可哀想な君に

未知 道

文字の大きさ
27 / 36
番外編

小南 奈央子『どんな手を使ってでも』 2

しおりを挟む
 


 後から聞いたら、男の子が篠崎家の直系だと知り。非常に驚いた。あんな、吹いたら飛んでしまいそうな子が、あの厳格そうな当主から生まれたなんて……と。

 でも、思い返してみると。だいっ嫌いな【篠崎 奏多】に容姿が似ていたような気もする。
 あんな奴より、百倍。好感の持てる容姿だが……。

 それから、もともと篠崎家と関わりのある両親に頼み込み。その子がよく居るらしい――私と出会ったあの庭園に、通うようになった。

 すぐに名前を教え合い。男の子を『三葉』と呼び。私のことを『奈央子』と呼んでもらうことにした。

 今まで、人を馬鹿にし。毎日がつまらないって理由で、人間を壊そうとまでしたのが嘘であるかのように。毎日が楽しくなった。
 それで、人で遊ぶのも止めることにした。
 三葉が知ったら、悲しむと思うからだ。

 両親のことも、三葉がああいったから、ちゃんと大事にするよう改めた。そうすれば、優しい三葉は喜んでくれるはず――。

 三葉は、とても優しい。心配になるくらいに、優しいのだ。
 だから、何かあったら私を頼るようにと、よくよく言い聞かせた。
 いくら、人で遊ぶのを止めたからって、三葉を傷付けるなら別。徹底的に、制裁するつもりだからだ。

 三葉と出会い、数年が経った頃。急に、三葉と会うことが出来なくなった。
 いくら頼んでも、門前払い。

 何があったのかと、情報を集めようとしても。今の私には、篠崎家の強固なセキュリティをすり抜けることは出来ないだろう。

 悔しくて歯噛みしていた時に、また三葉と会えるようになった。
 三葉は、酷く疲れたような、萎びたような……何かに非常に怯えていた。

 私は言った。何があったのかと、私が何とかしてあげるからと――。

 けど、三葉は首を振り。「大丈夫だよ」と、終始、困ったようにふにゃりと笑っているだけだった。

 その時から、三葉と会うことが難しくなってしまい。一月に1、2回が良いところだ。
 しかし、一年が経った頃。三葉が、真っ白な兎を連れて来た。

 三葉は、目尻を下げ、その兎を愛おしそうに見ている。だから、ムカムカした。そんな生きた毛玉より、私を見て欲しいと兎に嫉妬してしまった。
 でも、三葉が「ほら、奈央子も抱いてごらん。可愛いでしょ?」と、私に兎を渡してきた。
 ふわふわとした感触が腕に触れて――『まぁ、いいか。確かに、可愛いし……』といった気持ちになり。私は、すぐに兎の存在を受け入れたのだ。

 それからは、三葉は以前と同じ頻度で、私と会ってくれるようになった。
 腕には、白い兎を抱いていて。いつしか、それが当たり前の光景になっていた。

 兎も私に懐いてくれて、可愛らしい鼻をふんふんと忙しなく動かし、近付いてくる。
 その鼻を人差し指で、いつもチョンと軽く押すのだ。私にとっての挨拶なつもりで。

 三葉は「リコちゃんが鼻ぺちゃになったら、どうするの~?」とリコを抱き上げ。私の隣に腰掛ける。
 すぐ隣にいる三葉に、胸がドキドキとする。

(将来、兎とか小動物を飼って。それで、私と三葉が結――)

 そこまで考えて、ブンブンと首を振った。
 まだまだ先の話だと、リコを撫でる三葉をチラリと覗き見る。
 綺麗な笑顔。本当に、三葉のその顔が……私は大好きだった――。



 ♢◆♢


 リコと出会ってから2年が過ぎ――再び、三葉と会うことが出来なくなった。

 ……とても、胸騒ぎがする。
 以前のことがあるからと、本格的に情報収集や、ハッキングの腕を鍛えていた。
 けど、まだ篠崎家に手をつけることは出来ない。篠崎家に関しては、バレずにハッキング出来るまでには至っていないのだ。

 けど、数日後に。三葉に会うことが出来た。

 私の前に現れた三葉は……別人のようになっていた。

 人を食ったような、軽い言動。私の大好きな笑顔じゃない――軽薄そうな、ヘラヘラとした笑顔。

 混乱する。三葉に、一体なにがあったのだと……。
 それで、リコに助けを求めたいという思いから、三葉の腕元を見るが。いつも一緒にいたリコがいない。

 だから「リコは……?」と恐る恐る三葉に聞いた。

 三葉は「殺した」と、ただそれだけを言い。また、ヘラヘラと笑う。
 それを、なんとも思っていないという顔。

 ぐわんと、視界が回っているようで、気持ち悪い。私の大好きな三葉が変わってしまった。理解できない。あんなに、優しい人間だったのに……どうして?

 でも、直ぐに気付いた――。

 三葉は、手をギリギリと握り締めて、地面に血がたくさん滴り落ちている。それは、まるで……涙をそこから出しているようだった。

『ああ、そうか』と思う。

 篠崎家が、三葉を苦しめているのだ。

 前も、今も――篠崎家が、私と三葉を引き離す。

 許せない。三葉を苦しめる、篠崎家の全てが……煩わしい。

 だから、三葉。私が消してあげる。

 どんな手を使ってでも、茨の道に進まなければならないとしても――可哀想な三葉に、私が救いの手を差し伸べてあげる。

 きっと、いつか。貴方が本心から笑えるように、その絡み付くしがらみから解放してあげる。

 だから、待っていて――三葉。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...