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番外編
篠崎 三葉『伝わらぬ、歪愛』 1
しおりを挟む「ちっきしょ~! なんで、俺がこんなことっ!」
俺は、今。大量な書籍に、囲まれている。
山のように積み上げられた様々な本たち。これを、50音順に整理しなければならない。
何故なら、奏多に――「三葉はさ。寝て、食って、キャンキャン吠えて……本当の犬みたいなことしかしてなかったよね? 頑張った僕を、少しは楽させてよ。だから、なかなか整理してなかった書斎の整理、よろしくね」と、ニコニコと命令されたのだ。
「どうしても欲しいものあったら、持っていってもいいから」とも言われ。つい「お前のなんて、いらねぇよ!」と腹立ちまぎれに叫んでしまった。
マコちゃんと上手くいって、少しは丸くなったと思ったけど。やっぱり、奏多は奏多だった。
此処は、マコちゃんと奏多が住んでいる高級マンションではなく。奏多が持つ別荘の一つだった。
どうせ、あまり訪れないんだから、さっさと手放せよ……と思いながらも、手を動かす。
「はぁ……。めんどくせ~」
こんなこと、放り投げても良いのだろうが……。奏多には今回のことで、頭が上がらない。
それで、真面目に本棚に並べていく。
「つか、奏多がこんなバラバラにしてるなんて、珍しいな……」
なんでも難なくこなせる奴が、ここまで未整理に散らかすなんて……と、少し意外に感じる。
(まぁ、でも……。人間なら、そんなこともあるか)
新しい本を手に持つ。その本は、クシャリとしていて随分と使い古されている。
さてさて、どこに並べるものだと表紙をみるが……。何も記載されていない。
そして、よく見てみると。本というよりノートのように見える。
「ん~? なんだこれ……? どこに並べりゃいいんだよ、たっく……」
仕方なく、それを捲り。その中身に目を通す――。
***
××××年××月××日
身体が弱く、妊娠は出来ないと言われていた静香が子を宿した。
奇跡的なことではあったが……。医師からは、静香が出産したら命が危ないと言われ。一瞬、産むのを止めさせようかと考えた。
だが、静香は絶対に産みたいと言った。
それに医師には。次、妊娠は出来ないだろうとも言われたから……この子は私と静香の最初で最後の子供になるだろう。
優秀な医師をつけて、無事に出産させることに決めた。
××××年××月××日
静香が、男児――三葉を産んだ。触れたら壊してしまいそうで、心配になる。
だから、変に触ることは出来なかった。静香に、寂しそうな顔を向けられたが……。私は人より力が強い。だから壊さないためにも、触れられなかったのだ。
××××年××月××日
静香は産後の肥立ちが悪く、この世を去ってしまった。選りすぐりの医師たちを呼んだのに。本当に、使えない者達だった。
静香は、ただ私が側にいるだけでいいと言ったが。少しでも可能性があるならと、今いる医師に加え。より優れた医師をかき集めるために、飛び回っていたのだ。
私が戻った時には既に、静香は息を引き取り。いくら話し掛けても、目を覚ますことはなかった。
今、思えば……側にいてやれば良かったと後悔しかない。
××××年××月××日
私は、三葉に嫌われているようだ。いつも、私が近付くと下を見て、視線を合わせようとしない。
何故だ? 優し過ぎる三葉を強くするために、強く言いすぎたのが悪かったのだろうか……?
だが、篠崎家にいる以上。三葉のように、優しすぎてはいけない。周りの人間に壊されてしまうからだ。だからしっかりと、私が三葉を強くしなければならないのだ。
……しかし、息抜きをすることも必要だろう。庭園を、もっと大きく改装することにしよう。庭園を管理する者も、今いる者達に加え、更に十数人ほど雇わなければな。
××××年××月××日
三葉が、初めて私に反抗した。世話をさせていた獣を、殺させたのが良かったようだ。
それから、私に目を合わせるようになり、強い意思を伝えられるまでになった。
漸く、私を見れるまでになったようで安心した。あと、もう少し、精神を強くさせよう。
従兄弟の奏多くんのようになれば、この篠崎家でも普通に過ごしていけるだろう。
上手く競争心が湧くよう、言葉をかけてみるか……。
×××年××月××日
三葉を細かく観察していたら、根本的には何も変わっていないことに気付いた。あの優しいままでは、いつか壊れてしまう。
このままいけば、まだ後何十年も私が当主だ。どうすればいいか、分からない。
途中で当主を降りても、反発のないよう。私以上に当主らしい者を見付けなければ……。
××××年××月××日
奏多くんに、当主の座を譲ろう。
もともと優秀だとは思っていたが。あんなにも易々と、問題のある幹部の人間を失脚させたのには驚いた。
周囲の皆も、あの能力を認めていた。ならば、奏多くんが当主になるなら、反発は起こらないはずだ。
引き継ぎをするために、暫くは奏多くんをサポートしなければならないが……。それが終わったら、私は篠崎の籍から抜けよう。
それで、三葉と自然がたくさんある場所に移り。近くに、動物園でも作ってやれば喜ぶだろう。
××××年××月××日
奏多くんが、三葉を監禁している。
影からの報告では、殺すつもりはないようだが……。奏多くんを消すか、非常に迷う。
奏多くんがいなくなれば、私はこのまま当主でなければならない。それでは、困る。
だから影には、三葉に命の危険があるなら連れ出すようにと伝え。様子を見ることにした。
送っている影は、奏多くんに陶酔しているところがあるから少し心配だが……。今、使える一番優れている影だから、きっと大丈夫だろう。
××××年××月××日
三葉、これを読んでいるかは分からないが。最後に、伝えたいことがある。
私と静香、産まれてくる子の三人で寄り添い。ずっと幸せに過ごしていきたいといった意味で、お前を『三葉』と名付けた。
すまない。私は……夫としても、父親としても、失格であったようだ。
静香や三葉を、悲しませ、苦しめていただけだった。
けど私は、家族を一番大切に思っていた。本当に、大切なものだと……いつも思っていたよ。
――……パタパタパタパタ。最後のページに、点々と染みが出来る。
「ばっかじゃねぇの……。分かるわけねぇだろ、そんなの……! ちゃんと、言葉で、態度で、伝えてくれよっ! じゃないと、分からねぇだろ! ……分からねぇよ……っ!」
厳格な父親。血も涙もない人間。
唯一、親子だと分かるものは。父親と瓜二つな、この容姿だけ。
愛情なんて、産まれた時に捨ててしまったのだろうと思っていた。残酷なことを嬉々としてしてくる、憎らしい存在でしかなかった。
「なんでだよ……? なんで、こんな少女みたいに、まめに日記なんかつけてさ……。まるで、種明かしみたいに、こんなところに本心を記すんだ。言ってくれよ……。ずっと、その言葉を、言って欲しかったのに……」
伝えてくれなければ、分からないことなんて沢山ある。
特に親の場合。親になった途端に、子供とは違う成長をする。それは、その名の通りに“親としての成長”だ。
子供を育てながら。子供と一緒に、成長をしていく。
けれど……。子供の意思を一切聞かずに、もともと持っている自分の価値観を、説明もなく押し付けるだけならば――いつまで経っても、その成長は出来ないだろう。
それは『子供と一緒に』ではないからだ。独りよがりな『自分の気持ちだけ』を押し付けて、成長など出来るわけがない。
だから……父さんは、終ぞ――“親としての成長”が出来ないまま、この世を去ったのだ。
そして、奏多が何故……。あの時、影に『篠崎 三葉と、その共犯者を排除する』と強調するかのように、わざわざ言ったのかを今になって理解する。
奏多は、父さんが自分の子を助けるため。あの倉庫に、『任務中の手練れな奴ら全員を、絶対命令で無理矢理あの倉庫に送り込む』だろうことを、初めから分かっていたのだ。
父さんがあんな暴挙に出たのは、奏多を助けるためではない――自分の子を助けるためだった。
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