白のマシュー

あやさわえりこ

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帰らない両親

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 人間でも、ゆうれいでもない時点でいろいろふしぎだけど。性別がないなんて。ぬいぐるみに、命が吹きこまれているようなものかも。ならマシューは、お腹空いたり眠たくなったりしないのかな。
 グー。リビング中に響くくらいの音が鳴ってしまった。それはあたしのお腹からだった。マシューのことで気がまぎれていたけれど、やっぱりお腹は空いていたんだ。
「ゆいちゃん、ずっと食べてなかったからお腹空いてるんでしょ」
 見透かすようにマシューはあたしを見た。あたしはお腹をさすってコクリとうなずいた。
「お母さんとお父さんを待っていたら、こんな時間になっちゃった。なんにも食べてないの。でも、お料理なんて作り方わかんないし、そもそもお湯の沸かし方だって知らない」
 マシューはあたしの言うことに、うんうんと頷きながら聞いてくれていた。
「そうだったんだ……。じゃあ、ぼくが教えてあげる!」
 そう言ったマシュー。台所に向かって飛んでいった。途中で止まり、ふり返って、小さな手であたしに手招きする。
 とりあえずあたしはマシューについていった。マシューって、料理できるの?
「カップラーメンがあるね。早く食べたいだろうし、これにしよっか」
 整理整頓された戸棚をながめて、マシューはすぐにカップラーメンを見つけ出した。ようやく台所に入ったあたしは、戸棚を開けて、縦長のカップラーメンを取り出した。台所に入るなんて、ほとんどなかった。入ってもお母さんと一緒だったし、包丁なんか触ったこともなければコンロのスイッチに触れたことさえなかった。
 とにかく台所の電気を手探りでつけてみると、お母さんがいつも使っているシンクやキッチン、コンロや食器洗い機が姿をあらわした。台所の一番手前にある冷蔵庫はあたしだってよく開けるんだけど。
「これこれ」
 マシューは宙をふわふわと進み、あるものの近くで止まった。小さな手で指し示してあたしのことを待つ。あたしだって、これの名前くらいはわかる。
「やかん?」
 お母さんがまな板を置く調理台に、赤色のやかんが置かれていた。お母さんはよく使うものをこの上に置くくせがあるってお父さんが言ってたっけ。やかんはお湯をわかす道具で毎日使うからここに置きっぱなしみたい。
「やかんに水を入れて、ゆいちゃん」
「う、うん」
 赤いやかんの取っ手を持つと、片手で軽々と持ちあがった。あたしの顔くらいはあるやかんだけど、思ったより重くないんだな。
 ふたを開けて、水を注ぎ入れる。ジャーッと勢いよくやかんに入っていく。
「ストップ!」
 やかんの半分にもいかない量でマシューは言った。びっくりしてあたしはすぐに止めた。
「このくらいで十分だよ。あんまり多いと沸くのに時間がかかるんだ」
 ……マシューって、人間みたいにいろいろ知ってる。
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