絶望しかない迷宮に落とされたけど、非戦闘スキルを活用して生き延びる~識別、融合、そしてシナジー!

冴吹稔

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終りなき解体場

廃嫡だけで済むなんて、思ってたけど甘かった

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「そおら、着いたぜ坊っちゃん。地獄の一丁目にご案内だ!」

 屋根なし荷馬車の荷台に転がされたケイスの耳元に、そんなだみ声が叩き付けられた。
 護送につけられた「兵士」の口元からえた酒臭い息が匂う。たぶん正規兵ではなく、臨時雇いのごろつきなのだろうが、そんなことは今さらどうでもよかった。
 目隠しを取ってもらえないまま、馬車から引きずり降ろされる。前方で重い物が軋んで動く音が聞こえ、そちらへと歩かされる間にケイスは都合三回、ごつごつした拳で背中を小突かれた。
 
「……ここは?」

 ケイスは咳き込みながらようやっと一言だけ搾りだした。猿轡さるぐつわは取り外されているが、長口舌を振るうだけの気力はもう残っていない。

「分かってんだろ? 『解体場』だよ。あんたはここに閉じ込められる。そして遅かれ早かれ死ぬのさ」

「……」

 兵士たちがどっと沸いてケイスを嘲笑あざわらう。
 この兵士たちに捕まって荷馬車に載せられる時点で、説明というか宣告は受けていた。それでもケイスは一縷の望みをこめて訊かずにはいられなかった。

 まだ目隠しは付けたままだが、かなり重い荷物を手の中に押し付けられたのが分かった。
 
「あんたのおっ母さんがな――いや、継母だったか。お弁当と戦道具を持っていきなさい、とよ」

 からかうような言い草に、また笑い声が上がる。ケイスは唇をゆがめてその嘲笑をやり過ごした。
 戦道具というからには武器や防具だろう。自分はこれから、この物騒な名前の迷宮に一人っきりで放り込まれるのだ。
 だが、ケイスには武器を振り回したり戦ったりすることについてはおよそ何の素質も天分もない。だから、最低限の訓練も受けさせられてはいないのだった。
 要するに押し付けられたこの荷物は、ただただこの迷宮の奥で死ぬまでの苦しみを長引かせるための物であるにすぎない。肌を撫でていく風の感触が消え、目隠し越しでも周囲が一段暗くなったと感じたその瞬間、何か柔らかく重いものが後頭部にたたきつけられた。
 
 それっきりケイスは意識を失った。
 

         * * * * * * *
         
         
 ケイス・ファーレンハイトは、王国騎士団長を勤めるランドローズ伯爵、カルショット・ファーレンハイトの嫡子として生まれた。
 実母譲りの秀麗な容姿と明晰な頭脳で幼いころから一族の期待を集める子供だったが――十五歳の春、神殿に赴いての「恩寵鑑別の儀」において、全てが覆り地に落ちる運命となった。

 この世界では、全ての子供には生まれながらにして、神から最低二つ、多くて四つの恩寵が授けられる。
 それは戦士、騎士として戦うための剣術、戦技の才であったり、あるいは余人に真似のできない異能――その多くは魔法と呼ばれるもの――であったりするのだが。

 武門の家の跡継ぎであるにもかかわらず、ケイスには戦闘能力を担保する恩寵がないことが判明したのだ。
 
 苦悩の末に父・カルショットはケイスを廃嫡し、遠縁の商人に預けてその道で暮らしが立つようにお膳立てを整えてくれたのだった。だが――
 ケイスの早逝した実母に代わって後妻となった継母・ジュディスは自分が生んだ次男の相続を万が一にも脅かされぬため、裏で手を廻して私兵にケイスを拉致させた。

 そののため王国によって普段は封印され、大っぴらに近付く者とてない迷宮「終わりなき解体場」。そこへ単身放り込まれたケイスにとって、生存の可能性はごくごく乏しかった。 
 
 
 
 頬に水滴が落ち、その冷たさでケイスはようやく目を覚ました。目隠しは外されている。殴り倒された後であの兵士たちが外したのだろう。
 まだもうろうとする頭を左右に振りながら身を起こすと、すぐそばに革製の鎧入れとやや短めの剣、それに布に包まれた携帯食料と水入りの革袋が置かれていた。  
 


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