可哀想な君に

未知 道

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白井 真 15

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「聞こえなかった? 離れてって、言ったんだけど?」
「ふふ、ふっ! はははっ! まさか、そんな脅しが通用するとでも?」

 奏多が指の力を込め。カチリ、といった音が鳴る。

 それで、ハッとした。きっと奏多は、本当に小南を撃つつもりだ。
 理由はどうであれ、俺を助けるためにそんなことはさせられないと。小南を振り払おうとした時――ガシャンと柵に身体を押さえ付けられた。

 相手は、細身の女性だ。どこにそんな力があるのか、強く圧迫され、上手く身体が動かせなかった。
 こんな貧弱な自分が、情けなくなり。グッと顔が歪む。

「あんたが引き金を引くのと――」

 ゴツリ……――後頭部に、先程と同じ固い感触が当たる。

「私がこの頭を吹き飛ばすの、どっちが早いかしら?」
「…………」

(もう一つ、持ってたのかよ……)

 奏多は構えの姿勢のままだが、指の力を緩めた。

「本当に、こんなのが“弱点”なのね? 面白~い」
「……ぅっ、痛っ……!」

 小南が、俺の顔を柵に強く押し付けるようにしたことで、奏多の姿を把握出来なくなってしまった。

 ゴツゴツゴツと、頭を拳銃でつつかれる。

 手足が震え、背中に汗が流れて……それが妙に気持ち悪い。

(――ッ、変に焦らされてるみたいで、恐怖が増すじゃねぇかよ)


「ああ、でも……。抵抗せずに、あんたが死んでくれるなら。こいつは殺さないであげるわよ?」

 奏多は直ぐに、拳銃を手離したようで。それが地面に落ち、カシャンといった音を立てた。

「……っ、おい!? 奏多、お前……!」

 三葉が、驚いたように叫ぶ――。

(え、なんで……? ああ、でも……)

 奏多は、俺に『僕より早く死んでね』と言っていた。だからなんで、庇うのかが分からなかったが。ならば、奏多には何か策があるのだろうと思った。
 人を食ったような性格の奴だ。状況を打開するため、計算して動いているはず……。


「――勝手に動くな」

 奏多が、平坦な声を出す。

「はぁ? あんた、何を言っ……ッ!」

 小南が話の途中で、驚いたように言葉を止める。緊張しているのか……俺の頭に当たっている銃口が、カタカタと震えている。

 一体なんだと思ったが――「しかし……!」と近くで男性の声聞こえたことで、いつの間にか俺達の目の前に【篠崎の影】が来ていたようだった。

「君には、当主に僕がを伝えてもらう任務がある。指示するまで、大人しく待ってて」
「……畏まりました」

 小南が軽く息をついたことで、影が近くからいなくなったのだと理解する。

 後ろでのことだから、見てはいないが……。そこまで小南が緊張していたということは、身の危険があったのかもしれない。

 小南が「驚いたじゃないの、まったく」と鼻で笑い――。

「言うことって……『僕は、大好きな人のために死にま~す』とでも言うつもり? じゃあ、さっさと死んで」と言った途端に。高い音が、間近くで聞こえ。それによって、キィーンと耳鳴りがする。

 ――耳鳴りが収まると。パタパタパタといった、水滴が落ちるような音が耳に入った。

「……嘘だろ? 奏多、なんでだ……お前なら――」
「――三葉。君は、少し黙っていてくれないかな?」

 コホッコホッと、奏多が咳き込み。何かを吐き出すような音も聞こえて――。

(……い、今の、銃声だよな? 奏多、撃たれた……?)

 あんな……殺しても死ななそうな奴が、簡単に撃たれるなんて考えていなかった。
 初めから、全く焦ったりもしていなかったし。だから、きっと何か打開策があると思って……。だから、漠然と平気だろうって、思っていて――。

「……奏多? う、嘘だよな……? だって、お前より先に、俺が死んでって……」

 何かの冗談だろうと、声が震えてしまう。

「コホッ、真くん……大丈夫だよ」

 もう二発、高い音が鳴る。

「あっはははは! あ~、本当~に面白い! 本気で死ぬつもりなんだ? こんなののために、あんたが? ははははっ!」

 喜びからか、小南の力がスルリと緩む。
 押し退けるようにして抜け出しても、小南はずっと笑っていて俺の存在を忘れているようだった。

「奏多……!」

 ――奏多の元に駆け寄る。

 服は血塗れで、地面に血の海が出来ている。それでも、奏多は両足でしっかりと立ち。まるで、俺を待っていたかのようだった。

 俺が奏多の身体に触れてから。直ぐに、その身体は地面に倒れ込んだ。

「ねぇ、真くん……。怪我しちゃった。だから、治療してくれるよね?」

 前に、『傷を負ったら治療する』と約束したからだろう。こんな状態なのに、嬉しそうに笑っている。

「馬鹿か! そんな軽い怪我じゃねぇっ! ……お、お前、なるべく血を流さないって、言ったじゃねぇか……」
「ああ~、そうだったね……ごめ――ゴホッ!」

 ――ボタタと、奏多の口から血が溢れ出す。

「……っ、で、電話、電話しないと……!」

 ガクガクと手が震える。いや、全身が震えてしまい。奏多の血濡れのポケットになかなか手が入れられない。

「……な、奈央子! なんでだよ……! ただ、後継者を放棄させるだけだって……。マコちゃんを人質に、言質を取らせるだけだって………。そう、決めたじゃんか……っ! ――ッ……!」

 後ろで三葉が、奈央子を責める声が聞こえてくる。
 けど、その殆どが耳を通り抜けていき。聞こえているはずなのに、理解が追い付かない。

 ――血でへばり付くポケットに、何とか手を入れることが出来。途端に、俺の指先に固い物がコツンと当たった。
 それを掴み、引き出そうとしたが――奏多に優しく手を握られ、動きを止められる。

「聞いたね? 当主に『次期当主を脅す計画を立て、それによって命を脅かすことをした――篠崎 三葉と、その共犯者を排除する』……と、早急に伝えに向かって」
「畏まりました」

 奏多は、俺の後ろに向かってそう言い。そして、俺の手を持ち上げるようにして、ポケットから出した。

 ――俺が掴んでいた固い物は、拳銃だった。

 小南のように、もう一つ持っていたのかと思うより前に。そんな物を持っているのが恐ろしく、手から慌てて離す。

 冷静であれば、形で分かっただろうが……。焦りによって、掴んでいる物がそんな凶器だっただなんて、考えもしなかった。
 歯がカチカチと鳴り、冷や汗が流れ落ちる。

 地面に落ちたそれを、奏多が顔をしかめて拾い――迷いもなく、その銃口を俺に向けた。

「……え、奏多……? ま、さか……」

 俺の頭の中に、奏多が『僕より早く死んでね』と言った声が鮮明に蘇り、察する。
 奏多は、自分が死ぬ前に……俺を殺すつもりなのだ。

「真くん、大丈夫だよ――また会おうね」

 指に掛かった引き金が引かれる。

 けれど、強い痛みを感じることなく。急速に目の前が暗くなり、暗闇の中へと落とされた。


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