会長様ははらみたい

槇瀬光琉

文字の大きさ
上 下
3 / 18

3話

しおりを挟む
「永尾には、このまま言わないつもりでいるのか?」
風紀の顧問の後藤が静かに神谷に問う。神谷は俯いたまま小さく頷く。が、
「神谷の気持ちはわかる。だけど、永尾には責任がある。だからちゃんと言わないとだめだ」
生徒会の顧問の呉崎が告げる。呉崎が言ってることは正しい。だが、神谷は頑なに首を振りそれを拒絶する。


「神谷、言いたくない気持ちはわかる。だが、神谷のお腹の中に宿った子を産むにしても、産まないにしても永尾にはその事実を知る権利がある。それに…」
「もし、産まないと決めたのなら…タイムリミットがあるんだよ。だからね…」
拓輝や滉也さんも神谷を諭すようにいう。それは校医としての意見。でも、やっぱり神谷は拒絶する。


「神谷はどうしてそんなに永尾に言いたくないんだ?」
不思議そうな顔をして聖が聞いた。神谷は首を振るだけで何も答えない。その原因は一つ…。


「永尾自身が原因だ」
その理由がわかる俺としてはこれを口にするのはどうするかと悩むが、これを言わなければここにいる全員は神谷に永尾に話せというだろう。


俺の一言で、全員が俺の方を見る。


「どういうこと?」
俺に滉也さんが聞いてくる。
「神谷、話してもいいか?」
神谷本人に確認してからじゃなければ話せない。神谷は小さく頷いた。


「永尾に問題があるというよりもあいつの家に問題があると言った方がいいんだが…。あいつの実家には勝手に決められた許嫁がいるんだ」
俺の言葉に
「はぁ??」
みんなが変な声を上げた。

「いや、いや、ちょっと待て神尾、許嫁がいる奴が神谷に手を出したのか?」
後藤がマジかと言わんばかりに聞いてくる。
「あ…永尾って確かいいとこの坊ちゃんだったよな大我?」
聖が思い出したかのように聞いてくる。


あぁ、そういう情報はちゃんと覚えてたんだな。


「そう、あいつの実家は界隈では有名な大手建設会社の永尾建設だ。父親はそれほどでもないが母親が厳しい人で、嫁は自分が選んだ相手じゃないと許さんって人らしんだ」
そこまで口にして
「要するに母親が勝手に決めた許嫁がいて、自分は永尾と一緒になれないから言わないってことか?」
呉崎が神谷じゃなく俺に聞いてくる。

「言わないんじゃなくて、言えないんだ。神谷は永尾に言えないから言わない。永尾が実家に逆らうことが許されないから、言わないと決めた。だろ?」
神谷に問いかければ小さく頷いた。
「でも…その子をどうするつもりなの?」
滉也さんが静かに聞く。

「滉也さん、待った。今はそれを聞かないでやってくれ」
俺は神谷にそれを聞かないようにお願いする。なんでだよってみんなが俺の方を見て視線だけで訴えてくる。
「俺の話に続きがあるからだよ。永尾は決して遊びで神谷と付き合ってるわけじゃない。それは神谷自身もわかってる。それに…俺の番が聖であるように、永尾の番は神谷だ」
その言葉に神谷も驚き涙で濡れた目で俺を見る。

「お前…そっちの嗅覚もあるのか…」
拓輝が驚きながらも溜め息をつく。
「おかげさまで、最近、この二人の恋愛相談を受けてて気が付いた。俺と聖と同じだって。まぁ、それはいいとして、神谷自身もそれは気付いてるんだろ?」
そこは確認したかった。神谷は頷く。

「じゃぁ、永尾くんは知ってるのそれ?」
滉也さんの言葉に神谷は首を振る。
「あのバカは気が付いてねぇのかよ。あー、でもあいつ変なところで鈍感だったわ…」
神谷の答えを聞いて俺は呆れたが、永尾が変なところで鈍感だったのを思い出した。

「大ちゃん…それを言ったら…」
滉也さんも思い当たる節があったのかそういう。
「あー、確かに。人の気持ちがわからないときあったなあいつ」
拓輝までもいう。

「いや、だからひろくんもね…」
普段のやり取りになってる辺り滉也さんも動揺してるなこれは…。

「神谷、これは風紀委員長としてお前に聞く、お前の永尾と話したくない、会いたくないという気持ちはわかった。その気持ちは尊重し、あいつに神谷との接触禁止令を発動させることは可能だ、だが、お前自身が考えて、答えを出すまでの時間しかそれは叶えることはできない。それでもお前はあいつに接近禁止令を発動させたいか?」
委員長として発言はこの場所にいる誰もが反論できない。それは第2の性に関してはすべての権限を風紀委員長が持っているからだ。

「…僕は…それでも…彼に会いたくはない…」
神谷からの返事に
「校医の二人に聞く、神谷のお腹の子のタイムリミットは?」
今度は2人に聞く。

「あんまりこういうことは言いたくないけど、その子を下ろすなら5ヵ月まで」
「それ以上は、産んで育てることを覚悟しろ」
2人の強い言葉。命の大切さを知っていてもらいたいからこその言葉。例え、それが望んでいなかったとしても…。


「神谷、いずれ永尾にはちゃんと話さないといけない。そのお腹の子は神谷と永尾の子だ。永尾には知る権利もあるし、永尾自身が実家のことを含めて覚悟を決める必要がある。それはわかるだろ?」
俺の言葉に小さく頷く。
「永尾に話して、拒絶されたらとかって最悪なことを考えるのもわかる。だけど、永尾は神谷が好きになった相手だろ?人前では弱さを見せないお前が、唯一、己の弱さを見せれる相手だろ?」
俺の言葉に涙を流しながら神谷は何度も頷く。

「1ヶ月、1ヶ月だけしか時間はやれないが、あいつには風紀委員長としての権限で接近禁止令を発動する。だから、その間にちゃんと自分自身と向き合って、永尾のことや、お腹の子のことをしっかり考えて欲しい」
俺はそれだけ神谷に告げた。

「神谷的にはそれでいいのか?」
後藤の言葉はある意味、最終確認だ。俺が決定を出してしまえばそれは覆すことができない。それがこの第2の性に関しての権限。

「…はい…僕はそれでいいです…」
少し考えて神谷が答える。
「なら、本日、この時間より神谷本人の申し出により永尾健汰に対して神谷静哉せいやへの接近禁止令を発動する。ただし、期限は1ヶ月間。これにより神谷静哉は風紀委員により保護対象となる」
これは決定。この場で、永尾に対して、神谷への接近禁止が確定した。


神谷はその言葉を聞きホッと息を吐き、他のみんなは溜め息をつく。


聖は複雑な顔をしていた。


これから、神谷、永尾と色々と話さないとならないだろう。


色々と頭の中で考えながら俺はまた深い溜め息をついた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

男ふたなりな嫁は二人の夫に愛されています

BL / 連載中 24h.ポイント:1,881pt お気に入り:137

極道恋事情

BL / 連載中 24h.ポイント:2,102pt お気に入り:778

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:18,516pt お気に入り:7,956

悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

BL / 連載中 24h.ポイント:4,764pt お気に入り:10,289

身代わりの花は甘やかに溶かされる

BL / 完結 24h.ポイント:475pt お気に入り:3,187

処理中です...