お召し替え

関谷俊博

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翌朝ケンイチが遅くに目覚めると他の仲間達の姿はなかった。皆それぞれ狩に出掛けたのだろうか。トモベやアヤノも見当たらない。ユウシンは兎も角、狩に出ないアヤノまでいないのは奇妙だった。
ケンイチは一人で湿地帯へ出掛ける事にした。ヌタイモリを捕らえに行くつもりだった。仲間達の為に少しでも食糧を確保しておかなければならない。
頭部を一突きすればヌタイモリはぐったりと大人しくなってしまう。ヌタイモリを矢で突いていると頭が空っぽになって、やがて冷たい熱狂が訪れる。気分が高揚して、いかに効率良く突くか。それだけに集中する。

夕餉になってもトモベは戻って来なかった。アヤノの姿も無かった。
僕のお召し替えが近いんだ。トモベがそう言っていた事をケンイチは覚えていた。きっと二人はお召し替えへ赴いたのだ。二人が手を組み合わせて湿地帯を歩いていく姿を想像してケンイチの心は揺れた。哀しさと羨ましさの入り混じった感情だった。
翌日タツジが姿を消した。仲間達は一人減り二人減り、最後にケンイチだけが残された。ケンイチは毎日一人でヌタイモリを突きに出掛けた。食糧はもう自分が食べる分だけあれば良かったのだが、何かせずにはおれなかったのだ。
ある日ヌタイモリを突いていると、ケンイチの心にこれまでにない感情が湧いた。湿地帯の向こうに何か素晴らしい場所が有って、そこへ赴きたいと言う強い思いだった。ケンイチは目をつむると立ち尽くして、その感情が通り過ぎるのを待った。ケンイチは迷殻舟に戻ることにした。だった一人のささやかな夕餉を済ますと丸くなって眠った。
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