白のマシュー

あやさわえりこ

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隠しごと

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 ようやくお坊さんの呪文が終わった。
 終わったと思ったら、別の呪文がまた始まった。そろそろずっと座っているのも疲れてくる。昨日の儀式よりずっと長かった。
 ようやく呪文が全て終わっても、まだ自由になれそうにない。おじいちゃんと話していたスタッフが、白い花を全員に渡す。あたしも白い花をもらった。みんなは一本だったけど、あたしは「特別に」と二本もらった。
 お父さんとお母さんが眠っている箱がみんなの前に動かされて、開かれる。すると、みんなせっかくもらったお花をお父さんとお母さんの顔の近くに置き始めた。
 あっというまに二人の顔の周りにはお花畑のようになった。きっと今目を覚ましたら、二人ともびっくりするだろう。お花が好きなお母さんなら、大喜びだろう。早く目を覚ましてほしいな。
 あたしも、お父さんとお母さんをびっくりさせるお手伝いがしたくて、一本ずつ二人の顔の近くに置いた。二人ともあいかわらずすやすやと眠っている。一昨日から一日中ずっと寝てる……? だから、あたしは今までに一回もお父さんお母さんとしゃべっていない。
「お父さん、お母さん」
 こう呼びかければ、いつも何か反応してくれる。たとえ夜に寝ているお母さんでも、夢うつつに「ん?」と返事をしてくれた。お父さんなんか、びっくりして「何かあったのか!」と飛び起きるのだ。
 でも、呼びかけても、二人ともなんの返事もしてくれなかった。
 目をつむったまま、口も閉じたまま。
「起きて」
 起きてくれなかった。
「ねえ、起きてったら!」
 お父さんとお母さんが眠っている箱に手をかけて、二人の体を揺すぶったら起きてくれるかなと思ったけれど、そんなことはしちゃだめと言わんばかりに、由香叔母さんに手を引っぱられた。できなかった。
 みんなが泣いていた。声をあげて苦しそうにむせび泣く。みんな二人の目が覚めないことに泣いているのだろう。そうにちがいなかった。あたしもそれで泣きたいから。中には、なぜかあたしのことを見て泣き出す人もいたけれど。
 起こそうとしても、起きそうにない。いつもは起きてくれるのに、目を覚まさない。あたしはお父さんとお母さんに話したいことがいっぱいあるのに、マシューのこともお父さんとお母さんなら信じてくれると思うのに、全然あたしの言葉を聞いてくれないじゃないか。二人ともあたしの言葉なんか聞こえないようで、ずっと動かずに目を閉じている。
 悲しかった。
 早く目を覚ましてほしくって、あたしもいつのまにか泣いていた。
「ゆいちゃん……」と言ったマシューの声も聞こえないくらい。
 その後お父さんとお母さんが眠る箱は、黒くて金の飾りがついた豪華な車に入れられた。大きな音が車から鳴って、ゆっくりとその車は動き出した。あたしはおじいちゃんの車に乗り、みんなそれぞれの車に乗りこむと、その黒い車の後ろを走り出した。次の場所に移動する。
 次もまた、白い大きな建物。一階建てで横に長かった。みんなその中に入っていく。
「ゆい」
 おばあちゃんがあたしに呼びかけたのは、二人が入った箱を、みんなで取り囲んでいるときだった。また儀式をやるみたいな静かさが、おばあちゃんの声を小さくしていた。
「お母さんとお父さんに、『おわかれ』しよっか」
 ……おわかれ?
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