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72.〖レイド〗過去

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 ※この話以降。暴力、流血などの残酷な描写が多々あります。苦手な方はご注意下さい。



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 ――鼠になり、烏になぶり殺され。

 ――魚になり、サメに噛み砕かれて殺され。

 ――縞馬になり、ライオンに臓物を引き出されて殺され。


 ――――俺は、もう数え切れない程の死を経験した。


 俺を殺す相手に共通していることは、モヤのようなものが頭の周りにかかっているということだ。

 恐らくは、あの禁術機による仕業だろう。



 ********


 ――俺は、公園のような場所で身を潜めている。


『くそっ! 蛇だから、うまく動くことが、出来ないな……』

 頭にモヤがかかっている人間達から、何とか逃れられた。

『はぁっ、はぁっ! せめて、魔法が使えれば……』

 身体中に傷を負い。そこからジワジワと血が滲んでいて、酷い痛みを感じる。


「あっ! 汚い蛇、見つけたぁあ~~~っ!!! 皆、ここだぞっ! ここだぁあ~~っ!!」


 素早く駆け寄って来た4人の子供が、俺が逃げられないよう囲んできた。


『ここまでか……』


 多分、俺は魂だけを様々な世界に飛ばされているのだろう。もし、そうならば、身体は元の世界にあるということだ。

 しかし、魂の抜け落ちた、その身体は長くは持たないはず。持って、一週間というところか。

 それまでは、このようにずっと殺され続けるのかと思うと……気が狂いそうだ。


「はははは~~っ!! 死ねぇえ~~~っっ!!!」


 俺は、与えられるだろう痛みを覚悟し。目をきつく瞑って、身体を縮めた。


「お ま え ら が なーーーーーっ!!!」


 ――ボッコーーーーーンっ!!!


「ぎゃあああ~~~~~っ!!?」
「いだっ! いだい~~~っ!!」
「うぎゃーーーーっ!!」
「ぶぎゅっ!?」

「お前も! お前も! お前も! この、アホんだら共がっ!!」


 木の棒らしきものを持った10歳くらいの少年が。ボコボコボコと、その4人の子供達を叩いていた。

 子供達が慌てて、この場から逃げて行く――。


『な、なんだ……? 禁術機による、新しい遊びなのか?』


 急に現れたその少年から距離を取ろうと、ズリズリと後退り、警戒する。

 しかし、少し後退っただけでは、蛇が人間の歩幅に敵うわけもなく。少年は俺のすぐ前まで来て、しゃがみ込んできた。


「あ~、可哀想になぁ……」


 哀れみの声をかけられたことを怪訝に思い、俺は目の前にいる少年を見上げ――その顔を見て、驚いた。


『何故、ヤツが……?』


 いや、ヤツは子供っぽくとも……もう少し成長している。

 この目の前にいる少年は、ヤツをもっと子供にした姿だった。


「う~ん……。また、あいつら戻って来るかもだし。とりあえず、お前を俺の家に連れて行くからな? いいよな……?」


 少年は、ペラペラと俺に話しかけながら。優しく抱き締めてきた。


『ふん、蛇が話を理解出来る、という前提で語りかけるなど……。まるで、本当にヤツのようだな』


 俺は、何気ない気持ちで。少年の魂の色を見ようと集中をした。

 魂を見るのは魔力を必要としないから、今の俺でも出来ると思ったのだ。


『は……? 何故だ? 何故、ヤツと同じ魂の色なんだ……?』


 この少年もヤツと同じ。黒一色だけの、魂の色だった。



 ********


 あれから、一週間程が経過していた。

 まだ、俺の魂がここに存在しているということは、俺の身体は死んでいないのだろう。

 もしかすると、あちらの世界とは時間の進みが違うのかもしれないな。


「ヘビ太~~! 寂しかったか?」


 倉庫の扉が開き。少年が、俺に駆け寄って来た。


 俺の身体に、頬をスリスリと擦り寄せて来る少年を、俺は半目で見る。

 こいつは、本当にしつこい。

 何故、ヤツと魂の色が同じなのかは分からないが……違った世界のヤツなのだろうか?

 俺も、世界の全てを知っている訳ではないから、その可能性も十分あり得るのかもしれない。


 そして、驚くことに。この少年は禁術機のモヤにはかからないようだった。

 一度、そのモヤだけがやって来たのだが。少年の頭に近づけても、あのように行動を操作することは出来ないようだ。

 だが、少年はそれによってか。少しぼんやりとしてしまっていたから、警戒はした方が良いだろう。


 それにしても、ベタベタとスキンシップをされ、ギャーギャーと何かを話してきて……。うるさい奴だな。
 今も、綺麗な石を見つけたんだと俺に見せてくるが。そんな、ただの石ころに何故ここまで感動するんだか分からん。

 こいつが姿を現す時間帯は、だいたい決まっていて。
 朝の早朝、少しの時間と。正午過ぎた頃に3、4時間程いる。
 一度だけ。辺りが真っ暗になるくらい、長い時間いた時があったが。男女の怒声のようなものが、外から聞こえ。それで、少年が倉庫の外に出て行き。長い間、怒られる声が聞こえてきた。

 少年は、もしかしたら……。なにか、訳ありな環境に身を置いているのかもしれない。

 それは……――男女の怒声が聞こえた瞬間に、少年は、感情が抜け落ちたような無表情になったからだ。

 だが、それを分かったからといって……。この世界の住人でもなければ、人でもなく、何の力も使えない蛇でしかない俺が助けることなど……出来ないだろう。

 しかし、その怒声が響き渡るのを聞いている間。何故だか、もどかしい気持ちになり。その場に飛び出して行きたい気持ちにはなったが――。


「ヘビ太~! お前は、可愛いなあ! その丸くてクリクリキラキラとしたルビーみたいな綺麗な目と、紅葉みたいに鮮やかな赤いボディーが最高だよ! ん~、もしかして、誰かに飼われてたとか? ちゃんと公表して、飼い主を探した方が良いかな……?」


 そんな事をされたら。禁術機に操られた者達に、喜んで殺されてしまうだろう。

 俺は、ブンブンと首を振った。


「そうか! ヘビ太は、俺とずっと一緒にいたいんだなっ!! 可愛い! 可愛い!」


 俺の身体に。少年の頬が、更にグリグリと押し付けられる。

 そのグリグリを、我慢する。……が、非常にしつこい。全身、グリグリグリグリされ……――。


「ヘッビ太! めちゃくちゃかわいいーー!! 俺がちゃんと、美人なお嫁さん見つけてあげるからね!」


 ――ブッチンと、我慢の限界が超えた。


『んなの……! いるかっ!!』


 俺は、シャ~~~~~ッ!! と少年に向かって威嚇をする。


 それに、少年は一瞬キョトンとした後。満面な笑みを浮かべた。


『はぁ? こいつは、馬鹿――ッ!?』
「ちゅっ! ちゅっ! なに、今の~? 可愛い~! 可愛い~! ねぇっ! もう一回、やって? ちゅっ! ちゅっ!」


 驚くことに。この少年は、俺の口にちゅぅちゅぅと接吻をしてきた。


『~~~~~ッ!!? こっ、この! ……ぅうっ!!』


 倉庫の扉が、少し開いていたのが見え。俺は、その隙間から抜け出す。


「あっ!! ヘビ太っ! 待って! 待ってよ~~っ!!」
『ついてくるなっ!! お前は、なんなんだっ!?』


 追いかけて来ていた少年を、何とか撒けた。


 俺が、あの少年から逃げたのは……――蛇であるのに身体中が熱く。しかも、あらぬところまで熱くなっていたからだ。

 もし、そのまま、そこに居たならば……少年に何かをしてしまいそうだった。


『くそ! ヤツと似ているからといって、違う人間に対し、欲情してしまうなんて! しかも、子供相手に……!』


 ――今は、この熱くなった身体を冷まさなければと思い。水辺を探すことにした。


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