31 / 45
隠しごと
ページ31
しおりを挟む
ようやくお坊さんの呪文が終わった。
終わったと思ったら、別の呪文がまた始まった。そろそろずっと座っているのも疲れてくる。昨日の儀式よりずっと長かった。
ようやく呪文が全て終わっても、まだ自由になれそうにない。おじいちゃんと話していたスタッフが、白い花を全員に渡す。あたしも白い花をもらった。みんなは一本だったけど、あたしは「特別に」と二本もらった。
お父さんとお母さんが眠っている箱がみんなの前に動かされて、開かれる。すると、みんなせっかくもらったお花をお父さんとお母さんの顔の近くに置き始めた。
あっというまに二人の顔の周りにはお花畑のようになった。きっと今目を覚ましたら、二人ともびっくりするだろう。お花が好きなお母さんなら、大喜びだろう。早く目を覚ましてほしいな。
あたしも、お父さんとお母さんをびっくりさせるお手伝いがしたくて、一本ずつ二人の顔の近くに置いた。二人ともあいかわらずすやすやと眠っている。一昨日から一日中ずっと寝てる……? だから、あたしは今までに一回もお父さんお母さんとしゃべっていない。
「お父さん、お母さん」
こう呼びかければ、いつも何か反応してくれる。たとえ夜に寝ているお母さんでも、夢うつつに「ん?」と返事をしてくれた。お父さんなんか、びっくりして「何かあったのか!」と飛び起きるのだ。
でも、呼びかけても、二人ともなんの返事もしてくれなかった。
目をつむったまま、口も閉じたまま。
「起きて」
起きてくれなかった。
「ねえ、起きてったら!」
お父さんとお母さんが眠っている箱に手をかけて、二人の体を揺すぶったら起きてくれるかなと思ったけれど、そんなことはしちゃだめと言わんばかりに、由香叔母さんに手を引っぱられた。できなかった。
みんなが泣いていた。声をあげて苦しそうにむせび泣く。みんな二人の目が覚めないことに泣いているのだろう。そうにちがいなかった。あたしもそれで泣きたいから。中には、なぜかあたしのことを見て泣き出す人もいたけれど。
起こそうとしても、起きそうにない。いつもは起きてくれるのに、目を覚まさない。あたしはお父さんとお母さんに話したいことがいっぱいあるのに、マシューのこともお父さんとお母さんなら信じてくれると思うのに、全然あたしの言葉を聞いてくれないじゃないか。二人ともあたしの言葉なんか聞こえないようで、ずっと動かずに目を閉じている。
悲しかった。
早く目を覚ましてほしくって、あたしもいつのまにか泣いていた。
「ゆいちゃん……」と言ったマシューの声も聞こえないくらい。
その後お父さんとお母さんが眠る箱は、黒くて金の飾りがついた豪華な車に入れられた。大きな音が車から鳴って、ゆっくりとその車は動き出した。あたしはおじいちゃんの車に乗り、みんなそれぞれの車に乗りこむと、その黒い車の後ろを走り出した。次の場所に移動する。
次もまた、白い大きな建物。一階建てで横に長かった。みんなその中に入っていく。
「ゆい」
おばあちゃんがあたしに呼びかけたのは、二人が入った箱を、みんなで取り囲んでいるときだった。また儀式をやるみたいな静かさが、おばあちゃんの声を小さくしていた。
「お母さんとお父さんに、『おわかれ』しよっか」
……おわかれ?
終わったと思ったら、別の呪文がまた始まった。そろそろずっと座っているのも疲れてくる。昨日の儀式よりずっと長かった。
ようやく呪文が全て終わっても、まだ自由になれそうにない。おじいちゃんと話していたスタッフが、白い花を全員に渡す。あたしも白い花をもらった。みんなは一本だったけど、あたしは「特別に」と二本もらった。
お父さんとお母さんが眠っている箱がみんなの前に動かされて、開かれる。すると、みんなせっかくもらったお花をお父さんとお母さんの顔の近くに置き始めた。
あっというまに二人の顔の周りにはお花畑のようになった。きっと今目を覚ましたら、二人ともびっくりするだろう。お花が好きなお母さんなら、大喜びだろう。早く目を覚ましてほしいな。
あたしも、お父さんとお母さんをびっくりさせるお手伝いがしたくて、一本ずつ二人の顔の近くに置いた。二人ともあいかわらずすやすやと眠っている。一昨日から一日中ずっと寝てる……? だから、あたしは今までに一回もお父さんお母さんとしゃべっていない。
「お父さん、お母さん」
こう呼びかければ、いつも何か反応してくれる。たとえ夜に寝ているお母さんでも、夢うつつに「ん?」と返事をしてくれた。お父さんなんか、びっくりして「何かあったのか!」と飛び起きるのだ。
でも、呼びかけても、二人ともなんの返事もしてくれなかった。
目をつむったまま、口も閉じたまま。
「起きて」
起きてくれなかった。
「ねえ、起きてったら!」
お父さんとお母さんが眠っている箱に手をかけて、二人の体を揺すぶったら起きてくれるかなと思ったけれど、そんなことはしちゃだめと言わんばかりに、由香叔母さんに手を引っぱられた。できなかった。
みんなが泣いていた。声をあげて苦しそうにむせび泣く。みんな二人の目が覚めないことに泣いているのだろう。そうにちがいなかった。あたしもそれで泣きたいから。中には、なぜかあたしのことを見て泣き出す人もいたけれど。
起こそうとしても、起きそうにない。いつもは起きてくれるのに、目を覚まさない。あたしはお父さんとお母さんに話したいことがいっぱいあるのに、マシューのこともお父さんとお母さんなら信じてくれると思うのに、全然あたしの言葉を聞いてくれないじゃないか。二人ともあたしの言葉なんか聞こえないようで、ずっと動かずに目を閉じている。
悲しかった。
早く目を覚ましてほしくって、あたしもいつのまにか泣いていた。
「ゆいちゃん……」と言ったマシューの声も聞こえないくらい。
その後お父さんとお母さんが眠る箱は、黒くて金の飾りがついた豪華な車に入れられた。大きな音が車から鳴って、ゆっくりとその車は動き出した。あたしはおじいちゃんの車に乗り、みんなそれぞれの車に乗りこむと、その黒い車の後ろを走り出した。次の場所に移動する。
次もまた、白い大きな建物。一階建てで横に長かった。みんなその中に入っていく。
「ゆい」
おばあちゃんがあたしに呼びかけたのは、二人が入った箱を、みんなで取り囲んでいるときだった。また儀式をやるみたいな静かさが、おばあちゃんの声を小さくしていた。
「お母さんとお父さんに、『おわかれ』しよっか」
……おわかれ?
0
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
ふしぎなえんぴつ
八神真哉
児童書・童話
テストが返ってきた。40点だった。
お父さんに見つかったらげんこつだ。
ぼくは、神さまにお願いした。
おさいせんをふんぱつして、「100点取らせてください」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる