白のマシュー

あやさわえりこ

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帰らない両親

ページ8

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 あたしは二つの手袋を取ると、両手にはめてみた。大きすぎて、力が入りづらい。
「これでやかんを持たないと、やけどしちゃうからね」
 火で熱されたやかんは、取っ手の部分でも熱々だろう。あたしは厚い生地の手袋に守られて、両手でゆっくりとやかんを持ち上げた。注ぎ口を、カップラーメンの上に持っていき、震えながらお湯を注ぐ……。
「線までだよ、薄い線」
 こぼさないように、こぼさないように、細心の注意を払いながら。カップラーメンに食べ物の命を吹きこむ感じ。
 マシューに言われた線に達したところでやかんをコンロに戻す。やかんはずいぶん軽くなっていた。
「ふたを閉めてね。あと、何か重いもので押さえつけられるといいけど」
 たしかに紙のふたではすぐに開いてしまう。手でぐっと押さえられればいいけど熱湯を注いだから熱くてずっとは触れていられない。どうすればいいのかな。
 キッチンを見てみた。紙のふたがへこまない程度の、ちょうどいいサイズの重し。
「これってちょうどいいかな?」
 今置いたばかりのやかん。そのふたは、一目見ただけで、カップラーメンのふたより一回り大きくて、ちょうどいいサイズだった。
「そうだね。それがいいね」
 マシューはやかんのそばにいた。まるで、あたしがやかんのふたがいいとひらめくのを待っていたかのように。あたしはやかんのふたをカップラーメンの上に置いた。ふたも開かなくなったし、湯気も上がらなくなった。
「これで三分待つんだよ。あっここに時計があるね」
 お母さんが、料理するときには時間が大事って言っていた。どこで測っているんだろうと思っていたら、ほんとだ、シンク上の台に目覚まし時計が置いてあった。手のひらサイズで、色はお母さんが好きなピンク色だった。
「三分だね」
 ちょうど今、「十二」を過ぎたところだ。これが三回「十二」を過ぎれば三分だ。
 ジー。
 あたしは時計の針をじっと見る。だって、見逃して一周回ってたら大変じゃない。
 ちらりと横を見るとマシューも時計とにらめっこ。ものすごい真剣に時計を……にらみつけてるみたい!
 あたしも負けじと真剣に見つめた。いや、こんなことでマシューと競争してもおかしいんだけど、なんだかマシューの顔がおもしろくって。マシューもあたしのことをちらちら盗み見してるみたい。マシューも、あたしと同じであたしの顔をおもしろがっているのかな? あたしはマシューの顔を見ようとした。するとさっとマシューは時計のことをこれでもかと集中して見つめ出す。くすくすっと声が出て笑っちゃうと、マシューも、こらえきれない笑いをがんばってガマンしようとしていた。……あたしたち、時計とにらめっこしていたんじゃなくて、あたしとマシューとでにらめっこしていたのかな?
「もう、なぁにマシュー」
 あたしがひじでマシューをほんのちょっと小突いてみた。マシューの白くてふわふわした毛があたたかかった。
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