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セイン1
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「はあ、つまらないな。何も楽しいことがない」
セインは空を飛びながらため息を付いた。千年近い時を生きて来たセインにとって、毎日は退屈の連続でしかない。
千年以上を生きる吸血鬼にとって、人間のように群れる必要も、家族を多く作る必要もない。夜に紛れて生きて来た中で、人間の友達もいくらかは出来たが、皆一様にセインを置いて逝く。同じように老いることも、死ぬことも出来ない人生は、いつしか生きる意味を無くさせた。
永久のように続くと思われた日々は、一人の少女との出会いによって突如終わりを迎えた。
「え」
「は?」
いつものように夜の散歩をしていると、突如下の方から声が上がる。深緑の色をした瞳の少女がじっと自分を見つめているのが分かった。
(ああ、綺麗だ)
腰まで届く金の髪は柔らかく波打って、月光を受けて輝いていた。まるで月人そのもののような様に、呼吸をする事すら忘れてセインは少女に魅入った。
「人間がなんでこんな所に?」
息をすることをやっとの事で思い出したセインは、心中で思っていた事とは別の言葉を吐く。
近寄れば逃げられてしまうだろうかと思いながらそっと側に向かったが、少女からは怯えも何も感じられなかった。
艶やかな薄桃色の唇がわずかに開かれ、「夜しか来られないから」と鈴を転がすような可憐な声で少女はそう言った。
「夜にしか? 人間は闇を怖がる生き物だった筈だが」
普通の人間であれば昼に活動し、夜は眠るものだ。不思議そうにセインは首を傾げて少女の続きを待った。
幾ばくか躊躇うように口が音も無く動いた後、少女は自分の境遇を話してくれた。昔は太陽の下で野原を駆け回っていた事、いつしか日の光を浴びられない体になってしまった事、そのせいか体が弱くきっと明日は熱が出るだろう事を。
「でも、良いの。熱が出たって外の空気は吸いたいし、私が生きてるって事だから」
儚げに細められた笑みをどうにかしたくて、セインは口を開く。
「そうか、俺と一緒だな」
「一緒……?」
「ああ、俺は吸血鬼だからな」
数千年も昔、吸血鬼が人間を餌にしていた頃。吸血鬼を打たんとした人間達の手によって吸血鬼は激減した。本来であれば、本性は告げずにいた方が正解だっただろう。
それでも世界で一人きりだと言わんばかりの寂し気な笑みをどうにかしたくて、セインは少女と同じ夜に生きるものだと伝える。
鳩が豆鉄砲を食ったようにぽっかりと口を開けたままのセシリアに、セインはけたけたと笑った。
「なんだ、怯えて逃げなくて良いのか? 食べられてしまうかもしれないぞ」
「怖くなんて無いわ、貴方は優しい人だもの」
そう言って今日一番の笑みを浮かべる少女に、セインは目を見開く。
今まで出来た人間の友達にも、吸血鬼だと伝えたことは無いし正体がバレた人間は皆一様に恐怖を表に出していた。
それなのに、眼前の少女は危機感も怯えも無く穏やかに微笑んでいる。刹那、胸中に何かが生まれるのを感じた。
「私の名前はセシリア、貴方は?」
「セインだ」
こうして満月の下出会った二人の距離が近くなるのはあっという間だった。
セインは空を飛びながらため息を付いた。千年近い時を生きて来たセインにとって、毎日は退屈の連続でしかない。
千年以上を生きる吸血鬼にとって、人間のように群れる必要も、家族を多く作る必要もない。夜に紛れて生きて来た中で、人間の友達もいくらかは出来たが、皆一様にセインを置いて逝く。同じように老いることも、死ぬことも出来ない人生は、いつしか生きる意味を無くさせた。
永久のように続くと思われた日々は、一人の少女との出会いによって突如終わりを迎えた。
「え」
「は?」
いつものように夜の散歩をしていると、突如下の方から声が上がる。深緑の色をした瞳の少女がじっと自分を見つめているのが分かった。
(ああ、綺麗だ)
腰まで届く金の髪は柔らかく波打って、月光を受けて輝いていた。まるで月人そのもののような様に、呼吸をする事すら忘れてセインは少女に魅入った。
「人間がなんでこんな所に?」
息をすることをやっとの事で思い出したセインは、心中で思っていた事とは別の言葉を吐く。
近寄れば逃げられてしまうだろうかと思いながらそっと側に向かったが、少女からは怯えも何も感じられなかった。
艶やかな薄桃色の唇がわずかに開かれ、「夜しか来られないから」と鈴を転がすような可憐な声で少女はそう言った。
「夜にしか? 人間は闇を怖がる生き物だった筈だが」
普通の人間であれば昼に活動し、夜は眠るものだ。不思議そうにセインは首を傾げて少女の続きを待った。
幾ばくか躊躇うように口が音も無く動いた後、少女は自分の境遇を話してくれた。昔は太陽の下で野原を駆け回っていた事、いつしか日の光を浴びられない体になってしまった事、そのせいか体が弱くきっと明日は熱が出るだろう事を。
「でも、良いの。熱が出たって外の空気は吸いたいし、私が生きてるって事だから」
儚げに細められた笑みをどうにかしたくて、セインは口を開く。
「そうか、俺と一緒だな」
「一緒……?」
「ああ、俺は吸血鬼だからな」
数千年も昔、吸血鬼が人間を餌にしていた頃。吸血鬼を打たんとした人間達の手によって吸血鬼は激減した。本来であれば、本性は告げずにいた方が正解だっただろう。
それでも世界で一人きりだと言わんばかりの寂し気な笑みをどうにかしたくて、セインは少女と同じ夜に生きるものだと伝える。
鳩が豆鉄砲を食ったようにぽっかりと口を開けたままのセシリアに、セインはけたけたと笑った。
「なんだ、怯えて逃げなくて良いのか? 食べられてしまうかもしれないぞ」
「怖くなんて無いわ、貴方は優しい人だもの」
そう言って今日一番の笑みを浮かべる少女に、セインは目を見開く。
今まで出来た人間の友達にも、吸血鬼だと伝えたことは無いし正体がバレた人間は皆一様に恐怖を表に出していた。
それなのに、眼前の少女は危機感も怯えも無く穏やかに微笑んでいる。刹那、胸中に何かが生まれるのを感じた。
「私の名前はセシリア、貴方は?」
「セインだ」
こうして満月の下出会った二人の距離が近くなるのはあっという間だった。
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