17 / 45
異変
ページ17
しおりを挟む
おばあちゃんは倒れこむようにお医者さんの服にしがみつく。
「秀太は……秀太と真広さんは……」
そんなおばあちゃんに、お医者さんはうなだれていた。そして穏やかに腕を振りほどき、何かをさとったようなおばあちゃんのひざが折れる前に、体を支えてあげようとした。追いついたおじいちゃんがその役目を代わる。おじいちゃんは震えた声で「どうなったんですか?」と、恐る恐る尋ねた。
お医者さんの顔は、白い光に照らされてよけいに白く見える。おばあちゃん、おじいちゃん、そしてあたしを順番にながめると、ただ一言、「こちらへ」と、左の通路を指し示した。
お医者さんの後をついていく。白い光はだんだんと暗くなっていく気がする。おばあちゃんはおじいちゃんと一緒に歩く。その背中を見ながらあたしは歩く。足音しかしない。あたしたちの足音しかない、静けさの中。何かわからないけれど心の中に冷たい風が吹きつける気がする。
お医者さんの足が止まった。扉の前であたしたちを待つ。
まずおばあちゃんとおじいちゃんが先に止まった。一緒に扉の前に立った。すると、おばあちゃんは一瞬で崩れたおれた、まるで砂のように。わけがわからず声をあげ、むせび泣き、しわの寄った目から……滝のように涙がこぼれだした。おじいちゃんはガラスになった壁の向こうを一目見ると、呆然と立ち尽くし、みるみる瞳から光が失われていった。おばあちゃんがおじいちゃんにすがるけれど、それに一向に気がつかなくなってしまった。
二人のもとにやっとあたしはたどりついた。右手に触れたガラスの壁がひんやり冷たい。あたしもおじいちゃんと同じように壁の向こう側を見た。
「最後まで手を尽くしましたが……」
薄暗くて機械だらけの部屋には、二つのベッドの上に男の人と女の人が寝かされていた。ふしぎなことに顔には白い布がかけられている。
顔が見えないけれど、ふとんを胸の辺りまでかぶっているけれど、あたしには、服装で女とか男とかわかった。
だって、女の人は、お母さんがよく着ていたオレンジ色のブラウスが見えたから。男の人は、 お父さんがよく着ていた黒のTシャツが見えたから。女の人は髪の毛が長い。お母さんも一つ結びを解いたらあのくらいの長さだ。男の人は短い髪の毛だ。お父さんも短い髪の毛が好きだと言っていた。この女の人と男の人はだれなんだろう。お父さんとお母さんによく似ている。
……お父さんとお母さんみたい。いや、これはお父さんとお母さんじゃないのかな?
ふわっと、ほおにやさしい毛並みがふれた。丸くて温かくて近くにいてくれるって言ってくれた存在。マシューはいつのまにかあたしのそばに来てくれていた。ほおに、ちょんっと体をあててくる。ちゃんといるよ、ここにいるよって気づいてほしいみたいに。あたしはマシューを右手でなでた。ほんのり温かい、まるでぬいぐるみみたいなマシューは、あたしと目を合わせて「やっと気づいてくれたね」と言わんばかりに小さくほほえんだ。そして、右手にすりすりとほおずりをする。ちょっとくすぐったい。
「ここにいるよ、ゆいちゃん」なんて温かい声なんだろう。
「ずっとそばにいる」
その言葉と声は、あたしを冷たい空気から守ってくれる。この薄暗くて冷たそうな部屋に横たわる、ちっとも動かない二人から吹きつける冷たい風から。
「秀太は……秀太と真広さんは……」
そんなおばあちゃんに、お医者さんはうなだれていた。そして穏やかに腕を振りほどき、何かをさとったようなおばあちゃんのひざが折れる前に、体を支えてあげようとした。追いついたおじいちゃんがその役目を代わる。おじいちゃんは震えた声で「どうなったんですか?」と、恐る恐る尋ねた。
お医者さんの顔は、白い光に照らされてよけいに白く見える。おばあちゃん、おじいちゃん、そしてあたしを順番にながめると、ただ一言、「こちらへ」と、左の通路を指し示した。
お医者さんの後をついていく。白い光はだんだんと暗くなっていく気がする。おばあちゃんはおじいちゃんと一緒に歩く。その背中を見ながらあたしは歩く。足音しかしない。あたしたちの足音しかない、静けさの中。何かわからないけれど心の中に冷たい風が吹きつける気がする。
お医者さんの足が止まった。扉の前であたしたちを待つ。
まずおばあちゃんとおじいちゃんが先に止まった。一緒に扉の前に立った。すると、おばあちゃんは一瞬で崩れたおれた、まるで砂のように。わけがわからず声をあげ、むせび泣き、しわの寄った目から……滝のように涙がこぼれだした。おじいちゃんはガラスになった壁の向こうを一目見ると、呆然と立ち尽くし、みるみる瞳から光が失われていった。おばあちゃんがおじいちゃんにすがるけれど、それに一向に気がつかなくなってしまった。
二人のもとにやっとあたしはたどりついた。右手に触れたガラスの壁がひんやり冷たい。あたしもおじいちゃんと同じように壁の向こう側を見た。
「最後まで手を尽くしましたが……」
薄暗くて機械だらけの部屋には、二つのベッドの上に男の人と女の人が寝かされていた。ふしぎなことに顔には白い布がかけられている。
顔が見えないけれど、ふとんを胸の辺りまでかぶっているけれど、あたしには、服装で女とか男とかわかった。
だって、女の人は、お母さんがよく着ていたオレンジ色のブラウスが見えたから。男の人は、 お父さんがよく着ていた黒のTシャツが見えたから。女の人は髪の毛が長い。お母さんも一つ結びを解いたらあのくらいの長さだ。男の人は短い髪の毛だ。お父さんも短い髪の毛が好きだと言っていた。この女の人と男の人はだれなんだろう。お父さんとお母さんによく似ている。
……お父さんとお母さんみたい。いや、これはお父さんとお母さんじゃないのかな?
ふわっと、ほおにやさしい毛並みがふれた。丸くて温かくて近くにいてくれるって言ってくれた存在。マシューはいつのまにかあたしのそばに来てくれていた。ほおに、ちょんっと体をあててくる。ちゃんといるよ、ここにいるよって気づいてほしいみたいに。あたしはマシューを右手でなでた。ほんのり温かい、まるでぬいぐるみみたいなマシューは、あたしと目を合わせて「やっと気づいてくれたね」と言わんばかりに小さくほほえんだ。そして、右手にすりすりとほおずりをする。ちょっとくすぐったい。
「ここにいるよ、ゆいちゃん」なんて温かい声なんだろう。
「ずっとそばにいる」
その言葉と声は、あたしを冷たい空気から守ってくれる。この薄暗くて冷たそうな部屋に横たわる、ちっとも動かない二人から吹きつける冷たい風から。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
ふしぎなえんぴつ
八神真哉
児童書・童話
テストが返ってきた。40点だった。
お父さんに見つかったらげんこつだ。
ぼくは、神さまにお願いした。
おさいせんをふんぱつして、「100点取らせてください」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる