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第4章 悠久を渡る「黒虚」の暇つぶし
61.そらをとぶ
しおりを挟む『ヒント、その2。
真実はいつも傍らにあるものだ。
ボクは人間を辞める前から性悪だった、多分きっと恐らく、自信はないけど。
それでも、世界の裏側に答えを置くだなんて、アンフェアな真似はしない』
【空駆ける小動物】
中学2年の秋、だったと思う。
その日、たまたま中学校の玄関で鉢合わせた僕と幼馴染……緑野 古都は、家が隣同士だからという理由で下校をともにした。
薄い雲が高くに棚引く秋空を眺めながら、空を飛んでみたい、と古都ちゃんは呟いた。
……あの。僕は幼馴染を古都ちゃんと呼んでいたんだ。物心ついた頃から、死んで以降もずっと。
思春期ならではと言うか、一度、周りの目を気にして「緑野」とか「古都」とかに呼び方を変えようか、と提案したことがあるんだけど。
幼馴染は「必要性を感じません。このままずっと古都ちゃんと呼んでください」とぴしゃりと却下&要求した。幼馴染の頑固さを知っていた僕は早々と白旗をあげ、古都ちゃん呼びを継続することにした。
話を戻すけど、古都ちゃんはとにかく、空を飛んでみたいと言ったわけだ。そしてそれを聞いて、僕はかなり驚いた。
何故なら、古都ちゃんは現実主義者だったから。
小学校の卒業文集。そこに掲載された彼女の作文には「お金にならない夢は見ません」と、大人びた美しい筆致で明記されていた。
ちょっぴり個性的でかなり寡黙だったから、古都ちゃんの友人はあまり多くなかった。けれど彼女は強かだった。嫌味にならない程度に容姿がよく、学問でも剣道部でも優秀な成績を収めていたから、彼女を真っ向からいじめてやろうと思う人間は、少なくとも僕の知る限りではいなかった。
周りが異世界での冒険を描いた漫画やアニメの話題で盛り上がる中、古都ちゃんは黙々と、将来役立つ資格を取得するために勉強していた。そんな彼女がいきなり、空を飛びたいなんて非現実的な発言をしたものだから、耳を疑うのも仕方がないと思うし、
『本気?』
理由を問う前にそう尋ねてしまったことも、まあまあ仕方がないと思う。
何より、古都ちゃん自身が賛同してくれたようで。
『……本気です、けれど』
古都ちゃんはお母さんの影響で、親しい相手とも敬語で話していた。
もうじき凍える季節を迎える、物悲しさのせいかも知れなかった。古都ちゃんは空を見上げたまま……彼女らしくないぼんやりとした調子で、その先をこう続けた。
『鳥のように空を羽ばたいてみたい。あくまでも、思うだけです。実際に飛ぼうとは思いません、だって……現実的ではありませんから』
彼女のためにデザインされたみたいに、よく似合っていたセーラー服。
いつも、左右で三つ編みにまとめていた純黒の髪。いつ見ても同じ長さに整えていたぱっつんの前髪が、秋風に左へ流れていた。
そうだよね、現実的じゃない。
でもね、古都ちゃん。
僕は異世界に転生した。そしてなんと、自分の翼で夕焼け色の兆した空を飛んでるよ。ただ、その感覚を文章化している余裕はないんだけど。
落ちるな落ちるな、前進するんだと、ひたすらに翼を……本来なら羽ばたく必要がない翼を、必死にバタバタしている状態だから。
ああ、カルカの街並みが近づいてきた!
本物だよね、幻じゃないよね……!?
目標地点は、とにかくレインくんの家だ。道順をはっきり覚えていないのが悔やまれるけど、外観は覚えてるから何とか探し出さないと。
恐らく「この姿」の僕の話を信じてくれるのは、くろと一緒にオウゼでの依頼をやり遂げてくれた3人だけだろう。
それに、こんなルールが設けられている。
『このゲームについて知る人物は5人以内でなければならない』
祈りを捧げる当てはないし、どんなに祈ったところで僕の飛行速度は変わらない。こんな、丸っこくて、何の自衛の手段も持たない生物の姿で、肉食の大型の鳥に襲われていないことがまず奇跡なんだ。
でも、焦らずには……
更なる奇跡を望まずにはいられない。
速く、早く。
あのどす黒い悪意に満ちた魔導士と接触したのは僕だけ。ルールを聞かされているのも、ヒントを受け取ることができるのも、僕だけなんだから……
『紅炎魔導士・零級』。
カルカを「碧水の大禍」から護った英雄のひとり。王国軍とともにオウゼの異常気象に立ち向かい、見事に解決した戦闘職員のひとり。
カルカ南西に位置する自宅周辺に留まっていたクロニア・アルテドットの生活範囲は、街のほぼ中央にあるギルド周辺まで広がった。
くろが世間知らずなのは、彼を育んでくれた大人達の意向による。
10年前、くろが僕であった頃の記憶を思い出してくれて、僕の自我は再生した。そして、ケラス教会の魔糸向鑑定術師によって、彼の「転生」は裏付けされた。
僕らの両親は歓喜の中でも冷静さを失わず、くろが自衛できるようになるまでは、その特異さについて秘しておこうと決めた。
そして、くろ自身にもそう言い聞かせた。まあ、喜んで欲しい一心で、すぐにフィーユちゃんにバラしちゃったわけだけど……
手の届く範囲から出すなと強調したのは、師である「碧水」サリヤせんせいだったみたいだ。サリヤ語での原文は「外へ出す一分一秒が惜しい、あの戯れた構えを疾く正させろ雑兵が」って雰囲気だったっぽいけど。
せんせいは『転生者』の存在を信じたくないみたいだったけれど、くろが宿す魔力が尋常じゃないことはすぐに見抜いたんだろう。
レインくんから聞いた話だけれど、膨大な魔力を持つ子供は闇市場で高値で取引されるらしい。王都で過ごした経験があるせんせいは、そういう悲しいニュースをうんざりするほど耳にしてきたんだと思う。
亡くなったお父さんを含む大人達の用心に護られ、くろは無事にカルカで成人を迎えることができた。サリヤせんせいから「心配いらない」と、お母さんを通してお墨付きももらった。
くろは普段、その強大すぎる魔力を、身体の内側に上手くしまい込んでいる。サリヤせんせいから無意識に技を盗み取ったのか、歩くときに足音や気配を消す癖もある。
ただ、一度目に留まったら、くろの容姿をすぐに忘れる人はあまりいないと思う。そして忘れなかった人達は、顔と名前を一致させるフェーズを迎えることになるわけで。
オウゼに向けてカルカを発つ前日に、くろはある母娘とささやかな交流をした。点かなくなったランプの光源に、自分の魔力を充填してあげたんだ。
オウゼから無事に帰り着いて……昨日のこと。待ち合わせの為にギルドへの出勤ルートを黙々と辿っていたくろを偶然見かけた彼女達は、くろのことを「英雄様」と呼んだ。
笑顔で手を振るだけのあたたかな応援だった。けれど、くろは酷く動揺したみたいで。
ギルドに到着するなり、
『京さん、すみません。少し剣舞を』
刃物を恐れる僕を気遣って事前に伝えてくれた。心の中に響かせる声にも感情は乗る、空気中に響かせる声よりも乗りやすいくらいだ。
「いいよ。申し訳なく思わなくて、大丈夫だからね」
僕は視覚の共有を止めた。このまま恐怖に目を塞いでいて良いのかな、そう思いながらも抗えなかった。
初対面の相手が、自分の顔も名前も知っていて、「できることしかできない」自分を過剰なまでに褒めてくれる。
ただでさえ……こう、酷めの人見知りを抱えた僕の魂の継承者は、オウゼで味わった居心地の悪さを故郷で克服しなくてはならない。
でも、善意の中にいることは悪いことじゃない。
それに彼は強いから。たとえ悪意に晒されたって、カルカにいる限りは何物にも害されずに済むだろう。
結論として、僕の考えは砂糖水のごとく甘かった。
敵はカルカの外側からやってきて、
『はじめまして、「紅炎」クン。
突然だけど、「誘拐」させろよ』
アルテドット家の敷地内に容易く潜り込み、僕らを連れ去ってみせたのだから。
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