白のマシュー

あやさわえりこ

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帰らない両親

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 やかんに水が入るとやっぱり重たくなった。慎重に両手で持つ。こぼさないように、ゆっくりと。たぶん次は火にかけるんだろうと思って、あたしはコンロの上まで運んだ。
「そう。コンロの上に置いたら……あっ左にずれてるよ」
 あわてて右に動かす。コンロの中央と、やかんの中央が同じになるようにっと。
「次は火をつけないとね」
 うーんとマシューはコンロの下のボタンをながめる。あたしも見てみた。合計三つあるコンロの下にそれぞれ何個かのボタンが付いている。弱・中・強と並んでいて、安全モードとか揚げ物用とかもある。どれかを押すのだけど、どれを押せばいいんだろう。
「点火するときは長押しするみたいだね。ゆいちゃん、『中』のボタンを長押ししてみて。あっ長押しっていうのは、一秒より長めに押し続けることだよ」
 あたしはマシューの言葉を信じて、人差し指をボタンに近づける。これで火がつくのかな? ボッていう音とかしないかな。あたしの指はふるえていた。初めて自分で火をつけるから、緊張する。
 言われた通りに、押し続けた。チチチチとコンロの奥からか音がした。そしてボッと音をたてて火がついた。青い炎がやかんの下で揺らめき、勢いよくやかんを温めだす。
「やかんのふたを閉めて。じゃないと温まりにくいからね」
 あたしは急いでやかんにふたをした。でもふたを閉めたら温まったかわからないんじゃないかな?
「ふた閉めるの?」
「うん。やかんはお湯がわいたらキューって鳴り出すんだよ。それがもういいよっていう合図なんだ」
「へぇー、そうなんだ」
 たしかにお母さんがやかんを火にかけているとき、キューって音がしたらすぐに火を消してやかんを持ち上げていたっけ。
「まだ沸かないから、カップラーメンの準備をしよっか。でもね、火からあんまり目を離しちゃいけないよ」
 あたしはやかんのそばにいながら、調理台の上にカップラーメンを置いた。カップを見回して『作り方』を探す。見つけた、でも漢字が多くてよくわからない。『蓋』ってなんのことだろう? 『蓋を半分まで開ける』とある。
「ゆいちゃん、上のふたを真ん中まで開けるんだよ」
 なかなか動けなかったあたしのそばでマシューが呼びかける。なるほど、そういうことか。マシューが教えてくれた通り、紙のふたを真ん中まで開けた。ふわっといい香りがただよう。乾ききっためんの上に具材がたくさん入っていた。
 やかんが小さな音で鳴き始めた。ピューッと風の通るような音がする。それは一分とたたないうちに、キュー! と鳴り出した。注ぎ口から白い煙が上がりだす。マシューは煙の近くまでいきチェックしているようだった。
「もういいみたいだね。ゆいちゃん、コンロのスイッチを消して」
 えっとえっと……とあたしは慌てた指でオフと書かれたボタンを押した。火は小さくなり、やがて消えた。同時にやかんの鳴き声も止んだ。
「お母さんがいつも使っている、これこれ」
 マシューの小さすぎるかわいい手は、大きな手袋のようなものを指していた。あたしの手の三倍はありそうな、厚い生地の手袋。そういえばお母さんは、これを手にはめてやかんを持ったりお鍋を持ったりしていた。
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