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国を出て、新しい国へ

誰もが立ち寄る街

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 ルーイのとんでもない話に付き合わせられながら、私たちは砂漠の中を歩く。

 その道中も何体かの獣と出会い、そして倒した。獣が現れる度に、ルーイはどこかへ身を隠し、私の目の前に獣が横たわる頃にはどこからともなく顔を出す。

「それ、持っていく?」

「置いていく。」

「何で?売れるのに??」

「このようなものを持っていては邪魔であろう?!まだ歩くのではないのか?」

 このような会話を繰り返す。そしてまた、お決まりの会話を繰り広げたところだった。

「ううん。もう、着くよ。」

 ルーイがそう言って、指を差した先には街を囲う壁が佇んでいた。

 いつの間にか砂漠を抜けていた。一人で歩いていれば、迷っていただろう。もし迷わなくとも、途中で嫌気がさしていたに違いない。

 ルーイと共に旅をしていて良かった。そんな思いが頭をよぎる。そしてそのような感情を抱いた自分に自分で驚く。私の鎧が、また少し剥がれ落ちた。

「ここはさ、この辺では1番大きな街なんだ。もう少し行けばコーゼとの国境があるし、都までも思ったよりも近い。商人達も必ずここには立ち寄るんだ。だから活気もある。」

「コーゼとの国境ということは、ルーイの生まれもこの辺りということか?」

「あぁ。俺の生まれたのはもう少し向こう。あの山の麓にある村だ。まぁ、今はもうないけどな。」

 コーゼに攻め入られて……ということか。ルーイの言葉の外にそういった事情を感じ取り、思わず目を伏せた。

「そんな顔するなよぉ。もう昔の話だって言ったろ?」

「そ、それはそうなのだが。」

「早く街に入ろう!」

 街はルーイの言う通り、たしかに活気付いていた。人も多く、道路沿いに出ている店も多い。シャーノで見たことも、カミュートで見たこともないものもたくさん目に入る。コーゼの商品なのだろう。

 道沿いに所狭しと並ぶ屋台の商品を見ながら、ルーイと共に今夜の宿を探す。

「んっ?」

「どうした?何かあった?」

「いや、特に問題はない。知ってる顔を見た気がしただけだ。」

「ふーん。シャーノの?」

「いや。カミュートに入る時に世話になった旅商人だ。」

「へぇー。」

 視界に、国境門で私が世話になった、あの旅商人を捉えた気がした。これだけ大きな街だ。商人が立ち寄っていたとしても不思議はない。

 ルーイが私の視線の先に目をやり見渡すが、旅商人は既に視界から消えていた。

 それにしても、彼はカミュートでの仕事が終われば、シャーノに戻ると言っていたはず。コーゼとカミュートの仲があまり良いものではないと教えてくれたのも彼だ。そんな彼がコーゼとの国境も近いこの街に、わざわざ立ち寄っていることが不思議であった。

「今夜はどこに泊まろっかなー。」

 旅商人の行方からは既に興味を無くしたルーイが、キョロキョロと辺りを見回しながら、器用に人を避けつつ進む。

 旅商人の行方など、私が気にする必要もない。それよりもどちらが使われているのかわからない、この道案内とはぐれる方が、私にとっては問題である。私は慌ててルーイの後を追いかける。

 そして私の思考から、旅商人のことはすぐに消えていった。
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