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3章 とこしえの大地亀ベルガド攻略編
427 甦れ!ハリセンソウル
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「くそ! もはや戦いは避けられないか……」
歯ぎしりしながら、とりあえず殺意で目をぎらつかせている男相手に構えたが、内心はやはり、どうすりゃいいの感でいっぱいだった。逃げられるもんなら全力で逃げたいんだが? 物理攻撃無効の相手なんだし、俺に勝ち筋なさすぎなんだが?
いや、一か月前のことをよく思い出せ。確かあの時は、ユリィの魔法の神アシストがあったから勝てたじゃないか。つまり、今もそういう魔法のアシストがあれば……と、そう思ってちらっと魔法使いの女二人を見たら、
「無理よ」
と、こっちが何も言わないうちから即答されてしまった! ちょっと待てい!
「そんな、否定早すぎるだろ! お前らもなんか俺にできることあるだろ!」
「魔力がもうほとんど残ってないのよ、私たち」
「い、いや! 魔力なら近くの間抜けからテキトーに吸い上げて――」
「そのお間抜けさんは、今敵側にいるでしょう」
「あ、はい……」
ですよねー。これからその間抜けと戦うことになってるんでした。てへぺろっ。
しかし、魔法使い二人が役立たずとなると、もはや頼れる仲間はこいつしか……と、今度はヒューヴのほうを見た俺だったが、
「あー、悪い悪い。なんかもうブラストボウの矢が残ってないっぽいー」
と、一瞬で戦力外だと告白されてしまった! なにそれ!
「くそっ! これだから射撃キャラは!」
結局この場で俺以外誰も戦えないじゃん! 俺が一人で戦うしかない状況じゃん! この世界の命運がかかってるらしいのにさあ! くそがあ!
と、そのとき、
『マスター、ワタシにいい考えがありますぜ?』
と、頭の中で声が響いた。
「なんだよ? どう考えても八方ふさがりだろ、この状況?」
『ノンノン。ようは元の状態に戻せばいいんでさあ』
「元の状態?」
『そそ。あのウスラトンカチはいったん無視して、あの引きこもり爬虫類をワタシにサクっと食わせれば万事解決。世界は平和になり、ウスラトンカチがマスターと戦う理由もなくなって、万事解決! メデタシメデタシ――』
「いや、それやると俺がまた呪われるだろ」
『アッハ。呪いを恐れて何が勇者カー。とっとのあの爬虫類を食わせろマスター!』
「って、結局お前、ただ暴マー食いたいだけかよ!」
少しでもこんなやつの言葉に何か期待した俺がバカだった。機能はチートのくせに肝心なところで役に立たねえ。
やはり、俺一人で戦うしかないようだ、この状況。しかし、間抜けにはこっちの攻撃は一切効かないし、暴マーには効くんだけど一撃で即死させたらやばいし、一撃で即死させなきゃすぐ全快するし……考えるほどに何もできない……。
と、そのとき、俺は手に握っているゴミ魔剣がハリセンに見えた。
「……はっ!」
それはもちろん一瞬の幻だったが、俺の脳裏にある種のひらめきをもたらすものだった。
そう、「戦い」とは何も武器や拳をふるうだけのことではないと!
俺は思い出したのだ。あの日あの時あの場所で、ハリセンを振り回しながら叫んだ世界平和の言葉を! そうだ、武力や腕力に頼らず戦いを回避させることもまた、一種の「戦い」だ! それを俺の心の中にいるハリセン仮面氏は教えてくれたのだ!
「よし、ネム! 今すぐハリセンになれ!」
『エッ? なんっすか急に? 藪から棒にもほどがある』
「いいから!」
『ア、ハーイ』
ゴミ魔剣はすぐにその形をハリセンに変えた。それを握ると、やはりあのときの、平和を願う気持ちがふつふつとよみがえってくるようだった。
「さあ、行くぞ! 俺たちが争う理由はないと、あいつらに教えてやろうぜ!」
『ハア? ようするにあのウスラトンカチを説得するってことっすか?』
「まあ、そんなような感じだ!」
そうだ。ハリセン仮面氏は、実際にハリセン説得により、二つの国の戦争を終結させた実績があるんだ。二人の男と一匹の争いなんか、すぐ丸くおさめられるに違いない。違いないったらなーい!
「というわけで、先生よお? ここはひとつ、世界平和のことを考えて、俺と戦うのをあきらめてくれねえかよお?」
俺はさっそくリュクサンドールに平和の尊さを強く訴えかけた。ハリセンで自分の肩をポンポンと叩きながら、やや斜めに体を傾けて。
「平和ってやつぁ、かけがえのないもんなんだぜ? 失ってから初めて気づく系の大切さっていうか、やっぱ、イマドキは暴力では何も解決しないっていうか?」
「はあ?」
リュクサンドールは俺の言葉にぽかんとしているようだ。
「いいから、想像してごらんよ。争うのをやめれば、世界はきっとひとつになるんだ。お前は、俺を夢想家と言うのかもしれないけど?」
「? 世界が平和になったりひとつになって、何かいいことがあるんですか?」
「えっ」
「特にないですよね?」
「あ、あるさ! いいことだらけさあ!」
「具体的にはどんな?」
「どんなってそりゃ……なんかこう、笑顔の絶えない職場的な……」
「うーん、そういうのは呪術向きではないですし、いらないですねえ」
「いや! なんかもっとあるから絶対! ちょっと待って! 今思い出すから!」
やばい。こいつ、ナチュラルに頭おかしいから平和の尊さを訴えかけるハリセン説得が通用しない! まずいぞ、このままでは争いは避けられないじゃないか! どうなる平和の戦士ハリセン仮面! いや、今は仮面してないけど……。
歯ぎしりしながら、とりあえず殺意で目をぎらつかせている男相手に構えたが、内心はやはり、どうすりゃいいの感でいっぱいだった。逃げられるもんなら全力で逃げたいんだが? 物理攻撃無効の相手なんだし、俺に勝ち筋なさすぎなんだが?
いや、一か月前のことをよく思い出せ。確かあの時は、ユリィの魔法の神アシストがあったから勝てたじゃないか。つまり、今もそういう魔法のアシストがあれば……と、そう思ってちらっと魔法使いの女二人を見たら、
「無理よ」
と、こっちが何も言わないうちから即答されてしまった! ちょっと待てい!
「そんな、否定早すぎるだろ! お前らもなんか俺にできることあるだろ!」
「魔力がもうほとんど残ってないのよ、私たち」
「い、いや! 魔力なら近くの間抜けからテキトーに吸い上げて――」
「そのお間抜けさんは、今敵側にいるでしょう」
「あ、はい……」
ですよねー。これからその間抜けと戦うことになってるんでした。てへぺろっ。
しかし、魔法使い二人が役立たずとなると、もはや頼れる仲間はこいつしか……と、今度はヒューヴのほうを見た俺だったが、
「あー、悪い悪い。なんかもうブラストボウの矢が残ってないっぽいー」
と、一瞬で戦力外だと告白されてしまった! なにそれ!
「くそっ! これだから射撃キャラは!」
結局この場で俺以外誰も戦えないじゃん! 俺が一人で戦うしかない状況じゃん! この世界の命運がかかってるらしいのにさあ! くそがあ!
と、そのとき、
『マスター、ワタシにいい考えがありますぜ?』
と、頭の中で声が響いた。
「なんだよ? どう考えても八方ふさがりだろ、この状況?」
『ノンノン。ようは元の状態に戻せばいいんでさあ』
「元の状態?」
『そそ。あのウスラトンカチはいったん無視して、あの引きこもり爬虫類をワタシにサクっと食わせれば万事解決。世界は平和になり、ウスラトンカチがマスターと戦う理由もなくなって、万事解決! メデタシメデタシ――』
「いや、それやると俺がまた呪われるだろ」
『アッハ。呪いを恐れて何が勇者カー。とっとのあの爬虫類を食わせろマスター!』
「って、結局お前、ただ暴マー食いたいだけかよ!」
少しでもこんなやつの言葉に何か期待した俺がバカだった。機能はチートのくせに肝心なところで役に立たねえ。
やはり、俺一人で戦うしかないようだ、この状況。しかし、間抜けにはこっちの攻撃は一切効かないし、暴マーには効くんだけど一撃で即死させたらやばいし、一撃で即死させなきゃすぐ全快するし……考えるほどに何もできない……。
と、そのとき、俺は手に握っているゴミ魔剣がハリセンに見えた。
「……はっ!」
それはもちろん一瞬の幻だったが、俺の脳裏にある種のひらめきをもたらすものだった。
そう、「戦い」とは何も武器や拳をふるうだけのことではないと!
俺は思い出したのだ。あの日あの時あの場所で、ハリセンを振り回しながら叫んだ世界平和の言葉を! そうだ、武力や腕力に頼らず戦いを回避させることもまた、一種の「戦い」だ! それを俺の心の中にいるハリセン仮面氏は教えてくれたのだ!
「よし、ネム! 今すぐハリセンになれ!」
『エッ? なんっすか急に? 藪から棒にもほどがある』
「いいから!」
『ア、ハーイ』
ゴミ魔剣はすぐにその形をハリセンに変えた。それを握ると、やはりあのときの、平和を願う気持ちがふつふつとよみがえってくるようだった。
「さあ、行くぞ! 俺たちが争う理由はないと、あいつらに教えてやろうぜ!」
『ハア? ようするにあのウスラトンカチを説得するってことっすか?』
「まあ、そんなような感じだ!」
そうだ。ハリセン仮面氏は、実際にハリセン説得により、二つの国の戦争を終結させた実績があるんだ。二人の男と一匹の争いなんか、すぐ丸くおさめられるに違いない。違いないったらなーい!
「というわけで、先生よお? ここはひとつ、世界平和のことを考えて、俺と戦うのをあきらめてくれねえかよお?」
俺はさっそくリュクサンドールに平和の尊さを強く訴えかけた。ハリセンで自分の肩をポンポンと叩きながら、やや斜めに体を傾けて。
「平和ってやつぁ、かけがえのないもんなんだぜ? 失ってから初めて気づく系の大切さっていうか、やっぱ、イマドキは暴力では何も解決しないっていうか?」
「はあ?」
リュクサンドールは俺の言葉にぽかんとしているようだ。
「いいから、想像してごらんよ。争うのをやめれば、世界はきっとひとつになるんだ。お前は、俺を夢想家と言うのかもしれないけど?」
「? 世界が平和になったりひとつになって、何かいいことがあるんですか?」
「えっ」
「特にないですよね?」
「あ、あるさ! いいことだらけさあ!」
「具体的にはどんな?」
「どんなってそりゃ……なんかこう、笑顔の絶えない職場的な……」
「うーん、そういうのは呪術向きではないですし、いらないですねえ」
「いや! なんかもっとあるから絶対! ちょっと待って! 今思い出すから!」
やばい。こいつ、ナチュラルに頭おかしいから平和の尊さを訴えかけるハリセン説得が通用しない! まずいぞ、このままでは争いは避けられないじゃないか! どうなる平和の戦士ハリセン仮面! いや、今は仮面してないけど……。
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