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 今までにないくらい、気合を入れて描いた一枚。前世から結構凝り性なところがあって、いいものを、と思うといつまでも描けてしまうので、人にあげる絵は大きいサイズで描かない。
 それなのに、かなり時間をかけて描いたのを、今、思い出した。

 また褒めてくれるかな、と、当時はわくわくしていたのに、その日会った『シオンくん』は、しょんぼりと浮かない顔をしていて、耳もしっぽも分かりやすくしょげていた。
 初めて見る彼の様子に、何故か当時のわたしは絵を背に隠したようだ。もしかしたら、絵を見せる雰囲気じゃないと、察したのかもしれない。

「……もう会えないんだって」

 シオンくんが、ぽつりと呟く。

「僕、もう、ここに来れない」

「な、なんで?」

 焦るわたしの声。シオンくんはわたしの質問に答えなかったけど、今のわたしには分かる。おそらく、実母たちの活動が表ざたになり、問題になったに違いない。奴隷の獣人を保護している云々ならまだしも、戦争をしている敵国の獣人を招き入れていたことまでバレてしまったら、一大事である。連座で首が物理的に飛ぶ、とまではいかないが、それに準ずる罰が待っているに違いない。
 だからこそ、『シオンくん』はもう来ることができないのだ。

「――ララ、僕が大きくなったら、結婚してくれる?」

 ――あ。

「それで、戦争なんかやめさせて、僕の国と、ララの国が仲良しになるように頑張ろうよ。そうしたら、こうやって隠れて会わなくていいし、ずっと一緒に遊べるよ」

 ――あ、ああ……っ!

「……じゃあ、この絵、約束のしるしに、あげるね」

 記憶の中のわたしが、シオンくんに――シオンハイトに絵を渡す。廊下に飾ってあった、『シオンハイトの一番のお気に入りの絵』。

 どうしてこんなに、大事なことを忘れていたんだろうか。『異能』で忘れさせられたから仕方がない、なんて言いたくない。
 こんな大事な約束を忘れて、国から出たくないと必死になって婚約者を国内で探して。全部忘れて、シオンハイトの好意を突っぱねて。

 シオンハイトに謝りたくて、たまらなかった。それでも、これは消された記憶を再生しているだけだから、瞬き一つ、自由にならない。

「……もう一つ、約束の証に、シオンくんに秘密を教えてあげる。あのね――」

 ぽそぽそ、とシオンハイトの耳元で、わたしがささやく。自分の記憶だから分かる。何と言ったのか。

 ――人間の女の子はね、恋をすると『異能』が変わるんだよ。

「だから、わたし、色を載せるだけじゃなくて、色を変えることができるようになったの!」

 ――……そうだ。だから、シオンハイトは、普通の虎の色じゃなくて、ホワイトタイガーみたいな色なんだ。
 シオンハイトにねだられた過去のわたしが、彼の黄色を白に変えたから。
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