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デートの巻 陸

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 相当の騒ぎのあと、劇場を後にする。

 マチ子さんには、「今度は会長抜きで来てね」と、耳打ちをされた。最後まで潤くんは、死に顔をキープしていたので、明日の公演が心配になったが、有紗さんが「大丈夫。潤くんもプロだからね」っとフォローしていた。

 劇場を出てきても、まだ蓮司会長に手を握られている。

 ベントレーが目の前に現れる。

 「ずっと座っていたから、歩きたいか? ちょっとこれから車でまた連れて行きたいところがあるけど、どうだ?」

 ああ、この笑みですか? また甘々の蓮司と正面対決だ。辛い。

 「大丈夫ですよ。ちょっと喉が乾いたけど」
 「車の中に色々あるぞ」

 車内に乗り込んだ私達だっだが、何が飲みたいと聞く蓮司に、ちょっとソーダ的なさっぱりとした物がありませんかと聞くと、クランベリージュースと炭酸水を割って、クランベリーソーダを作ってくれた。上にはミントも載っている。動いている車内でこんなのを作れる会長は本当に器用かもしれない。

 はあ、やっと手を離された。あ、美味しい。さっぱりとした甘みと酸味が乾いた喉を潤す。
 今度は隣の方が息を吐く。

 「はぁーー、あのショウをお前に見せるのは緊張したから、ちょっとだけ飲んでいいか?」

 私に見せるのに緊張していただなんて、思わぬ告白を聞いたからちょっと驚く。

 「もちろんですよ。どうぞどうぞ」
 「ありがとう」

 車の中に内蔵されている扉を開いた。蓮司はガラスの装飾が綺麗なボトルから、グラスに中身を注ぐ。そして、透明の美しい琥珀色した液体に大きな球体のアイスボールを入れた。何度かマドラーでかき混ぜた後、ゆっくりとその舌でその味を確かめる。動作がいちいち優雅で色気がある。

 「ん……む」

 お味がお気に召したようで、その表情も多少和らいだ。

 「好きなんですね。そのお酒?」
 「ああ、これはバーボンだ。ウィスキーのな」
 「おまえは、まだ早いというか何というか、危ないな。今はまだ早い」

 劇を観たばかりの冷めやらぬ感動をお互いに感じながら、いろいろくだらない話を始める。

 「あのマチ子さんって結構強烈ですね」
 「ああ、アレは結構業界では信頼されている監督だ」
 「そうなんですか? 全く知りませんでした」
 「まあ、実は日本人なんだが、ニューヨークで活動していたんだがな、俺が引き抜いてきた」
 「え? そうなんですか?」

 答える代わりにまたバーボンを一口飲みながら、ちょっと目線を美代に合わせた。
 その後、まるで本当のデートみたいにお互いが何が好きか聞いていく。何だかこれはこれで、かなり恥ずかしい作業だ。なぜなら、いちいちお互いの好みを照らし合わせていくような感じで、何だかメンタル的にクルものがある。

 「そうか、美代はやっぱりおばあちゃん趣味なんだな」
 「な! そんな全国の手芸ファンと漬物ファンを敵に回しましたよ!」
 「あははは。そんな敵になんかしないぞ。むしろ、好ましい」
 「じゃー、蓮司会長の趣味って何ですか?」
 「んーー、ないな」
 「え? ないの?」
 「ない」
 驚いて美代が蓮司を見つめた。
 「そうなんですか?」
 「ありきたりで悪いが、趣味が仕事なんだ。仕事にみんな直結しているしな」
 「大変ですね」
 「あ、でもな」
 「な、なんですか?」
 「今回のショウのプロデュースは、完全に趣味というか遊びかな」
 「えええ? 遊びであんなの作っちゃうなんて、蓮司会長は、本当に趣味が仕事なんですね」

 なぜかその言葉に反応する蓮司。

 「気づいて欲しいと思ってあえて細いことは言わなかったが、本当にあのショウを見て、何もわからないのか?」
 「え? 何をですか?」
 「だから、俺がプロデュースしたんだ」
 「さ、流石ですよね~~。有紗さんを起用したのは大正解でした」
 「しかも、業界始まって以来の短期間で作ったんだぞ」
 「はーーーっ。やりますねー。会長!!」

 蓮司は今まで感じたことのないようなイライラを感じた。

ーーなんでだ? 気がつかない? どれだけ鈍いんだ。美代は??

 ああ、自分でも笑ってしまうが、美代と時間を過ごしていると、忘れていた人間的な感情が湧いてくる。これは、自分でもわかる。俺は拗ねているんだ。美代に認められて褒めて欲しいっと思ってしまう。
 ごくっとまた琥珀色の液体を飲み、不貞腐れた自分が抑えられなくて車外の景色を見る。
 沈黙が続く。

 「あれ? 気分を害されましたか? 会長?」
 「……悪い。そうかもしれん」
 「……わかりました。何に気分を害されたかはわかりませんが、私は楽しかったですよ、あのショウは。本当に夢物語で、今日はありがとうございました。わざわざ蓮司会長のコネというか、あんな素晴らしい席で、蓮司会長のプロデュースのショウまで観れて幸せでした。しかも、有紗さんのまでお会いできて最高でしたよ。じゃー、あまり会長のご機嫌も悪いようなので、これでお開きにしますか?」

 「な、何を言う、美代!」っと言いながら、ガタッと身を突然起こした蓮司のウィスキーが勢いよく溢れた。美代の足元にびっちゃりとかかってしまう。
 「悪い!すまん!!」
 「ああーー!でも、大丈夫ですよ。乾くし!ワンピースは無事だし」

 何故か悪戯なことを考えてるのが有り有りとわかる蓮司が、美代を上目遣いで見つめる。

 「美代。動くな。このウィスキーは、実はかなりのレアものでな。勿体ないな」

 そして、ぐいっとそのウィスキーがかかった片足の足首を掴みあげられる。

ーーえええ?何ですか?

 思わずパンツが見えないようにスカートの裾を抑えた。
 片足の靴をゆっくり取り、そして、何かとっても美味しそうなものが目の前にあるようにじっくりと美代の足を眺める。

 「蓮司会長!!その、あの、これって」
 「大丈夫、痛くしない。ちょっとウィスキーを味あわせてくれ……」

 ローヒールの靴を何故かゆっくりとした動作で取り上げる。

ーーな、何??そのまるで獲物を狙うような目線!!

 蓮司の怪しい両手が美代の片足を包む。

ーーえええ? 舐めるの? 足、舐めちゃうの?そんな高いウィスキーなの? お幾らなんですか、このウィスキー?

 蓮司が美代の足の指にキスを落としながら、滴っているウィスキーを舐めていく。舌に絡めながら、液体を吸い取る。

 「ぎゃーーー、無理です。会長。無理! 足なんて臭いですから! 申し訳ないですが、いくらお高いウィスキーも足臭で、絶対に不味いです。諦めてください!」
 「大丈夫。美代。美味しいから」

 蓮司の妖麗な舌使いが美代の足首を上がってきた。

 「ああ、なんて甘い。最高だ」

 蓮司が美代の足の味を堪能している。

 「か、会長! ギブです。ギブアップです。おかしいです、絶対に!」
 「大丈夫だ。美代。頑張れ……嗚呼、なんて可愛い」
 「ひ、可愛い!? ウィスキーに可愛いって変ですよ。ヒョーーーーっ。あれっ、なんか違うとこ舐めてませんか」
 「美代。このウィスキーはすでに生産停止のやつだ。匂いだけでもその価値があるんだ」

ーーか、会長! そんなーー!

 「ああ、このストッキングが邪魔だな。破いていいか?」
 「え! キープでお願いします。靴擦れ出来るし勿体ないですから!! キープ、死守でお願いします」

 ふふふっと悪魔の様な笑みが美代を震えさせた。
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