僕とネコと君

槇瀬陽翔

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第3話

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結局、知宙は櫂莉の家で晩ご飯をご馳走になった。

「知宙くん、ごめんね。好き嫌いとか聞かずにご飯作っちゃって大丈夫だった?」
ご飯を食べ終えてから美都が思い出したように聞いてくるので
「好き嫌いはない方なんで大丈夫です。それに久しぶり手料理が食べれて嬉しかったし、美味しかったです」
知宙は好き嫌いもなく美味しく食べれたと素直に本当の気持ちを口にする。

その言葉を聞き櫂莉も、美都も思うことがあったが、あえてそれにはふれず
「本当、よかった」
美都は小さく笑い後片付けをしに行く。櫂莉は
「少しの間、チビども見ててくれ」
知宙にそう告げて何処かへと行ってしまう。

知宙は子猫の傍に行き箱の中を覗き込んだ。

濡れた身体もしっかりと乾かし冷えないように暖めておいた。食欲旺盛な2匹は離乳食をたっぷりと食べて2匹寄り添い寝ていた。

「可愛いなぁ。あっ、名前考えなきゃ」
寝ている2匹を見ながら呟いていた。

知宙は子猫を見ながらボンヤリと考え事をしてしまった。

初めて、他の人の家でご飯を食べてゆっくりしたなと…。
親友と呼べる人物など子供の頃からいなかったので、友達の家へ行くということもしたことがなかったのだ。

それなのに、まともに会話をしたことがないクラスメイトの家に今、知宙はいるのだ。それも晩ご飯までご馳走になって。

初めての経験を今日しているのだ。

それが嬉しくて、自然と知宙の頬が緩む。こんな経験などすることがないと思っていたのだ。

子猫を見ていたので知宙は気づいていなかった。嬉しそうに頬を緩ませている知宙を櫂莉と美都が小さく笑いながら見ていることに。

「薗畑、もう遅いし送る」
櫂莉は知宙を送ると声をかける。
「えっ?あっ、大丈夫。自分で帰れるよ」
知宙は送ってもらうのは悪いと断るが

「お前、この辺の地理は詳しくないだろ?初めて来た場所なんだし迷子になるぞ」
櫂莉の言葉にあっと小さな声を上げる。そう、本当に初めて来た場所だったからだ。

引っ越しをしてきて知宙は本当に学校と家までの道しか覚えていないのだ。家の近所にコンビニがあるので、遠くに行く必要もないし、出掛けることもしないのだ。

「ほら、制服とか洗って乾かしといたからな」
櫂莉は紙袋を知宙に差し出す。
「えっ?あっ、ありがとう」
知宙は驚きながらもそれを受け取り中身を確認してお礼を口にする。

「今きてる服、返すのは何時でもいいからね」
美都に言われて今自分がきてるのは借りてる服なんだと思い出した知宙は
「ありがとうございます。洗って返します」
ぺこりと頭を下げる。

「また、遊びに来てね」
美都はそんな知宙に笑いながらいう。知宙は驚いた顔を見せたが
「はい、ぜひ」
嬉しそうに返事をした。

「姉貴、悪いけどチビども頼むな。ちょっと行ってくる」
櫂莉は美都に子猫のことを頼み知宙と連れて家を出た。外に出ればあれだけ降っていた雨はやみ星空が広がっていた。



櫂莉はとりあえず動物病院の方へ向かって歩きながら
「薗畑お前がいた公園からどっち方面に家がある?」
家のある方向を聞けば
「えっと、動物病院の前の信号を左に曲がって少し歩けばアパートがあるから」
知宙は動物病院の近くだと答えた。そう、2人が住んでいる場所は意外に近かったのだ。

「なぁ、薗畑って学校が終わってから暇か?なんかやってることとかあるのか?」
櫂莉は少し考えながら知宙に聞いてみる。
「えっと、俺は終わったらすぐ家に帰るから…。何もやってないし、行くところもないから…」
そう、知宙はバイトをする気にもなれず、学校が終わったら家に帰ってひきこもるのだ。親友と呼べる人物を作ってこなかったので当たり前である。

「じゃぁ、うちでアルバイトしねぇか?つっても金はやれねぇけど飯ぐらいは出してやる」
櫂莉はある提案をしてみた。
「えっ?アルバイトって何を?」
知宙にとっては驚きが一杯である。

「あー、あのチビどものベビーシッターなんかやりませんかね?そうすれば薗畑もあいつらの成長が見れるだろ?」
櫂莉の言葉に知宙は驚いた顔を見せる。
「いっ、いいのか?迷惑になるんじゃないのか?」
知宙は驚きで一杯だ。そんなことを言ってもらえるとは思ってもみなかったのだ。そこまで親しくないのに、そんなことを言ってくれることが嬉しくて、でも迷惑じゃないのかとも思った。

「いや、手伝ってもらう方が俺的には助かる。俺もずっとあいつらの相手ばっかりしてやれねぇからな。俺にもやらなきゃいけねぇことがあるし、その間だけでも相手してくれてると俺は助かる」
櫂莉はハッキリと迷惑じゃないと言い切る。それどころか手伝ってもらったほうが助かると言い切った。
「あっ、じゃぁ行く。でも、いつまでやれるかわからないけど…」
知宙は勢いよく返事をしたが、いつ自分がまた引っ越すかわからないことを思い出した。

「よし、交渉成立。薗畑がやれる時まででいい。それまで手伝ってくれ」
「うん、わかった」
櫂莉の言葉に知宙は嬉しそうに返事をした。


「あっ、藍原ありがとう。ここまでで大丈夫だよ。あそこにアパート見えてるから」
知宙は話しながら、櫂莉が家の近くまで送ってくれたので、もう大丈夫だと言えば
「わかった。明日、来るなら着替えもって来いよ。次の休みだから泊まっていけ。で、次の日にチビどものおもちゃとか買いに行くぞ」
明日や明後日のことまで言われてますます知宙は驚いた。

「あっ、ありがとう。じゃぁ学校から帰ったら準備していくよ」
知宙ははにかんだ笑みを浮かべて答える。
「おう。あー、薗畑、連絡先の交換しようぜ。明日お前が道に迷ったら迎えにいけねぇから」
櫂莉は唐突に連絡先を交換しようと言い携帯を取り出す。知宙も慌てて取り出し、櫂莉と連絡先を交換した。

「じゃぁな」
「うん、ありがとう」
櫂莉は小さく手を上げて帰って行った。知宙は櫂莉の背が小さくなるまでその場所で見送り自分も家に帰ったのだった。


この日、知宙は人生で初めて、他人の家でゆっくりとした時間を過ごした。そして、今まで経験したことなかった時間を体験して嬉しくて、小さな幸せをかみしめていた。


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