上 下
19 / 111

19

しおりを挟む
 オクトール様の言う通り、もっと近くの招待状も貰っている。――でも、二か月くらい、間を開けないと駄目なのだ。

「流石のわたしでも、婚約発表のパーティーの練習をしつつ、新しいドレスの制作に付き合って、その上で魔法道具の勉強までしようとしたら時間がかかりますわ」

 わたしが言うと、オクトール様は驚いたように目を丸くしていた。

「魔法道具の勉強? どうして」

「オクトール様が魔法道具の分野に強いからですわ。妻となるのに、何も知らないわけにはいかないでしょう」

 わたしは魔法道具の知識についてほとんど知らない。
 一応、ゲーム内の設定では、家電っぽいイメージの便利道具、という立ち位置になっている。
 現代でも使われる家電と同じ効果のものを出したいけれどそれだとファンタジー感が薄れてしまうので、それを防ぐためのご都合アイテムが魔法道具というものだった。とりあえず困ったら魔法道具ということにしておけ、というのが上からの指示だったけれど――そんな制作陣の裏事情を持ってくるわけにはいかない。
 だからこそ、一から勉強しないといけないわけで。

 この世界では、魔法は一般教養だけれど、魔法道具は専門的な分野である。使う側の勉強は通常の学校で習うものの、作る側の勉強は専門の学校に進学しないと学ぶことが出来ない。あとは本で独学か。
 魔法道具を作る道具師の資格試験に受かるほど、とまではこの短期間では無理だが、少なくとも、話を振られたら何の魔法道具の話をしているのか分かるくらいにはならないと、ろくな会話にもならない。

「べ、別に僕が知っているんだから、わざわざ勉強しなくても……」

「社交でオクトール様をフォローしようとするなら必須知識でしょう。それに、アインアルド王子に隠れて逢瀬を重ね想い合っていた、という設定ですから、魔法道具の分野で大活躍している貴方のそばにいて、全く知識がないというのも不自然でしょう」

 好きな人が好きなものや好きなことは気になるのが普通だと思うのだ。それが自分も好きになるかどうかはまた別の話だけれど。

 でも、本当は好きあっていた、という設定を貫くなら多少は知っていた方が自然だと思う。
 この二か月、どこまで独学で知識を伸ばせるか不安ではあるが……まあ、魔法の知識は十分あるので、そこまで悲惨なことにはならないはず……たぶん。

 わたしの説明に少し考え込んでいた素振りのオクトール様が口を開く。……もしかして、独学でっていうのは、そんなに難しいことなんだろうか。
 しかし、オクトール様の言葉は、わたしの予想に反するものだった。

「――それじゃあ、僕が教えようか?」

 ――なんていう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

クラスカースト頂点のギャルに復讐するためにリア充目指します

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:10

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:50,972pt お気に入り:6,803

最低な夫がついに浮気をしました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,782pt お気に入り:352

公爵子息の母親になりました(仮)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,221pt お気に入り:3,339

幼馴染みを優先する婚約者にはうんざりだ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:433pt お気に入り:7,379

転生した悪役令嬢の断罪

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,792pt お気に入り:1,576

異世界転生してみたら知ってる名前の奴がいた。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:5

処理中です...