60 / 65
EX.ACT「キツネとウサギの防衛線」
鋼の試し
しおりを挟む
(は! ロギだなんて家名の騎士、俺は知らんぞ)
共鳴したばかりで調整も済まない械体を、戦闘速度で振り回す。その愚は、エルゴンとて理解していないわけではなかった。何度も思いとどまろうとした。だがどうにも苛立ちが抑えられない。
渉猟械は個人で所有するには荷が重く、大抵は国や神殿群といった公の組織が騎士を召し抱えて使わせるもの――いうなれば公共資産なのだ。
ごくまれに大領主や豪商といった、資産のあるものが例外的に一械を所有することはある。だがその場合はまずまちがいなく風評が国中に知れ渡る。
エルゴンは元近衛騎士、国内でそうした話があれば真っ先に耳に入る立場にあったのだ――二年前までは。
(お前が何者か、そのご立派な械体を使うに値する騎士かどうか、この剣で確かめさせてもらう!!)
半分がところは嫉妬。それも自覚している。ごく平凡な生まれのエルゴンにとって、渉猟械はどこまで行っても貸与されるものでしかない。
「パーシヴァム・ロギ! この俺、エルゴン・オディルドン、貴様に仕合を所望する!」
言いざまに振り下ろす大剣の一閃。
〈うわぁああああん!?〉
剣戟にさらされた薄紅色の械体から、奇妙な抑揚の悲鳴が上がり――スクロス・マイの両手に握られた分厚い内反りの刀がその一撃を止めた。
〈あいええええ!? 何をするつもろぅですか!!〉
叫ぶ言葉は明らかに「噛んで」いるが、力量は確かと思われた。斬撃を止めつつも武器の刃を損なわない、絶妙な受け方だ。その証左として、次の瞬間、メイザフォンの大剣はまだ完全に失っていなかった慣性に従い、斜め上へと流れた。
「やるな、じゃあこれはどうだ!」
跳ね上がった大剣の勢いを抑え込むことなくそのまま剣を立て、そちらへ一歩踏み込んでメイザフォンの体をコンパクトにまとめた。その場で一回転――半径が切り詰められたことで、その角速度が飛躍的に上がる。瞬時に体勢を切り替えた械体が振り下ろす、斜め下への一撃。
が、スクロス・マイはすでにそこにいなかった。後方へ飛びながら械体を下方に沈め、ほぼ水平に移動してその場を離れたのだ。地面すれすれを走る勢いで砂が巻き上げられ、周囲の視界が一転して見通しの効かないものになる。
「いい動きするじゃねえか――」
この地の砂は赤く、どちらかといえばスクロス・マイの塗装色に近い。足を止めればこちらが不利になりそうだ――エルゴンはそう見極めると、大剣を後方に引きずった姿勢でメイザフォンを走らせた。
「やめて、やめなさいったら!!」
地響きと恐ろしい打撃音、もうもうと辺りに立ち込める砂煙。パキラは耳と目を手で押さえながら声の限りに叫んだ。届くとも思えなかったが、そうせずにはいられない。
(まったくもう……一械でも惜しい時なのに。これで整備に手間取ったらどうしてくれるのよ!)
歯噛みをしつつも考える。目の前のばかばかしい同士討ちにはいくつか気づかされたことがあった。
エルゴンが以前抱いたイメージとは違い、相当の手練れであること。パーシヴァムの方も、それに劣らぬ技量の持ち主であること。
何せ全高20タラットを超える大きさの巨大な鉄の塊が、ブルゼンの闘技場でみた剣闘士たちの試合さながらに飛び跳ね旋回し、剣を振るって打ち合っているのだ。
パキラとてこれまでカイルダインの戦うさまを見てきたが、それがさほど常軌を逸したものに感じなくなるほど、眼前の闘いもまた速く、変幻尽きることがなかった。
二者の動きにはそれぞれある種の傾向が見て取れた。立ち込める砂煙の中、メイザフォンは隠れたまま縦横に駆け回って一撃を狙う。
スクロス・マイはその煙の中からしばしば空中へ飛びあがって対手の位置と動きを探り、上空から両手の双刀を叩きつけるのを好む風がある。
見守るうちにいつしか、パキラの頭の中にはそれぞれの絹糸束筒をどのように調整すべきか、おぼろげながら指針が定まっていくように感じられた。
そして巨神の剣舞は始まりと同じく、不意にその終わりを告げた。撚糸と力骨が軋みを上げる音に不快な破裂音が混ざって響き、重量物が地を撃って落ちた振動が足裏をざわつかせる。
砂煙が晴れたその後に、それぞれに腕一本を――メイザフォンは右、スクロス・マイは左の腕を――力なくぶら下げて低く構えた、二械の姿があった。
〈よおし、分かった。癪に障るが貴様の腕は本物らしい。高価なおもちゃをもらった子供なんぞじゃないと認めるとしようか〉
〈むむ、なんだか滅茶苦茶な人なだあと思いましたが、認めてくださるならありがとうごまいざすなので! あなたも本物だと思いなすよ!〉
何やらいい話で落ちつきそうな雰囲気だったが、パキラは声にならない悲鳴を上げつつ、膝からその場に崩れ落ちた。
「ふざけんな……ふざけんな……直す身にもなってよあんたたち。その腕一本、どれだけ時間かかると思ってんの」
すぐ隣まで歩いてきたらしく、アッサルマンもそこに立ち尽くしていた。
「あー、パキラ殿……この際心得のあるものは、械匠に限らず一線を退いた騎士でも何でも招集して作業に当たらせよう」
「……お願いします。私としては色々得たものもありますが、この局面でこれはあり得ませんよ」
「うむ。姫様が早く到着してくださればよいのだが……」
パキラとエルゴン達が普通に会話を交わせるまでには、その後丸一昼夜を必要とした。
共鳴したばかりで調整も済まない械体を、戦闘速度で振り回す。その愚は、エルゴンとて理解していないわけではなかった。何度も思いとどまろうとした。だがどうにも苛立ちが抑えられない。
渉猟械は個人で所有するには荷が重く、大抵は国や神殿群といった公の組織が騎士を召し抱えて使わせるもの――いうなれば公共資産なのだ。
ごくまれに大領主や豪商といった、資産のあるものが例外的に一械を所有することはある。だがその場合はまずまちがいなく風評が国中に知れ渡る。
エルゴンは元近衛騎士、国内でそうした話があれば真っ先に耳に入る立場にあったのだ――二年前までは。
(お前が何者か、そのご立派な械体を使うに値する騎士かどうか、この剣で確かめさせてもらう!!)
半分がところは嫉妬。それも自覚している。ごく平凡な生まれのエルゴンにとって、渉猟械はどこまで行っても貸与されるものでしかない。
「パーシヴァム・ロギ! この俺、エルゴン・オディルドン、貴様に仕合を所望する!」
言いざまに振り下ろす大剣の一閃。
〈うわぁああああん!?〉
剣戟にさらされた薄紅色の械体から、奇妙な抑揚の悲鳴が上がり――スクロス・マイの両手に握られた分厚い内反りの刀がその一撃を止めた。
〈あいええええ!? 何をするつもろぅですか!!〉
叫ぶ言葉は明らかに「噛んで」いるが、力量は確かと思われた。斬撃を止めつつも武器の刃を損なわない、絶妙な受け方だ。その証左として、次の瞬間、メイザフォンの大剣はまだ完全に失っていなかった慣性に従い、斜め上へと流れた。
「やるな、じゃあこれはどうだ!」
跳ね上がった大剣の勢いを抑え込むことなくそのまま剣を立て、そちらへ一歩踏み込んでメイザフォンの体をコンパクトにまとめた。その場で一回転――半径が切り詰められたことで、その角速度が飛躍的に上がる。瞬時に体勢を切り替えた械体が振り下ろす、斜め下への一撃。
が、スクロス・マイはすでにそこにいなかった。後方へ飛びながら械体を下方に沈め、ほぼ水平に移動してその場を離れたのだ。地面すれすれを走る勢いで砂が巻き上げられ、周囲の視界が一転して見通しの効かないものになる。
「いい動きするじゃねえか――」
この地の砂は赤く、どちらかといえばスクロス・マイの塗装色に近い。足を止めればこちらが不利になりそうだ――エルゴンはそう見極めると、大剣を後方に引きずった姿勢でメイザフォンを走らせた。
「やめて、やめなさいったら!!」
地響きと恐ろしい打撃音、もうもうと辺りに立ち込める砂煙。パキラは耳と目を手で押さえながら声の限りに叫んだ。届くとも思えなかったが、そうせずにはいられない。
(まったくもう……一械でも惜しい時なのに。これで整備に手間取ったらどうしてくれるのよ!)
歯噛みをしつつも考える。目の前のばかばかしい同士討ちにはいくつか気づかされたことがあった。
エルゴンが以前抱いたイメージとは違い、相当の手練れであること。パーシヴァムの方も、それに劣らぬ技量の持ち主であること。
何せ全高20タラットを超える大きさの巨大な鉄の塊が、ブルゼンの闘技場でみた剣闘士たちの試合さながらに飛び跳ね旋回し、剣を振るって打ち合っているのだ。
パキラとてこれまでカイルダインの戦うさまを見てきたが、それがさほど常軌を逸したものに感じなくなるほど、眼前の闘いもまた速く、変幻尽きることがなかった。
二者の動きにはそれぞれある種の傾向が見て取れた。立ち込める砂煙の中、メイザフォンは隠れたまま縦横に駆け回って一撃を狙う。
スクロス・マイはその煙の中からしばしば空中へ飛びあがって対手の位置と動きを探り、上空から両手の双刀を叩きつけるのを好む風がある。
見守るうちにいつしか、パキラの頭の中にはそれぞれの絹糸束筒をどのように調整すべきか、おぼろげながら指針が定まっていくように感じられた。
そして巨神の剣舞は始まりと同じく、不意にその終わりを告げた。撚糸と力骨が軋みを上げる音に不快な破裂音が混ざって響き、重量物が地を撃って落ちた振動が足裏をざわつかせる。
砂煙が晴れたその後に、それぞれに腕一本を――メイザフォンは右、スクロス・マイは左の腕を――力なくぶら下げて低く構えた、二械の姿があった。
〈よおし、分かった。癪に障るが貴様の腕は本物らしい。高価なおもちゃをもらった子供なんぞじゃないと認めるとしようか〉
〈むむ、なんだか滅茶苦茶な人なだあと思いましたが、認めてくださるならありがとうごまいざすなので! あなたも本物だと思いなすよ!〉
何やらいい話で落ちつきそうな雰囲気だったが、パキラは声にならない悲鳴を上げつつ、膝からその場に崩れ落ちた。
「ふざけんな……ふざけんな……直す身にもなってよあんたたち。その腕一本、どれだけ時間かかると思ってんの」
すぐ隣まで歩いてきたらしく、アッサルマンもそこに立ち尽くしていた。
「あー、パキラ殿……この際心得のあるものは、械匠に限らず一線を退いた騎士でも何でも招集して作業に当たらせよう」
「……お願いします。私としては色々得たものもありますが、この局面でこれはあり得ませんよ」
「うむ。姫様が早く到着してくださればよいのだが……」
パキラとエルゴン達が普通に会話を交わせるまでには、その後丸一昼夜を必要とした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
構造理解で始めるゼロからの文明開拓
TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。
適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。
だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――!
――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる