえばあのとき、『女を不安にさせる男なんて、捨ててやればいい』と言われたな。それなのに、捨てる前に捨てられてしまった。ううん。もうずっと前からあやしいと思っていたのに、結婚を夢見ていた私は、雄司を捨てられなかったんだ。
なんてバカなんだろう。自立した女性になりたくて仕事を頑張ってきたのに、平気で浮気をする男にずるずる引きずられて、都合のいい女に成り下がっていたんだ、私。
いたたまれなくなり、カクテルを喉に流し込む。
「ピッチが速すぎだ」
心配そうに私を見つめる柳原さんに、ほとんど空になったグラスを取り上げられてしまった。けれど、彼はもう一杯同じものを頼んでくれる。私が酔いたい気分だとわかっているようだ。
「私……やっぱり浮気されてたみたいです」
なんとなく察しているだろう彼に打ち明けた。
「そうか」
「バカですよね。そうじゃないかと疑ってたのに、怖くて訊けなかった。気のせいだと思おうとしてました」
涙が止まらなくなり、落ち着こうと深呼吸すると、柳原さんの手が伸びてきて私の頬の涙をそっと拭った。
「有馬はバカじゃない。一途だっただけだ」
あきれているのではないかと思ったのに、一途だと言ってもらえて少し救われた気持ちになる。
でもきっと、彼が考える一途とは違う。
雄司以外の男性を視界に入れなかったという点では一途だった。けれども、結婚を夢見ていたから雄司から離れられなかっただけで、出会った頃のような強い〝好き〟という感情はもう持っていなかったように思う。それも、浮気を疑っていたからかもしれないけれど。
「私、結婚にあこがれていたんです。周りの友達が皆結婚してしまったから、取り残されたみたいで焦ってました。だから浮気に勘づいていたのに、気づいていないふりをして……」
「そうか。別れを切り出されたのか?」
柳原さんはかすかに眉をひそめる。
「いえ。雄司が――彼が、浮気相手に送るメッセージを間違えて私に送信してきたんです。私には出張だと言ってデートの誘いを断ったくせに、その彼女を家に……。よく考えたら、地方に支店を持っていない会社の経理部に泊まりの出張なんてあるはずないのに」
フィエルテは全国展開しているので、柳原さんクラスになるとしょっちゅうどこかに飛んでいく。だからそういうものだと思っていたが、よく考えるとおかしい。
声を震わせながら告白すると、彼が励ますようにテーブルの上の私の手をそっと握った。
「お待たせしました」
ウエイターがロングアイランドアイスティーをテーブルに置いた。すると柳原さんは、それを私のほうにずらしてくれる。
「ゆっくり飲め」
「ありがとうございます」
私はカクテルに口をつけ、気持ちを落ち着けようとした。
あと何杯飲んだら、雄司を忘れられるだろう。いや、裏切られた心の傷はなにをしても癒えない気がする。
「そんな男はもう忘れろ」
「そう、ですね」
それができたら簡単なのに。忘れられれば、上司相手に愚痴をこぼすような醜態をさらさずに済む。
あの間違いメッセージのあと、フォローの電話ひとつない。電話なんてかけられないか。言い訳できない内容だったし。
ああ、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
カクテルを飲みながらひとりで葛藤していると、今度は桃の香りが漂うベリーニを注文してくれた。口当たりがいいせいもあって勢いよく飲み進んでいたものの、途中で柳原さんにグラスを取り上げられてしまった。
「一気はやめろ」
「すみません」
「この際、もやもやは全部吐き出せ」
柳原さんの表情は険しくて、まるで私の痛みを同じように感じてくれているかのようだった。
「……私、魅力ないんだろうな」
仕事は充実しているけれど、その分、私生活に気を回せない。
自分に〝女子力〟なるものが備わっているとは思えないし、男性に甘えるのも得意じゃない。彼女、そして結婚相手として選ばれるには、いろいろなものが欠如しているんだろうなと考えてしまう。
「そうかな」
「えっ?」
「お前は十分魅力的だと思うが。それに気づかない男の目が節穴なだけ。そんな男、お前が捨ててやればいい」
柳原さんって、こんなに優しい嘘がつける人なんだ。私があまりにボロボロだから、そう言うしかないのか。
「あはっ、ありがとうございます」
今はお世辞でもいい。温かい言葉に包まれたい。
やはりピッチが速すぎたのか、酔いが回りふわふわしてきた。
いつもならこんなに早く酔ったりしないんだけどな。
「有馬、大丈夫か?」
「……はい」
そう返事をしたものの、頭がボーッとしてきた。ただ、裏切られた痛みだけは鮮明に浮かび上がり、私を苦しめてくる。
「なんで……」
「有馬?」
「私、なにかした?」
幾度となくスマホをチェックして、デートOKの返事を期待して待っていたなんて、バカみたいじゃない。
「有馬。出よう」
向かいにいたはずの柳原さんがいつの間にか隣にいて、私の肩をトントンと叩く。
「すみませ……」
立ち上がろうとしたが、よろけて彼に支えられた。
抱えられるようにしてバーを出たところで、不意に抱き上げられて慌てる。
「だ、大丈夫ですから」
「全然歩けてないぞ。つかまってろ」
それ以上拒否する気力もない私は、おとなしく彼に抱かれたままエレベーターに乗った。
涙がこぼれそうで目を閉じていると、エレベーターが到着して柳原さんが歩き始めたようだ。
そういえば、彼はここに泊まるんだった。タクシーで帰らなければ。
回転の鈍った頭でそう考えて目を開いたら、そこがロビーではなかったので驚いた。
「あれ?」
「このまま帰せない。俺の部屋に泊まれ。俺はもうひと部屋取ってくるから」
こっぴどい捨てられ方をした私にも、まだ優しい言葉をくれる人がいるんだ。
心がすさんでいるせいか、そんなふうに考えてしまい、目頭が熱くなる。
「気分悪い?」
「大丈夫です」
涙をこらえようとして顔をしかめたからか、気遣ってくれる。
やがて部屋に到着すると、彼は私をベッドに下ろした。
「水飲むか?」
うなずくと彼は一旦離れていき、ペットボトルの水を持ってきてキャップをひねってくれた。
「ゆっくり寝て。それじゃあ」
柳原さんはまるで子供をあやすかのように私の頭をポンと叩き、離れていく。それが妙に寂しくて顔をしかめた。
「行かないで」
とっさに彼の腕をつかんでしまったものの、ハッと我に返る。
私、なにしてるんだろう。
「ごめんなさい。なんでも――」
慌てて手を放したが、彼は振り返り、私からペットボトルを取り上げる。そして水を口に含み……
「ん……っ」
なんと口移しで私に飲ませようとした。
「下手だな。ちゃんと飲め」
うまく飲めずに口からこぼれてしまう。すると、彼は有無を言わさずもう一度繰り返した。今度はゴクンと飲み込めたが、熱い眼差しを注がれて息が止まりそうになる。
「お前、わかってる?」
「なに、が?」
「俺も男なんだけど」
その質問に答えられない。多分、わかっていて引き止めたのだ、私は。
「忘れさせてやろうか」
彼はベッドに上がってきて私の顔の横に両手をつき、艶やかな視線を向けてくる。
「有馬……」
そして、私の頬にそっと触れた。過激な発言とは裏腹にその触れ方があまりに優しくて、すがりつきたくなる。
「……忘れ、させて……あっ」
首にこぼれた水に舌を這わせられて声が漏れる。
「お前がいい女だとわからせてやる」
ジャケットを脱ぎ捨てた彼は、体を密着させて私を抱きしめた。
すぐさま重なった唇が熱くてクラクラする。遠慮なしに唇を割って口内に入ってきた彼の舌が、私のそれを絡めとり、うごめく。
「ん……」
ため息まじりの甘い声が漏れてしまい焦ったものの、彼はお構いなしにキスを続ける。
雄司も、今頃恵さんを抱いているのだろうか。ふとそんなことが頭をよぎる。
「なに考えてる」
一旦顔を離した彼は、私の心の中を探るように視線を合わせてきた。
「いえっ」
「俺がお前を抱くんだ。余計なことは考えるな。ま、考えられないようにしてやるけどな」
ネクタイをシュルリと外して放り投げた彼が、再び唇を重ねてくる。
何度も角度を変え、貪るようなキスが続く。逃げても逃げても、彼の舌が私のそれに巻きついてきて放してくれない。
「はっ……」
息が苦しくなり彼の胸を押した。しかし、すぐに顎を持ち上げられて唇が重なる。しばらくしてようやく離れた彼の唇との間に銀糸が伝った。こんなに激しくて情熱的なキスは初めてだった。
「全然足りない」
私は息を切らしているのに、彼は私の唇を指でなぞり余裕の顔だ。
「スイッチ、入った?」
再び距離を縮めてきた彼は、今度は私の耳元でささやく。
「違っ……」
全身が火照り、彼を求める気持ちがあふれてきそうなのに、恥ずかしくて否定する。
「嘘つきにはお仕置きが必要だ」
ゾクゾクするような甘い声で言う彼は、耳朶を甘噛みしたあと私の首筋に舌を這わせ始めた。
「待って」
「待てない。お仕置きだって言っただろ?」
彼は私のセーターの裾から手を入れ、ブラの上から胸をつかんで揉みしだく。
「有馬は感じてるだけでいい。お前の頭の中、俺でいっぱいにしてやる」
「あぁっ、イヤッ……」
「イヤ? こんなに濡らしておいて?」
スカートをまくり上げてショーツの中に手を入れてきた彼は、花弁を指で押し広げて、恥ずかしい液体が滴る口をなぞる。
ダメ。触れられたらますます蜜があふれてしまう。
彼氏の裏切りを上司に慰めてもらうなんて間違っている。いくら心が傷つきそこから鮮血が噴き出しているからといって、越えてはならない一線を越えようとしているのだと自覚した私は、体をひねって彼の手から逃れようとした。
「やっぱり、こんなことしちゃ――んっ」
私の拒否の言葉は、彼の唇に吸い取られてしまった。
「俺を煽っておいて、いまさらやめられると思っているのか?」
「ごめんなさい。でもっ……」
たしかに引き止めたのは私だけれど、酔った勢いもあった。
「気持ちよくしてやるから、力を抜け」
彼の目を見つめて首を横に振り、ダメだと伝えているのに、どんどん体が火照ってくるのはどうしてだろう。
「今は全部忘れて俺に溺れろ。お前はいい女だ」
そう言われた瞬間、じわりと涙があふれてきた。
「ほんと、に?」
「ああ」
指を絡めて私の手をしっかりと握る彼は、見たことがないような柔らかな表情でうなずく。
「誰でもいいなら、あとくされのない女を選ぶ。部下なんて、最高に面倒な相手だ。それでも抱きたいと思ったんだ」
説得力のある言葉に、心が揺らいだ。
瞬きすると目尻から涙がこぼれていく。彼はそれをそっと拭ったあと、私の額に唇を押しつけた。
「どうしても嫌ならやめる」
強引だったくせして、最後は私の意思を聞いてくれる優しさを感じる。私は彼を見つめたまましばらく黙っていた。そして……彼もまた、視線を絡ませたままなにも言わない。
張り詰めた空気が緊張を煽ってくる。
私が受け入れると伝えなければ、きっとこの先には進まないだろう。
私、どうしたいの? 今頃他の女を抱いている雄司に操を立てて柳原さんを拒み、ずっと泣き続けるの?
そもそも言い訳の電話ひとつないのは、雄司が私との関係を清算しても構わないと思っているからに違いない。彼にとって私は、その程度の女なのだ。
自問自答してみると、すでに答えが出ていた。
もう、無理だ。雄司と同じ未来は歩けない。
「……抱いて、くだ――んあっ」
その言葉を合図に、彼は欲情をむき出しにして私を翻弄しだした。
あっという間にセーターをまくり上げ、いたるところに舌を這わせてくる。
体が火照るのは、アルコールのせいなのか、それとも彼の愛撫が情熱的だからかわからない。
「んっ」
彼は私の唇をふさぎ、大きな手で円を描くように胸をまさぐった。ブラをずらされそうになり恥ずかしさのあまりうつぶせになると、背中にも舌を這わせてくる。尖らせたそれで背骨の凹凸をなぞり、徐々に上がってきたかと思うと、ブラのホックを外してしまう。
「理性なんてすぐに吹き飛ばしてやる」
うしろから抱きしめられて耳元で艶やかにささやかれ、体がゾクッと震える。
「あっ……」
彼はシーツと私の体の間に手を滑り込ませた。そして自由になった双丘をすくい上げるように手で包み込み、ツンと主張する先端を指で撫で始める。
「あぁっ、ダメッ」
「ダメと言うわりには、耳まで真っ赤だぞ」
イジワルな言葉になにも返せない。胸の尖りを指でつままれた瞬間、強い快感に襲われたからだ。
「こっち向いて。かわいがってやれないだろ?」
ゆっくり顔を彼のほうに向けると、待っていたかのように唇が重なる。キスに没頭している間に、あっさり仰向けにされてしまった。
彼は私の腕をシーツに縫いとめ、チュッというリップ音を立てながらいたるところに花を散らしていく。やがて乳房の先端までたどり着くと、それを口に含み、舌を小刻みに動かし始めた。
「んっ、はぁ……ん」
「体がガクガク震えてる」
「言わないで」
恥ずかしいから。それだけではない。息が上がって苦しいくらい感じてる。
再び愛撫を始めた彼は、今度は右手でストッキング越しに太ももを撫で始めた。何度も太ももの内側を往復した手が、一番敏感な部分をいとも簡単に探し当てる。
「あっ……」
そこをゆっくり撫でられ、腰が浮く。しかしさっき直に触れられているせいか、もっと強い刺激が欲しくなってしまう。
それから彼はシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になった。腕にはたくましい筋肉がのっているのに、私の秘所をもてあそぶ指は優しい。
「有馬」
柔らかい声で名前を呼ばれて視線を合わせると、そこにはそこはかとない色香を放った彼の顔があった。
「すごくきれいだ」
そうささやかれて再び視界が滲んでしまうのは、浮気をされて自信というものをズタズタに引き裂かれたせい。
「泣くな。俺がお前の体の隅々まで愛してやる」
「柳原さん……」
我慢しきれず涙が目尻からこぼれると、まぶたに優しいキスをくれた。
もう一度覆いかぶさってきて唇を重ねる彼は、ストッキングとショーツをあっという間に取り去った。
恥ずかしい部分をあらわにされて、とっさに両脚を閉じようとするけれど拒まれてしまった。それどころか、私の両膝をがっしりと抱えた彼が、太ももに舌を這わせ始める。ときには軽く食み、ときには強く吸い上げ、膝から中心へ何度も何度も愛撫は続くが、肝心な部分には触れてくれない。
「ん……っ」
「どうした? 腰が動いてるぞ」
彼はイジワルだ。わかっているくせして私に言わせようとする。
口を閉ざしていると、「すごいな」と蜜口からあふれる愛液を指ですくってみせる。
それでも触ってほしいなんて恥ずかしくて言えない。
何度も首を振って拒否していると、ふっと笑った彼は私に軽いキスをした。
「普段あんなに強気なくせに、こんなにうぶな反応するなんて、反則だ」
なにが反則なの?
「このとろけた顔、他の男には見せたくない」
私の髪に手を入れた彼は、優しく撫でながらささやく。そして私の手を取り、指先に唇を押しつけた。
「お前だけじゃない。俺も感じてる。もう苦しいくらいだ」
彼は私の手を自分の脚の間に持っていく。隆起したそれに触れた瞬間、胸がドクンと跳ねる。
私が彼を欲しいと思うように、彼も私に欲情してくれているんだ。
それがわかった瞬間、最後に残っていた理性の欠片が飛んでいった。
「して……」
「有馬?」
「もっと触って。全部忘れさせて」
私の頭の隅々まであなたでいっぱいにして。雄司のことなんて考えられないくらい、私を翻弄してよ。
懇願すると彼は優しい表情で小さくうなずき、深い口づけを落とす。このまま呑み込まれてしまうのではないかと思うほどの激しいキスに、体が燃えるように熱くなってきた。
秘所の奥に潜む雛尖は、すでに弾けていて愛撫を待っている。彼はそれを指で執拗になぞり、再び乳房にも舌を這わせ始めた。
「あぁぁ……そんな、両方……んはぁっ」
すさまじい快感に襲われて達しそうになると、刺激が止まる。期待していたせいか、体の奥のほうがギュッと疼いた。
「もっと欲しい?」
焦らさないで。早く私を貫いて。
「……欲しい」
こんな恥ずかしいことを口にするのは初めてだけれど、とろとろに溶かされた体が彼を欲してやまないのだ。
「イッて」
彼は私の耳元でささやきながら、今度は淫らな液があふれる蜜壺に指を入れてきた。
長い指が中で動くたび、クチュッという淫猥な音が響いて恥ずかしくもなるけれど、気持ちよすぎて息が上がっていく。
「はっ、……んん……っ」
再び私の脚を広げた彼は、今度はいきなり花芽を舌でつつく。
「あぁっ、ダメッ。お願い……も、イヤぁ」
一番敏感な部分を丁寧に舌で転がされ、そして軽く甘噛みされて、体が大きく跳ねた。その瞬間、頭が真っ白になり呼吸が乱れる。
「イけたな。でも、へばるなよ。まだこれからだから」
息を荒らげて放心していると、彼は自分もボクサーブリーフを脱ぎ去り、一糸纏わぬ姿になった。
「挿れるぞ」
「待って、まだ……あん!」
彼ははちきれんばかりに大きくなったそれを蜜口にあて、軽く痙攣している私の中に送り込んでくる。すると再び強い快楽に襲われ、微弱な電流が駆け抜けたかのように、ガクッと体が揺れた。
「またイッたのか。敏感すぎ」
「違っ……」
抗議したものの、二度も連続して達してしまったのだからまったく説得力がない。
「このとろけた顔、すごく淫らだ」
「見ないで」
とんでもない指摘に逃げ出したい気持ちになり、手で顔を覆う。
「どうして? 興奮するけど」
彼は私の手をはがして、手の甲にキスをする。それだけでなく指先を口に含み、生温かい舌を絡ませてきた。
「ん……」
「どこに触れても感じるみたいだな。これはどう?」
見せつけるように舌を出し、私の指を一本一本舐め始める。
指先がこんなに敏感になるなんて知らなかった。体がゾクゾクして無意識に腰が動く。
「こんなんじゃ足りないか。好きなだけイけ」
「そんな……。はぁっ……」
私の手を解放した彼は、花溝を押し開くようにさらに進む。腰を押さえられて一気に最奥まで貫かれ、勝手に背がしなった。
「んあっ!」
「ああっ、たまらない」
とんでもない色香を纏い恍惚の表情を浮かべる彼は、私の頬に優しく触れて口づけをする。
「柳原さん……」
「どうした?」
「強く……強く抱きしめて」
なぜだかわからないけれど、そうしてほしい気分だった。
願いを聞き入れてくれた彼は、私の体をギュッと抱きしめて激しい律動を続ける。
「あっ、あっ……」
動きに合わせて声が漏れてしまい恥ずかしくてたまらないが、とても我慢できるものではなかった。
しばらくして動きを止めた彼は、つながったまま私をグイッと引っ張り上げて向き合って座る。
彼の額にうっすらと浮かぶ汗が、動きの激しさを物語っていた。
上司と淫らな行為をしていると自覚したらいたたまれなくなり、彼の首に手を回してピッタリくっついて顔を隠す。
「かわいいな、お前は。仕事中とは全然違う」
「柳原さんだって」
こんな甘い言葉を吐くなんて、誰も知らないはずだ。
「そうだな。これは俺とお前だけの秘密だ」
秘密だなんて、なんとなくくすぐったい。
「なぁ、朝まで抱きつぶしていい?」
「あ、朝?」
びっくりしすぎて離れると、「やっと、顔見せてくれた」と笑う。
「本気だけどね」
「えっ。あっ」
思いきり突き上げられた私は、それからまた甘い声をあげ続ける羽目になった。
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