白のマシュー

あやさわえりこ

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異変

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「ねえ、マシュー」
 あたしは小声でマシューに呼びかけた。目を丸くしてふりむく。
「この二人は、だれ?」
 だれと言ったとたん、冷たい風があたしの心を氷にし始める……この感覚、初めてだ。
「信じられないんじゃろうな」
 ポツリと小さく答えたのは、呆然と立ち尽くしたままのおじいちゃんだった。
「ゆいの、お父さんとお母さんじゃよ」
 ……え?
 風が心に吹きつけた。冬のピリッと痛い風よりも、もっと冷たくて寒くって、凍えそうな雪山の風があたしの心を冷やしにかかった。その後に残るのはポッカリ空いた丸い穴。氷の真ん中にできてしまった空洞。それはあたしの心のはずだった。
「ゆい……」
 あたしの足元で、あたしを呼ぶ声がする。涙声の中から言葉をしぼり出すのはおばあちゃんだった。
「ゆい……なんてかわいそうに」
 目の前のベッドの上にいるのはお父さんとお母さん。そうわかると、あたしはうれしいとも思った。だって、やっと会えたんだから。あたしが欲しかった、一位同士の、しかも他のものとは比べものにならないくらいの同着一位。
 なぜだか心はポッカリ空いたままなのに。会えてうれしいはずなのに、なぜ寒くてたまらないの?
「ゆいちゃん」
 ちょうど胸の辺りに、マシューはいた。マシューはあたしの胸にぴったりと背中をつけていた。まるでこう言っているよう……。
 あたしはその通りに、マシューを両腕でぎゅっと抱きしめた。
「ねえ」
 マシューに言ったのか、おじいちゃんやおばあちゃんに言ったのか、わからない。
「お父さんとお母さんは……眠っているの?」
 しん、と静まり返った。あたしがそう言ったとたん、空気が張りつめた。おばあちゃんの涙は止まった。涙だけじゃなくて息をする音も静けさの中に消されていった。
 マシューも答えてくれない。おじいちゃんも顔を壁の向こうに向けたまま。助けを求めるようにお医者さんの方を見たが、お医者さんもうつむいて口を固く閉ざしている。
「そうよ」
 ようやく聞こえた声には、強くて頼りがいのあるしっかりとしたものがあった。さっきまでとはうってかわっている。自信に満ちたような表情を浮かべながら真剣な眼差しであたしを見ていたのは、おばあちゃんだった。
「お父さんとお母さんは、眠っているの。とても疲れているから、それはそれはぐっすりとね。今はゆっくり寝かせてあげようね、ゆい」
 眠っているのだ。ぐっすりと。
「いつになったら起きるのかな?」
 おばあちゃんの目をじっと見つめながら尋ねたとき、おばあちゃんの目からまた水滴がほおを伝うのを見た。
「それは……いつだろうね。お父さんもお母さんもずいぶん長い間眠りたいのかもね」
 あたしは胸に抱いていたマシューを、もう一度ギュッと抱き寄せた。
「お父さんもお母さんも、あたしを置いてきぼりにして、眠っちゃったのかな?」
 ずるい、あたしもいっしょに眠りたかった。
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