可哀想な君に

未知 道

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白井 真 19

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「蒼井、ありがとな」
「いいよ、いいよ! 俺もスッキリしたわ。ばあちゃんの頼みを、ちゃんと叶えられてさ~」

 暫くして、部屋に戻って来た蒼井から聞いた。
 蒼井は、おばあちゃんに頼まれていたらしい。もし、俺に会ったら手紙を渡して欲しい……と。
 確かに、蒼井も――憑き物が落ちたような顔をしている。
 なんだか、申し訳ない気持ちになったが……。謝ったら、再びその顔が曇るだろうと思い。お礼だけを口に出したのだ。

 玄関前で、別れを言おうとした時に――スマホの着信音が鳴る。

(そういや、ポケットに入れたままだった……)

 蒼井に「じゃあ、元気でな!」と手を振り、別れを言ってから外に出る。

(……小南からだよな?)

 これは借り物だ。だから勿論、発信者はこれを渡した本人からだと思った。

 奏多の容体の話だろうと、胸がグッと締め付けられた感覚する。

 それを、振り払うようにスマホ画面を見て――先程と打って変わり、バクバクと心臓が激しく鼓動を刻む。

 その画面に『奏多』と表示されていたからだ。

 ――そんな、まさか……と。通話ボタンをスライドさせ、恐る恐る「は、はい……」と声を絞り出すように、発した。

『真くん、浮気だね。僕が見てないと思った?』

 おどろおどろしい奏多の声が、電話口から聞こえ……。生まれて初めて、喉が痛いくらいの絶叫を上げた。

 蒼井が慌てた様子で、俺の元に駆けてくるのを『ごめん、大丈夫だ』といったようにジェスチャーする。

 俺は、奏多に呪い殺される。

 きっと、奏多は死んでしまった。それで、前に言った通りに、呪い殺しに来たということだろう。
 そんなこと、本当に出来るとは考えてもいなかった。

 でも、可能ならば。なるべく、被害は最小限にしなければ……。勘違いした奏多に、蒼井が呪い殺されてしまうかもしれないからだ。

『なんか、思い違いしてる? 僕、死んでないよ。さっき目が覚めたんだ。まぁ、のは本当……――真くん、男の家に入ってったよね? あまりに許せなくて、目が覚めちゃったよ。お金は、僕が目を覚ます間の食費にであって、その男と会わせるために置いていたんじゃないから』

 奏多が死んでいないと分かり、ホッとした。
 けど、今持つこのお金も、奏多がこうなった時のために置いていた計算によるもので。しかも、全ての行動を『見てた』とも言われ、恐怖で身体がブルリと震えた。

(これ、奏多……ガチで殺れるだろ)

 スピリチュアルの話は、信用したことなかった。でも、ここまでくれば信じざるを得ないと思ってしまう。

 身体を恐ろしさに震わせていると『早く、病院に来て。じゃないと……真くんとあの男、今すぐに殺しちゃうよ?』と奏多に脅された。



 ♢◆♢


「さぁ、説明して」

 病室のドアを開けた途端に。奏多はいつものニコニコ顔で、俺に説明を求めた。

 重体であったという情報は、嘘だったのかと思うくらいにいつも通りの言動だ。
 けど、青白い顔や、消毒液の匂いなどにより。本当に怪我を負っていたということは、流石に分かる。

「はぁ……。おばあちゃんからの手紙を渡してもらっただけだよ。そんな、お前が怒るようなことはやってない」
「ラブレター?」
「アホッ! んなわけあるかよ! 俺のおばあちゃんの手紙だ! そこの家のおばあちゃんと仲良かったから、預かってくれていたんだよ」

  まだなんか言うか? と構えていたら。奏多の怒りのこもっていた黒い笑みが、ふわりとした笑みに変わり「真くん、良かったね」と嬉しそうな声で、祝福される。

「え……? な、なにが?」
「おばあちゃんに、ちゃんとんでしょ?」

 少し、ポカンとしてしまったが。言われた意味を理解し、奏多を睨み付けた。

「見てたのかよ?」
「見てないよ。真くんがそこの家に入ってからは、すぐに目を覚ましたから」
「は? じゃあ、なんで……」

 奏多が、俺の頬を優しく撫でる。

「真くん、今ね。貰いたかった物を、漸く貰えた嬉しそうな子供みたいな顔してる。だから、分かるよ」
「……っ、……」

(なんだよ、それ。お前が、なんでそんなに嬉しそうなんだ――)

 けど、その通りだった。

 俺は、ずっと……おばあちゃんから愛されたかった。
 それだから、あんな馬鹿みたいに『人に認められて、有名になりたい』と行動していた。
 自分は、凄い人間なんだと。ほら、誇らしいだろうとおばあちゃんに見せるためだけに、世間で認められている人の真似ばかりしていた。【自分】なんて持っていなかった。
 結局上手くいかず、当たり前のことにバッシングを受け。怯える俺に、おばあちゃんは「意味の無いことは、止めなさい」と呆れた顔をしていた。
 悲しくて辛くて日々を過ごしているうちに、おばあちゃんが亡くなった。
 それからは、張り詰めていた糸がプツリと切れたように、誰にどう思われようが、もう、気にはならなかった。

 だって、自分を認めて欲しかった人は、永遠にいなくなってしまった。
 俺のした行動全てが、無意味だった。そんなものには、なんの価値も無かったのだと――今までの自分を否定する気持ちばかりが湧き上がり、自分という存在にも価値が無いのだと思えてきて……苦しかった。

 こんな気持ちを抱え。消化出来ないまま、一生を終えると思っていたが……。

 おばあちゃんの手紙を読み。生まれて初めて、曇っていた心が晴れた。

 渡された手紙には、懐かしいおばあちゃんの筆跡で『お母さんとお父さんのように、自分を持って。後悔のないよう、幸せになって欲しい。真、愛している』とただそれだけが書かれていた。
 けど、その文章を見て。おばあちゃんが俺を愛し、両親のことに対して“後悔”していたということが分かった。そう思えたのも――。

 おばあちゃんから、ある日、ポツリと言われたことがあって……。
 貧乏な俺の父親に、女手ひとつで育て上げた大事な娘を嫁がせたくないと結婚を反対した。けど、娘はそれを振り切り、俺の父親と結婚をしてしまった。
 それから娘との仲がこじれ、なかなか顔を合わせることも無くなり。娘が事故でこの世を去った。もう一生、仲直りすることは出来ない……と。

 その時は『だから、お前のせいで自分の娘が死んでしまった』と暗に言われたのかと思っていた。事故は、俺が行きたいとおねだりした遊園地の帰りに起こってしまったようだから……。
 けど、手紙に書かれた『』という文章で。おばあちゃんは自分が、娘の意思を認めなかったことに対して後悔をしていたのだと伝わってきた。
 何故なら、そこの文字だけは、おばあちゃんの字が震えていた。なんだか、そこの部分にだけ……自分のことを入れたように感じたのだ。

 きっと、おばあちゃんは――いつかは娘に謝って、ちゃんと仲直りをしたいと思っていたのだろう。だから、それが二度と出来なくなり。過去、自分が娘のことを締め付けていたことを後悔したのだと思う。
 それでだろうか、孫の俺に対しては、変に干渉しないと決めたのかもしれない。俺が何をしようが、気にされていないとしか見えなかったからだ。

 それで、俺は――おばあちゃんは俺が大嫌いで、だから勿論、無関心であるのだと勘違いしてしまった。

 けど、今なら……本当に不器用な人だなと思える。
 おばあちゃんは、あまり感情を態度や口に出したりもしない。それで、俺はいつも不安だったけど……。
 もしかしたら、おばあちゃんとしっかり向き合ったのなら。その内にある気持ちが伝わってきたのではないかと思う。
 それは……蒼井のおばあちゃんが「真くんのおばあちゃんは無口だけれど、結構分かりやすいわよ~」とよく言っていたから……――。


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