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しおりを挟む「なるほど、そういうことでしたか」
彼らの(まぁ、ほとんど東さんからだったけど)説明によると、少年は橘くんというらしく、東さんの恩師の息子さんらしい。
しかもその恩師は亡くなっていて、お母さんは小さい頃に亡くなっているから橘くんは一人ぼっちになってしまった。
親戚が引き取る、という話になっていたんだが、そこで問題が起こる。
即ち、誰が引き取るか、という問題が。
橘くんのお父さんはなかなか権威ある方だったようで、その遺産の全てが橘くんのものになったことにより、彼の目の前で大人同士の醜い争いが行われた。
思春期の子供を引き取っても十分に魅力的なだけの遺産があったんだそうな。
それを知った東さんが、あらゆる手を使って橘くんを引き取ったらしい。
元々知り合いだったらしいが、そのゴタゴタとそれ以降の生活で徐々に引かれあったのだとか。
「そうなんですか。大変だったね、橘くん」
そういうと、橘くんは何かを言おうとするが結局は口を閉ざし視線をそらす。
「まぁ、それなりの事情はわかりました。それで?どうして東さんが結婚を、なんて話になったんですか?」
婚活パーティーの会場で、東さんは結婚を前提にしてのお付き合いを希望していたはずだ。
でも彼には橘くんという恋人がいるわけで。
素朴な疑問だよね。
そもそも恩師の息子さん、普通は手を出さないはず。
「その、この家は元々、祖父からの財産分与の一つとして受け取っていたんですが、しばらく放置していまして。橘を引き取る際、どうせなら環境も変えようかとおもってこちらに引っ越してきたんです。私の以前住んでいたのはマンションでしたし、二人で住むには何かと手狭だったもので」
ほうほう。
というか、財産分与の『一つ』って、なんかさらっと怖い事言ったな・・・。
まぁ、それはおいといて。
「しばらくはそれでよかったんですが、その・・、よくない噂が広まってしまって」
「噂」
「・・・・橘が、援助交際をしている、というものです」
「・・・は?」
思わず橘くんに視線を向けると、彼は俯いていた視線をなお下に向け、ぎゅっと手を握った。
「えっと、その噂って?」
「最初は近所の方たちに、それから徐々に広まっていって、彼が通っている高校でも広がってしまったようです」
「失礼ですけど、お相手は?」
「おそらく、私かと・・・」
なるほどねぇ。
つまり、絶賛結婚適齢期に男性とかわいらしい男の子が一緒に住んでいる。
でも血縁関係はないらしい。
もしかして?
もしかして?
もしかすると?
そんな感じで噂が独り歩き、尾ひれも背びれも胸ひれもついて広まっていったんだろう。
気づいた時には噂は広がりきっていた、と。
「先日、高校の方から指摘がありました。私たちは血縁関係、戸籍上の関係はありません。後見人としての書類は提出してきましたが、どうにも・・・。なので、いっそ私が結婚してしまえば、ということだったんですが」
「だから!・・・だから、僕は高校行かなくたっていい、やめればいいんだ。別にいまどき高校ぐらい通信制でいくらでも卒業資格取れるし、大学行かなくたって・・・」
「それはだめだ。橘、さんざん話し合ったじゃないか。君は学年1位を取れるほど優秀だ。このまま順調に進めば大学だってどこにでも行ける。なにより、君にそんなことをさせたら、橘先生に顔向けできない」
「でも、僕は、僕の存在が東さんを苦しめてる。父さん言ってたよ?東さんは他の誰よりも優秀で、自慢の教え子だって」
「はいはい、そこまでにしましょう!」
声をかけると、またはっとこちらを見る。
う~ん、私、もしかして存在感薄いのかな?
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