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110.幸と辛、二つの過去
しおりを挟む今まで、ちゃんと話せなかった時間を埋めるかのように。レイドと、女子トークならぬ男子トークを学生に戻ったかのように話していた。
――だが【学生】は、ここの世界には無い。
ここの世界は、魔法の基礎的なものを習う【学校】というよりも、【講習会】のような感じなのだ。
しかも、何回か行った後に、資料を渡されて終了。
だからか、まったく楽しいもんじゃなかったし……。
その後は――『各自で自主練をし、感じて覚えろ! この世は弱肉強食だ!!』みたいな、意外とパワフルな世界なんだ。
ん~……。だから、ちゃんとした知識もない、自分勝手な馬鹿が多いのかな……?
あっ! そうか! 俺が、学校ってものを作れば良いかな……? あっちの世界で過ごしてたから、何となく仕組みとかも知ってるし。
「――ヤマダは……。幼い頃、どのように過ごしていた?」
俺が、うんうんと自分の閃きに満足していた時。レイドが、俺の顔を覗き込んできた。
「え? ああ、俺の子供の頃……?」
――あ、レイドと話している最中に、自分の世界に入り込んじゃってたわ。
そうだ。レイドには聞いたくせに、自分の話はしてなかったな。
「……こっちの世界の俺は、捨て子だったんだ」
きっと、俺の両親も。レイドと同じく、等級の低い魔術師だったのだと思う。
極級レベルの子供は、通常だと極級魔術師が両親だ。
だから、自分達がそういった辛い経験をしたからこそ。子供を大事に育てるのだろう。
けど、もし……。等級の低い両親から、極級の子供が産まれたのなら――恐ろしくなるのではないか。
多分それで、俺は捨てられたのだと思うんだ。
そして、レイドの両親のように。最初は恐れ、閉じ込めていたが……『自分達の得になること』を考え始めるクズもいることが。今回、レイドの話を聞いて分かった――。
「捨て子……」
レイドは、しまったという顔をしていて。俺に聞いたことを悔やんでいるようだ。
いやいや、レイドの過去のが、俺からすると悲惨だからな……?
「そんな、嫌な記憶は無いぞ? むしろ、保護してくれてた施設の人達が、めちゃくちゃ良い人達でさ~! 俺の等級とか気にせず、周りの子達とも分け隔てなく接してくれてたんだ。俺にとっては、今でも大切な家族みたいな存在だな」
その人達は、中~高級だったから。もう、とっくの昔に亡くなってる。
でも、数百年経とうとも……。捨てられてた俺を拾って、大切に育ててくれたあの人達の記憶は、永遠に色褪せないものなんだ。
何より。極級魔術師の俺が、何事もなく成長することが出来たのは――かなり大事に守ってくれていたんだと、色々な事実を知ってから特に理解出来た。
「そうか……。良い者達に育てられたから、ヤマダはそのように優しい人間なのだな」
「……うん、ありがと」
俺が優しい云々は置いといて。レイドが、俺の大切な人達を『良い者達』って言ってくれてたから……なんだか凄く嬉しい。
……それに引き替え。あっちの世界にいた家族は、最低だった。
ヤツィルダの記憶が戻るまでは、あまり気にしないようにしていた……いや、思い出さないようにしていた。
俺は、目頭をグリグリと押さえ。つい、大きくため息を吐いてしまう――。
「……? ヤマダ、どうした?」
「いや、あっちの世界のことだから……。今は、もう……俺には関係ない話なんだけど…………」
微妙な話だし、言おうかどうかを悩み。チラリと、レイドに視線を向けると――。
レイドは俺が話すのを、じっと待っているようだった。
ああ、そうか……。レイドは小さい頃の俺と会ってたみたいだから、気になるのかもな。
「……俺な、あっちの世界の両親にとって。いらない子だったんだ――――」
********
俺は、両親の浮気によって生まれた存在だった。
本当は、両親には愛し合っている、本命の婚約者がいたのだが。婚約者を抜いた、ちょっとしたパーティーに呼ばれた時。お互いに魔が差し、一度だけ身体の関係を持ってしまったのだ。
熱が冷め。俺の母親が、慌てて避妊薬を飲んだが――それでも、俺がお腹に出来てしまった。
その事実に、婚約者達が気が付き。直ぐに、2人ともが婚約破棄を突きつけられる事態となった。
そして、両親共に。その婚約者達と同じくらい、良い家柄であった為。そのまま、婚約者をすげ替えるということで丸く収めた。
しかし、自分達の行いのせいにも関わらず。両親の、俺への扱いは酷いものだった。
体裁により、身体的な虐待はされなかったが。精神的な虐待を、幼い頃からずっと受けていて。
『死ね』『消えろ』『価値のない人間』『存在している意味が分からない』『なんで生まれて来たんだ』――それらの言葉は、物心がついた頃には既に、両親から言われていた言葉だった。
両親が自宅に帰って来た時には、俺は息を殺して俯き。ただ、ひたすらにその暴言に耐えるしか出来なかった。
でも、良い家柄のお陰で。俺には、有能なお手伝いさんがつけられていた。だから、その環境でも衣食住は得られ、生きていくことは出来たんだ。
それで、多分。蛇になってた、レイドと会った頃だと思うけど――。
俺は、頭などを強く打ち、病院に運ばれたことがあり。病院に、両親が見舞いに来て『お前は、不運な事故にあってしまったようだ。可哀想に……』と言われ、痛いくらいに抱きしめてきた。
そして、退院し。家に帰って直ぐ――『ちゃんと、死んでおけよ! 死に損ないが!!』と、ちゃんと死ねなかったことを両親に責められたのだ。
少しでも心配してくれたかと思っていた。だから、ショックで呆然と、ただ両親を見上げていたが……。
いつも以上に、まるでパニックを起こしているかのように……必死な形相で怒鳴り、罵倒する両親は――とても可哀想な人間だと思った。
――それから、数年が経ち。俺は、全寮制の中学校に入りたいと、両親に伝えることに決めた。
その頃には、もう。俺は両親に対し、微塵も期待しなくなっていて。
両親も飽きたのか、罵倒することは無くなっていたのもあり、幾分か楽な気持ちで話し掛けることが出来た。
それに、両親にとっても。俺がいない方が楽だと思っていたから、二つ返事で了承されるだろうと安心していたのだ――……しかし、無視をされた。
全寮制の学校についての返事がされず、数日が過ぎ。これは、一種の嫌がらせだと流石に気付いた。
早くしないと、エスカレーター式に、近くの中学に入らないといけなくなる。
そうなると、この地獄のような家から逃れられないと俺は焦った。
だから、仲の良い友人も一緒に行くとか、景色の良い場所で勉強に集中したいとか、就職する時に有利だとか、両親に何度も訴え掛けた。
自分達に張り付くように追いかけてくる俺が、いい加減煩わしくなったのだろう。進学が決定するギリギリで、やっと了解してくれた。
だが、俺に視線を向けた2人の顔は。酷く強張り、話すのも嫌だというように歪んでいるものだった。
そして、俺があのように死ぬ、その時まで――両親と顔を合わせることは、一度もなかったのだ。
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