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これだから脳筋は…

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「さぁ! この魔法陣に魔力を注げ! それが穀潰しの貴様に与えられる唯一の仕事だ!」

「…………」

 …何言ってんだコイツ…。本当頭弱いな…。






 新たな勇者召喚を頑張ってるところを覗き見てから数日経った夜。
 相変わらず監禁部屋で大人しく地味な魔法練習に勤しむ毎日を過ごしていたわけだが…何や知ってる気配が近づいて来てんな、と感じた私は、素早く元の服に着替え(もうちょっとしたら寝ようと思って寝巻き着てた)、背中側にポーチもつける。
 んで、大人しく例の本エセ神話を開いて読んでるフリをしたところで勢いよく扉が開き、騎士服のお兄さんが突入してきたので視線を向けた。
 後ろにはあの時の白い服のオッサンも居たけど、何か顔色悪いね。寝不足?

「…ついて来い」

 そのまま訪問者を眺めていたら、騎士服のお兄さんが一言。中々良い声ですね。言ってる内容には腹立つけど。
 まぁ騎士脳筋には何言っても無駄ですよねー(偏見)
 大人しくついていきましたよ。久々の外ですね。あの後も夜の外出してたけども。鉄格子、曲げすぎてそろそろポッキリいきそうだけど。

 …で。

 連れてこられたのは例の教会。今日は正面から入ります。
 奥へ奥へと暗い廊下を騎士のお兄さんの持つ燭台の灯りを頼りに進む。
 まるで隠されているかのように、壁と同じ色合いの小さめの扉のを開くと…

 あの魔法陣のある空間が。

 あー、あのクソデカイ女神像ぶっ壊したい…

「やっときたか穀潰し!」

 とか、考えてたら、とても不快な一言が飛んできたわけですよ。穀潰しって…勝手に呼んどいてどう言う了見だ? ケンカ売ってんのか? 言い値で買うぞ? と、心の中で毒づく。口には出しませんとも。お子ちゃま擬態中ですから。

 どうやらどれだけ頑張っても召喚陣は動かないし、何より付き合わされた魔法師たちが限界らしい。
 そりゃそうだろ。無駄に魔力使いまくってんだもん。

 そんな中思い出した私の存在。

 文献(あるらしいよ。今まで呼ばれた人たちの記録と言うか英雄譚的なモノが)では、呼び出さた『勇者』は膨大な魔力を誇ったそうだ。その上、基本的にすぐに何らかの能力を示したらしい。

 …きっと、自己顕示欲強め特定の病の方ばっかり呼んでたんでしょうね…(遠い目)

 と、言うことで、何も出来そうに無い穀潰しだけど、魔力は高かろうから、魔法師たちの代わりに限界まで召喚陣に魔力を注げ、との事である。


 …ふざけるのも大概にしてほしいですねぇ…


 勝手に呼び出して、勝手に無能扱いして、勝手に不要者にして…奉仕だけしろとか。

 怒りが込み上げてくる。
 本当、あの女神に毒されてるだけあるわ。
 どこまでも自分勝手。他人の都合なんて考えやしない。

(…そっちがその気なら…こっちだって好きにしてやんよ)

 私は、召喚陣へ近づいて…


 『神力』を流し込んだ。






 この『世界』の『女神』が、大切な眷族である『ヒト』に与えた『召喚陣』。
 『言語チート』のおかげか、亜神化のおかげか、陣を読み解く事ができる。目についたのは『不壊』の文字。
 ただの魔力やそんじょそこらの攻撃ではノーダメージだろう。

 だからこその、『神力』。

 ヤツの『加護』付きの陣なんぞ、ぶち壊してやるわ!!
 どうせもう異世界の人が召ばれる誘拐される事は無いのだから、あっても無用の長物だしね。

 恐らく他の面々には光で見えていないだろうが、陣には順調に亀裂が入っている。
 よーしよしいい感じだぞー。ギャラリーは前とちょっと光の色が違う! とか、成功か?! とか騒いでるけど、残念ながら今からコレは壊れちゃいまーす☆

(ふはは、ざまぁ《見つけたーーっ!!》…ん?)

「なっ…何だ?! 何がっ…うわぁぁっ!!」

 心の中で高笑いしてたところに…何か聞こえたな。
 何だ何だ? うぉっ、揺れるー!! 地震?! かと思ったら…

 ドゴグシャガラガラガラッ!!

 グオオォォォッ!!《やっとこさ見つけたっスよー!!》

「…………」

 いきなり凄まじい音と共に天井が崩れてきた。飛び退いて見上げた先…大きな穴が空いた屋根から…夜空ではなく…

 漆黒のドデカいトカゲの顔が…。

「…………」

 ギャオォギャォグアォッ!《創造主さまからお願いされたっス! お迎えに来たっス!!》

「…………」

 思わず遠い目になった。
 言語チート…いい仕事してますねぇ☆とか言うと思ったか!!

 でもお迎えはありがとう! 探してくれてたんだねありがとう! そういやお兄さんが暗黒竜くんをお供につけるとか言ってたね!
 だけどね…?

 登場の仕方考えよう?!

 ほんっと、コレだから脳筋はっ!!!(怒)






「うわあぁぁぁ!! ドっ、ドラゴンだあぁ!!」
「逃げろっ! 食われるっ…!!」
「ひえぇぇぇえっ!!」

 ドップラー効果もかくやという速度で皆逃げちゃいましたねぇ…。とりあえず誰も怪我とかして無さそう。元気に逃走。

 …誰一人、私の心配をせずに。

「…まぁ好都合っちゃ好都合だが…」

 勝手に呼んで、勝手に期待して、勝手に落胆して、勝手に役立たずの烙印を押して、勝手に消耗させようとして…

 最終的には放置かよ。ため息しか出んわ。


「…お兄さんリュドミラードさんの眷族の暗黒竜くん?」
 ギャウッ!《そうっス!》
「…とりあえず…この場所からは去ろうと思うんだけどさ。その前に…」

 この女神像と召喚陣、ぶっ潰して行こうぜ☆






 静かな夜の帳が下りる刻限…凄まじい轟音がそのしじまを切り裂いた。
 人々は驚愕して飛び起き、ある者は逃げ出そうと荷物をまとめ、ある者は物陰に縮こまり、ある者は原因を追求しようと外へ飛び出した。
 幾人かは夜空と同じ色の巨大な影を目にしたが、それも一時の事、それが何だったのかを知る前に眼前から遠のいた。
 その後はそれまでと同じ、静寂が支配する宵闇の刻が戻り、誰も彼もが首を捻りながら寝床へと戻って行った。

 翌日、陽の光が辺りを照らし出した頃…人々は違和感を覚えた。いつもなら規則正しく響き渡るはずの、時を告げる鐘が鳴らない。
 不思議に思った者たちが、教会がある方を見たり、教会へ足を運んだりした。その者たちが目にしたのは…


 原型をとどめていない…完全な瓦礫と化した、教会であっただろうモノだった。


 何があったのか、と言う事は、何処からも正しい情報が回ることは無く、さまざまな憶測が飛び交ったが、結局、『原因不明』で抑えられた。
 例え、巨大な足跡を見つけた者から、未知の魔獣が教会を襲った、とか、何かしらの儀式をしくじって女神の天罰をくらった、とか、さまざまな噂が駆け巡っても…国は、どれも肯定することは無く、また一切の関与を否定し続けた。






 とある時期を境に、女神から賜った『召喚陣』が使えなくなった。その事に、教会のみならず、その存在を知っていた国々は女神の恩寵を失ったのでは、と慌てふためく事になる。
 しかし、表立って騒ぎ立てることもできず、真相が解き明かされることなく、静かにその存在は闇に葬られる事となった。
 もちろん、最後に召喚を行なったと言われた国も、『女神の寵児』を招く事叶わず、と公表し、一人の子どもが招びだされ、また、消息不明になったことが表沙汰になる事は一切無かったーーー
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