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72.〖レイド〗過去
しおりを挟む※この話以降。暴力、流血などの残酷な描写が多々あります。苦手な方はご注意下さい。
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――鼠になり、烏になぶり殺され。
――魚になり、サメに噛み砕かれて殺され。
――縞馬になり、ライオンに臓物を引き出されて殺され。
――――俺は、もう数え切れない程の死を経験した。
俺を殺す相手に共通していることは、モヤのようなものが頭の周りにかかっているということだ。
恐らくは、あの禁術機による仕業だろう。
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――俺は、公園のような場所で身を潜めている。
『くそっ! 蛇だから、うまく動くことが、出来ないな……』
頭にモヤがかかっている人間達から、何とか逃れられた。
『はぁっ、はぁっ! せめて、魔法が使えれば……』
身体中に傷を負い。そこからジワジワと血が滲んでいて、酷い痛みを感じる。
「あっ! 汚い蛇、見つけたぁあ~~~っ!!! 皆、ここだぞっ! ここだぁあ~~っ!!」
素早く駆け寄って来た4人の子供が、俺が逃げられないよう囲んできた。
『ここまでか……』
多分、俺は魂だけを様々な世界に飛ばされているのだろう。もし、そうならば、身体は元の世界にあるということだ。
しかし、魂の抜け落ちた、その身体は長くは持たないはず。持って、一週間というところか。
それまでは、このようにずっと殺され続けるのかと思うと……気が狂いそうだ。
「はははは~~っ!! 死ねぇえ~~~っっ!!!」
俺は、与えられるだろう痛みを覚悟し。目をきつく瞑って、身体を縮めた。
「お ま え ら が なーーーーーっ!!!」
――ボッコーーーーーンっ!!!
「ぎゃあああ~~~~~っ!!?」
「いだっ! いだい~~~っ!!」
「うぎゃーーーーっ!!」
「ぶぎゅっ!?」
「お前も! お前も! お前も! この、アホんだら共がっ!!」
木の棒らしきものを持った10歳くらいの少年が。ボコボコボコと、その4人の子供達を叩いていた。
子供達が慌てて、この場から逃げて行く――。
『な、なんだ……? 禁術機による、新しい遊びなのか?』
急に現れたその少年から距離を取ろうと、ズリズリと後退り、警戒する。
しかし、少し後退っただけでは、蛇が人間の歩幅に敵うわけもなく。少年は俺のすぐ前まで来て、しゃがみ込んできた。
「あ~、可哀想になぁ……」
哀れみの声をかけられたことを怪訝に思い、俺は目の前にいる少年を見上げ――その顔を見て、驚いた。
『何故、ヤツが……?』
いや、ヤツは子供っぽくとも……もう少し成長している。
この目の前にいる少年は、ヤツをもっと子供にした姿だった。
「う~ん……。また、あいつら戻って来るかもだし。とりあえず、お前を俺の家に連れて行くからな? いいよな……?」
少年は、ペラペラと俺に話しかけながら。優しく抱き締めてきた。
『ふん、蛇が話を理解出来る、という前提で語りかけるなど……。まるで、本当にヤツのようだな』
俺は、何気ない気持ちで。少年の魂の色を見ようと集中をした。
魂を見るのは魔力を必要としないから、今の俺でも出来ると思ったのだ。
『は……? 何故だ? 何故、ヤツと同じ魂の色なんだ……?』
この少年もヤツと同じ。黒一色だけの、魂の色だった。
********
あれから、一週間程が経過していた。
まだ、俺の魂がここに存在しているということは、俺の身体は死んでいないのだろう。
もしかすると、あちらの世界とは時間の進みが違うのかもしれないな。
「ヘビ太~~! 寂しかったか?」
倉庫の扉が開き。少年が、俺に駆け寄って来た。
俺の身体に、頬をスリスリと擦り寄せて来る少年を、俺は半目で見る。
こいつは、本当にしつこい。
何故、ヤツと魂の色が同じなのかは分からないが……違った世界のヤツなのだろうか?
俺も、世界の全てを知っている訳ではないから、その可能性も十分あり得るのかもしれない。
そして、驚くことに。この少年は禁術機のモヤにはかからないようだった。
一度、そのモヤだけがやって来たのだが。少年の頭に近づけても、あのように行動を操作することは出来ないようだ。
だが、少年はそれによってか。少しぼんやりとしてしまっていたから、警戒はした方が良いだろう。
それにしても、ベタベタとスキンシップをされ、ギャーギャーと何かを話してきて……。うるさい奴だな。
今も、綺麗な石を見つけたんだと俺に見せてくるが。そんな、ただの石ころに何故ここまで感動するんだか分からん。
こいつが姿を現す時間帯は、だいたい決まっていて。
朝の早朝、少しの時間と。正午過ぎた頃に3、4時間程いる。
一度だけ。辺りが真っ暗になるくらい、長い時間いた時があったが。男女の怒声のようなものが、外から聞こえ。それで、少年が倉庫の外に出て行き。長い間、怒られる声が聞こえてきた。
少年は、もしかしたら……。なにか、訳ありな環境に身を置いているのかもしれない。
それは……――男女の怒声が聞こえた瞬間に、少年は、感情が抜け落ちたような無表情になったからだ。
だが、それを分かったからといって……。この世界の住人でもなければ、人でもなく、何の力も使えない蛇でしかない俺が助けることなど……出来ないだろう。
しかし、その怒声が響き渡るのを聞いている間。何故だか、もどかしい気持ちになり。その場に飛び出して行きたい気持ちにはなったが――。
「ヘビ太~! お前は、可愛いなあ! その丸くてクリクリキラキラとしたルビーみたいな綺麗な目と、紅葉みたいに鮮やかな赤いボディーが最高だよ! ん~、もしかして、誰かに飼われてたとか? ちゃんと公表して、飼い主を探した方が良いかな……?」
そんな事をされたら。禁術機に操られた者達に、喜んで殺されてしまうだろう。
俺は、ブンブンと首を振った。
「そうか! ヘビ太は、俺とずっと一緒にいたいんだなっ!! 可愛い! 可愛い!」
俺の身体に。少年の頬が、更にグリグリと押し付けられる。
そのグリグリを、我慢する。……が、非常にしつこい。全身、グリグリグリグリされ……――。
「ヘッビ太! めちゃくちゃかわいいーー!! 俺がちゃんと、美人なお嫁さん見つけてあげるからね!」
――ブッチンと、我慢の限界が超えた。
『んなの……! いるかっ!!』
俺は、シャ~~~~~ッ!! と少年に向かって威嚇をする。
それに、少年は一瞬キョトンとした後。満面な笑みを浮かべた。
『はぁ? こいつは、馬鹿――ッ!?』
「ちゅっ! ちゅっ! なに、今の~? 可愛い~! 可愛い~! ねぇっ! もう一回、やって? ちゅっ! ちゅっ!」
驚くことに。この少年は、俺の口にちゅぅちゅぅと接吻をしてきた。
『~~~~~ッ!!? こっ、この! ……ぅうっ!!』
倉庫の扉が、少し開いていたのが見え。俺は、その隙間から抜け出す。
「あっ!! ヘビ太っ! 待って! 待ってよ~~っ!!」
『ついてくるなっ!! お前は、なんなんだっ!?』
追いかけて来ていた少年を、何とか撒けた。
俺が、あの少年から逃げたのは……――蛇であるのに身体中が熱く。しかも、あらぬところまで熱くなっていたからだ。
もし、そのまま、そこに居たならば……少年に何かをしてしまいそうだった。
『くそ! ヤツと似ているからといって、違う人間に対し、欲情してしまうなんて! しかも、子供相手に……!』
――今は、この熱くなった身体を冷まさなければと思い。水辺を探すことにした。
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