白のマシュー

あやさわえりこ

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異変

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 突然テレビが消えたのだ。思わず隣に目を移すと、おばあちゃんがリモコンを構えてテレビの画面をきつくにらみつけていた。
「……おばあちゃん?」
 ずっと手に持っていた携帯電話は雑な扱いで床に落ちている。
「こんなの、見んでいい」鋭い声でそう言った。
 もう一度電話を拾い、また早口にしゃべりはじめる。おばあちゃんはテレビのリモコンを持ったまま、あたしが二度と見られないように、部屋の隅に行ってしまった。
 あの後、アナウンサーは何を言おうとしたんだろう。お父さんの名前は、田中秀太。お母さんの名前は田中真広。お父さんやお母さんと同じ名前を呼ばれてびっくりだ。
 ガラガラガラ、と部屋の扉が音を立てて開いた。おばあちゃんの田舎の家のような、横スライドの扉。
「お邪魔します」
 聞き覚えのある声。女の人の声がした「おじゃまします」とあとから男の人の声もした。
「ああ、どうもお久しぶりです、真広さんのお姉さん」おじいちゃんが目をあげる。
 あたしは部屋に入ってきた二人を見た。
「どうも、お久しぶりでございますね」
 丁寧に礼をして全身黒い服を着てやってきたのは、お母さんの姉にあたる雅美伯母さんだった。となりにいるのは旦那さん。
「連絡をもらって飛んできました。なんということに……」すでに伯母さんの目は赤い。
「本当に私たちも突然のことで、何がなんだか」
 おばあちゃんはようやく電話が終わったのか伯母さんたちと話しだす。少し話したあと、部屋の奥で『眠っている』お父さんとお母さんを見て、ひざから崩れるように泣き出した。こらえきれずに声を上げ、苦しそうだった。
 お父さんとお母さんの寝顔を見に行った人は、みんな泣くようだった。伯母さん夫婦の後、お父さんの兄にあたる秀男伯父さんもそうだった。朝から昼まで、そのほかたくさんの人がやってきては、みんな黒い服をまとって泣き出した。
 ふしぎなことにあたしを見てはみんな引きつった笑みを向けてくるのだ。なんとかあたしを元気づけようとしているような……そんな感じ。
 「大変だったね」「ゆいちゃんが一番かわいそうだ」「まだこんな小さい子を残して」同じようなことを言うおばさんおじさんたち。でもあたしには何で「かわいそう」なのか「大変だった」のかよくわからなかった。お父さんとお母さんが昨日から目を覚まさないからかな? 眠っているだけでしょ?
 マシューはあたしのそばにくっついている。たくさんの人がきてマシューも怖がっているのかもしれない。

 お昼の十二時を回ったころだった。
「お父さん! お母さん!」
 扉を開くと同時に、高い声が部屋中に響いた。大慌てな様子で部屋に入ってきたのは、あたしもよく知っている人だった。
「由香! ああ、よく来たねえ」
 おじいちゃんは忙しそうに部屋を出て行ったきり戻ってこない。おばあちゃんが迎え入れた。おばあちゃんの子どもで、お父さんの妹にあたる由香叔母さんだった。
「秀太お兄ちゃんと真広お姉さんが……」
 由香叔母さんは、あたしのことをちらっと見つけた。するとこわばった表情から一変、あたしの目を見てにこっと笑いかけてくれる。
「ひさしぶりね、ゆい」と、言葉をさえぎってまであいさつ。
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