絶望しかない迷宮に落とされたけど、非戦闘スキルを活用して生き延びる~識別、融合、そしてシナジー!

冴吹稔

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終りなき解体場

退路は断たれ、前途には不穏

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(意外と明るいな……空気も、思ったよりは悪くないか)

 何かの恒久的な魔法が使われているのか、「解体場」の中はランプをともした夜の屋内程度には明るかった。石畳で覆われた通路は程よく乾燥していて、取り立ててひどい悪臭などもないようだ。
 
 ケイスは背後を振り向いた。迷宮入り口には重そうな鉄扉が作りつけられ、固く閉ざされている。開閉のための蝶番は、こちら側からは見ることができない。
 掌を押し当てて軽く押す――びくともしない。肩をあてて全身の力を籠める――ほんの僅かだけ鉄扉が動く感触があった。放り込まれるときに何か大きな物体を引きずり動かすような音が聞こえたのを覚えている。たぶん、この鉄扉の外側には莫迦げた大きさと重さのかんぬきが掛けられているに違いない。それを力ずくで破壊するようなことは、ケイス一人では不可能だ。
 
(やっぱり、入り口から戻るのは無理か……)

 この迷宮、「終わりなき解体場」についてにはおおよそのことを聞き及んではいる。ここは王国によって管理され、罪人を処分するための迂遠うえんな処刑場として運用されているのだ。当然入り口は固く閉ざされている。
 
(次に開くのはいつだ……? 誰か新しい罪人――それとも、俺みたいな運の悪い奴が連れて来られるときまで辛抱してれば、スキを見て……)

 いや、ダメだ。ケイスは頭を左右に振った。次の訪問者などいつ来るかわからない。手持ちの食糧がそれまで持つとも思えない。仮に出られたとしても、手練れの見張りが複数詰めているだろうし、斬り伏せられるのがオチだ。
 
 迷宮の入り口は辺境の丘陵地にあり、そこから地下深くまで続いているという。
 かつて何組かの冒険者たちがほんの一部を探索した限りでも数十階層を数え、最深部がどこなのかは見当がつかない。そして、内部には敵対的な生物が多数存在し、侵入者を生きながら喰らおうと待ち構えているとされていた。
 
「……冗談じゃないよ」

 ケイスはぶるりと身震いした。生き延びられるという見通しがまるで立たない。現状、飢えて死ぬか食われて死ぬかの二択だ。
 
 だからと言って、このまま諦めて座り込み死を待つというのも無念に過ぎる。家督は諦めるとしても、人生に期待することはまだいくらでもあった。遠い異国へ旅して珍しいものを見たい。売れそうなら持ち帰って一獲千金を狙うもいい。見目好い女と美酒を酌み交わし甘やかな夜を過ごすようなことにも、むろん憧れはあった。

 死にたくない。 
 何でもいい――何か、この状況を好転させるヒントはないものか?
 
 通路を照らす淡い光の下で目を凝らす。少し離れた地点から奥へ向かって、何かが転々と散らばっているのが分かった。単なるゴミのようにも思えたが、奇妙なことにそれらはゴミというには妙に整然として、街角のゴミ捨て場で見られるような雑多な多彩さがなかった。数種類の、限られた物品だけで構成されているようだ。
 
 あまり奥へ行くのは気が進まないが、確かめてみよう――ケイスはしばらく考えた後でそう決心した。 
 
「鎧、一応身に着けた方がいいよな……?」

 思わず口に出しながら、傍らの荷物、鎧入れと布包みに目をやった。
 
 訓練を受けていないケイスにとって鎖かたびらチェインメイル以上のほとんどの鎧は行動を妨げる重しでしかないが、この鎧入れに収められているのはどうやら軽い革鎧だ。
 その程度ならまだ普通に動き回れるし、打ち身や擦り傷から肩や膝を守るくらいの効果は期待できそうだった。
 
 鎧入れから中身を取り出して身に着ける。継ぎ合わせ部分の革ひもが背面にあるせいで、体にきっちり固定することはできなかったが、とにかく平服のままでいるよりはマシになったと感じられた。

 空になった鎧入れに食糧を放り込んで背負い、剣は腰に吊り下げてゆっくりと歩きだす。落ちているゴミのそばにかがみこむと、ケイスはその一つを恐る恐る手に取った。
 
 ……妙な感じの代物だ。自然の何かではなく、敢えて言うなら何かの素材、つまりギリギリで人の手が介在する、何らかの品物アイテム。細工物の店にあるような使いやすい大きさに切り揃えられた硬質な物質と、カサカサした薄いシート状の物、それに――おお、なにやら液体の入った革袋。
 
 それ以上のことを知るには――ケイスの持つ恩寵スキルの一つが役にたつはずだ。
 
「……『解析アナリティクス』!」

宣言コール」と共に念を込めて手の中の物を凝視する。手にした物品や見つめた生物の詳細、つまり、端的な名称、性能あるは能力、来歴、性状といった様々な属性を明らかにする能力。

 ケイスが商人を志した根拠がまさにこれなのだ。だが、その力をふるった結果は、彼に予想外の衝撃をもたらした。
 
(なっ……こ、これは!?)


====================

 品名:資材(人間由来)
 
 用途:製造材料
 
 内訳
    
  ・薄いなめし皮
    
  ・丈夫な骨角
   
  ・生臭い水 
  
 備考:
 
  死んだ人間があとに残す、低品質な素材。
  初歩的な製造に使うことができ、数だけは潤沢に手に入る。

 「残す名とてない者も、全く役にたたぬわけではない」
  
====================



「な、な……」

 脳裏に流れ込んでくる情報を理解することはできた。だが、その情報の持つをケイスが理解し飲み込むのは、今のところまだ非常に困難だった。
 
 そして――散乱する「資材」から必死に目を背けるケイスの目に、別のものが映りこんだ。
 通路の壁際に横たわるそれは、ボロをまとい手足のあちこちに乾いた血液をこびりつかせた、やせこけて薄汚れた人の姿だった。そして、それは彼の気配を察知したかのように、モゾ、とかすかに動いた。
 
 そいつは「資材」ではなく――つまり、まだ生きていた。
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