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終りなき解体場
ライオンは寝ている
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「おい……!」
思わず声をかけてしまったが、直後、ケイスは自分の体が石化したように強張るのを感じた。こんな場所で出会う生きた人間――それが何を意味し、自分にどういう影響を及ぼすのか。
そう思いいたった瞬間、あまりに膨大な思考が頭の中を渦巻いて、体がお留守になってしまったようだった。
(ええと、こいつは生きてて……この「資材」は死んだ人間で、つまり)
――目の前に横たわるこの人物が、辺りに散乱するおびただしい「資材」の元を殺害した可能性がある。この迷宮の運用とそこへ連れて来られる人間の性質を考えれば、そんなに突飛な想像ではない。
それと。この人物はいつからここにいるのだろう?
ケイス自身が持たされた携帯食料は、梱包されたサイズのわりに比較的重たい。どうせすぐ死ぬのだから、ということだろう、多分そんなに長い期間保存がきくようにはなっていないのだ。
辺りにそうした食料品の痕跡はない。もう一度目の前の人物を見た。ひどく痩せて小柄だ。これだけの数の人間を殺せるようには見えないが、印象通りとは限らない。
(大勢で連れて来られて、仲間を皆殺しにしたのかな……それで、仲間の持っていた食料を奪って今まで生き延びたとか……?)
或いは、先ほどケイス自身が考えたように、この出入り口付近の物陰に隠れて待ち続け、さほど頻繁にはないはずの来訪者をその都度手に掛けたのか。もしそうなら恐るべきことだ。
(餓えを耐え忍んでなお、新参者を倒すだけの体力を保って、脱出のチャンスとリスクを天秤にかけず、生存の可能性だけを追求……ってことなら)
それができるとしたら、それは一種の化け物ではあるまいか?
恐ろしい。ケイスは心底、目の前の人物が恐ろしくなった。だが同時に自分自身にも恐怖した。何故なら――この人物を味方につけた場合のメリットを、瞬時に思いめぐらせてしまったから。
(……こいつに解析を使ってみたものか?)
ふとそんなことを思いつく。そう、この恩寵は人間に対しても使えるのだ。
――うう
その何者かが再び身じろぎをし、初めてうめき声を発する。意外なことにそれは若い女の声だった。何か整理のつかない強い感情が突き上げて来るそのままに、ケイスは恩寵の発動を宣言した。
「解析……!」
ケイスの頭の中に、不可思議な作用によって情報が流れ込んでくる。
====================
名前:レオナ・ストラルザンド
人間・女・十九歳
特殊状態:飢餓
現在職業:武闘家 レベル20
所持恩寵:
・生存 わずかな物資で生き延び、また短時間で回復できる。
・最適化 戦闘に際して身体能力が底上げされ、素手でも武器を用いても最も効率的な動きで戦える
・(不明)
備考:
「パンを一切れ貰えれば 竜だって倒して見せるよ」
====================
実際にはまだ多岐にわたる情報があったが、とりあえず重要なのはこのくらいか、とケイスは判断した。
(レベル20か……よくわからないけど、相当すごいんだろうな)
「解析」で生物や人間まで調べられることは、これまで誰にも明かしていないのだが、「レベル」というのはどうも、人間やその他の生物の様々な強さ、能力の高低を端的に表す概念だということらしかった。
鏡の前で自分を「解析」すれば、「付呪師 レベル7」と示される。鑑別前の子供は年齢を十で割って切り上げた数字とおおよそ一致したレベルを持っている。
騎士団長を務める父カルショットならば、「神官戦士 24レベル」。つまりこのレオナとかいう娘は、あの父に迫るような力を持っている、というわけだ。
これは『奇貨』というものだ。この娘を味方にしない手はない。彼女を戦わせれば、よほどの怪物が出ない限り死なずに済みそうだ。
逆に言えば――この迷宮では、死ぬことは絶対に避けなければならない。
迷宮の外なら、病死や老衰といったものではない不慮の死亡――事故死や戦死というものは、必ずしも生命の確実な終わりを意味しない。速やかに神殿へ運んで奇跡を嘆願すれば、わずかな加齢や体質の低下といった不都合は残るが、復活が可能。
だが、ここでは。あの「資材」の情報が真実なら、恐らく。ここで「殺された」生き物は、あのような素材に還元されてしまうのだ。そうなった者が――仮にここを出て運び込めたとしても、神殿で復活できるとは正直考え難かった。
「おい……起きてくれ」
ケイスは「レオナ」の肩に手をかけ、怪我をさせないように注意深く揺さぶった。
「腹が減ってるんだろ。俺の食糧を分けてやる。起きるんだ」
思わず声をかけてしまったが、直後、ケイスは自分の体が石化したように強張るのを感じた。こんな場所で出会う生きた人間――それが何を意味し、自分にどういう影響を及ぼすのか。
そう思いいたった瞬間、あまりに膨大な思考が頭の中を渦巻いて、体がお留守になってしまったようだった。
(ええと、こいつは生きてて……この「資材」は死んだ人間で、つまり)
――目の前に横たわるこの人物が、辺りに散乱するおびただしい「資材」の元を殺害した可能性がある。この迷宮の運用とそこへ連れて来られる人間の性質を考えれば、そんなに突飛な想像ではない。
それと。この人物はいつからここにいるのだろう?
ケイス自身が持たされた携帯食料は、梱包されたサイズのわりに比較的重たい。どうせすぐ死ぬのだから、ということだろう、多分そんなに長い期間保存がきくようにはなっていないのだ。
辺りにそうした食料品の痕跡はない。もう一度目の前の人物を見た。ひどく痩せて小柄だ。これだけの数の人間を殺せるようには見えないが、印象通りとは限らない。
(大勢で連れて来られて、仲間を皆殺しにしたのかな……それで、仲間の持っていた食料を奪って今まで生き延びたとか……?)
或いは、先ほどケイス自身が考えたように、この出入り口付近の物陰に隠れて待ち続け、さほど頻繁にはないはずの来訪者をその都度手に掛けたのか。もしそうなら恐るべきことだ。
(餓えを耐え忍んでなお、新参者を倒すだけの体力を保って、脱出のチャンスとリスクを天秤にかけず、生存の可能性だけを追求……ってことなら)
それができるとしたら、それは一種の化け物ではあるまいか?
恐ろしい。ケイスは心底、目の前の人物が恐ろしくなった。だが同時に自分自身にも恐怖した。何故なら――この人物を味方につけた場合のメリットを、瞬時に思いめぐらせてしまったから。
(……こいつに解析を使ってみたものか?)
ふとそんなことを思いつく。そう、この恩寵は人間に対しても使えるのだ。
――うう
その何者かが再び身じろぎをし、初めてうめき声を発する。意外なことにそれは若い女の声だった。何か整理のつかない強い感情が突き上げて来るそのままに、ケイスは恩寵の発動を宣言した。
「解析……!」
ケイスの頭の中に、不可思議な作用によって情報が流れ込んでくる。
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名前:レオナ・ストラルザンド
人間・女・十九歳
特殊状態:飢餓
現在職業:武闘家 レベル20
所持恩寵:
・生存 わずかな物資で生き延び、また短時間で回復できる。
・最適化 戦闘に際して身体能力が底上げされ、素手でも武器を用いても最も効率的な動きで戦える
・(不明)
備考:
「パンを一切れ貰えれば 竜だって倒して見せるよ」
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実際にはまだ多岐にわたる情報があったが、とりあえず重要なのはこのくらいか、とケイスは判断した。
(レベル20か……よくわからないけど、相当すごいんだろうな)
「解析」で生物や人間まで調べられることは、これまで誰にも明かしていないのだが、「レベル」というのはどうも、人間やその他の生物の様々な強さ、能力の高低を端的に表す概念だということらしかった。
鏡の前で自分を「解析」すれば、「付呪師 レベル7」と示される。鑑別前の子供は年齢を十で割って切り上げた数字とおおよそ一致したレベルを持っている。
騎士団長を務める父カルショットならば、「神官戦士 24レベル」。つまりこのレオナとかいう娘は、あの父に迫るような力を持っている、というわけだ。
これは『奇貨』というものだ。この娘を味方にしない手はない。彼女を戦わせれば、よほどの怪物が出ない限り死なずに済みそうだ。
逆に言えば――この迷宮では、死ぬことは絶対に避けなければならない。
迷宮の外なら、病死や老衰といったものではない不慮の死亡――事故死や戦死というものは、必ずしも生命の確実な終わりを意味しない。速やかに神殿へ運んで奇跡を嘆願すれば、わずかな加齢や体質の低下といった不都合は残るが、復活が可能。
だが、ここでは。あの「資材」の情報が真実なら、恐らく。ここで「殺された」生き物は、あのような素材に還元されてしまうのだ。そうなった者が――仮にここを出て運び込めたとしても、神殿で復活できるとは正直考え難かった。
「おい……起きてくれ」
ケイスは「レオナ」の肩に手をかけ、怪我をさせないように注意深く揺さぶった。
「腹が減ってるんだろ。俺の食糧を分けてやる。起きるんだ」
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