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ふたりの王子 ―変化

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「姪を可愛がっていたようだな」
「…そうだな。それがなんだ」
「ベルナルが言うような子には思えなくなってきたよ。素直で明るいいい子だったと思うようになった」
「それは幼い頃の印象だろう?大人になれば女は化ける物だ」
「俺にも小さな姫がいる。王太子に見染められ城に連れていかれ、挙句に魔の森に置き去りにされたと知らされたら思うと…」
「思うと…なんだ」
「…さあな」
 ベルナルたちは宿に向かっていたがコルクスがふいに立ち止まった。

「悪いが俺はこの件から降りる」
「は?」
「貴族籍を抜くよ。そして今の家庭を大事にする」
「陛下がお許しにならない」
「お前がいる」
「俺だけに犠牲になれって言うのか?」
「王になるのが犠牲なのか?国民の為に頑張れよ。俺も一国民としてお前を応援しているよ」
「俺は自由にならない王位なんかいらない」
「お前も貴族籍から抜けてなかったんだから、お互い様だ」
「母が許さなかったんだ」
「そんなのは知らん。兎に角俺には家庭がある、これ以上付き合えないよ。家族の元に帰るよ」
「もうすぐ、街道は閉鎖だぞ」
「俺も平民生活は長い。心配無用だ。それじゃぁな、アリアナ姫が見つかるといいな」
 コルクスはそのまま馬屋に向かい宿には戻って来なかった。ベルナルは一人になった。

「誰も信じずにここまで来た代償がこれなのか。俺の周りには誰も残らなかったな…」
 生きているか死んでいるかも分からない人を探すのは苦痛でしかない。王位を継ぐ…知りもしない女と結婚をして?コルクスが羨ましい。愛する人と結婚をして帰りたい家庭があるのだから。



 ……陛下とのメール便でのやり取り……

【どういうことだ?コルクスから連絡が来て第二王位継承権を放棄すると言い出している。そして貴族籍も抜けると言っている。アリアナはどうなった】
 コルクスから先手を打たれたようだ。抜かりない。

【探していますが、見つかりません。知っている場所には痕跡もありませんでした。私もお手上げです。この冬のシーズンで見つからなければ私も撤退します】

【王妃はどうするつもりだ】

【王妃より王が大事だと思いますよ。今の幼い王子たちを育成し王位を継がせる方がよいでしょう。私も協力しますのでアリアナは諦めてください】

【春になったら戻るように】

【承知しました】

 ……

 メール便を惜しげもなく使い、事の成り行きを説明する。「未来を導く王妃」には興味があるがそれは端から見ていたらの話で当事者になって探し出せとなると負担が増す。寒い中、馬を走らせて当てもなく女を探すなど、苦行だ。

 「そろそろ俺も腹をくくるべきなのか…」と、ベルナルはさびれた宿から降り続く雪を見ていた。
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