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その日は雲ひとつない青空が広がっていた。
レフィーナに求婚し、彼女の両親に許しを得て、今日ようやく結婚式の日を迎えた。
ヴォルフはダットが作り、ザックが贈ってくれた衣装を身にまとっている。繊細な金の装飾が施された黒い騎士服で、ぴったりと体に合い、着心地もいい。初めは花婿が着る白い衣装を提案されたのだが、やはり変えてもらってよかった。黒の方が落ち着くし、ヴォルフからすれば、十分華やかだ。それに、今日の一番の主役はレフィーナなのだから。
「……早く、レフィーナの姿を見たいな……」
一人きりの部屋でぼそりと呟く。花嫁の姿が見れるのはチャペルの中だ。待ち遠しい気持ちを持て余していると、ノックの音が響き、ザックとアードが部屋に入ってきた。
ザックはニコニコとした笑みを浮かべ、アードはヴォルフのつま先から頭の天辺まで見回す。
「なんか、あんまり代わり映えしないなー」
「いつもよりは華やかだろう」
「そうだけど……。社交界の時とそんなに変わらなくない?ねえ、騎士団長?」
「そうか?十分、花婿に見えるぞ!」
ザックはそう言って豪快に笑った。そもそも細かいことは気にしないザックに同意を求めるのが間違っていると思う。アードはどこか不満げな表情でため息をついた。
「まあ、似合ってるからいいんだけどさ。それより騎士団長、アレ、やらなくていいんですか」
「ん?……ああ!そうだった!」
何かを思い出したようにザックはテーブルに置かれていた小さな箱を手に取った。この部屋に通された時に、まだ開けないでくださいとだけ言われていたものだ。
箱を片手に近づいてきたザックにヴォルフは首を傾げる。
「それが何か知っているのか?」
「俺はね!それじゃあ、俺は先に会場に行ってますから」
アードはザックにそう告げると部屋を出ていった。それを見送って、ヴォルフは正面に立ったザックを見上げる。
真剣な表情で箱を開けた彼は、慎重な手つきで中身を取り出した。
「……ヴォルフ。結婚おめでとう」
祝の言葉と共に胸元に白いブートニアが飾られる。花嫁のもつブーケと同じ花で作られるそれは、ヴォルフの黒い衣装を華やかに彩った。
「ザック……」
「俺は、お前を誇りに思う。立派な騎士になったように、いい夫としてお嬢ちゃんを幸せにするんだぞ」
少しだけ涙目になったザックは父親の顔をしていた。
それを見て、胸に色々な感情が込み上げる。母親を亡くした日からザックが家族になってくれた。広い背中は憧れで、目標でもあった。
ヴォルフは金色の瞳を細めて、微笑みを浮かべる。
「もちろんだ。レフィーナの事を大切にして幸せにする。……今までありがとう、ザック。一番近くで寄り添ってくれて。俺に憧れをくれて。感謝している」
「ヴォルフ……」
「さあ、そろそろ会場に移動したほうがいいだろう」
恥ずかしくなってヴォルフは話を切り替える。ザックは感極まったように、一度ヴォルフを抱きしめ去っていった。
穏やかな気持で胸元を彩るブートニアに触れていると、男性のスタッフがやって来て、チャペルへと案内される。
「扉が開きましたら、壇上の手前でこちらに向き直って、花嫁様をお待ちください」
「はい」
頷きながら返事をすると、スタッフが扉の横に立つ。ヴォルフは緊張をほぐすように深呼吸をしてから、すっと扉に視線を向けた。すると、扉がゆっくりと開かれる。
壇上を見据えて赤い絨毯の上をゆっくりと歩く。にこやかな表情を浮かべる神父と目があって、少しだけ視線を逸らし、扉の方を振り返った。
少しして再び扉がゆっくりと開き、ヴォルフは息を呑んだ。
純白のドレスを身にまとったレフィーナは美しく、そして、とても幸せそうな表情を浮かべていた。アイフェルリア公爵と共にゆったりと近づいてくる彼女に、勝手に心臓が早くなる。
レフィーナ達がヴォルフの正面に到着し、公爵が囁くような声が耳に届く。
「娘を……頼んだぞ」
「はい」
しっかりと返事をして、公爵からレフィーナの手を受け取った。レフィーナが一歩踏み出し、隣に並ぶ。緋色の瞳と目が合って、ヴォルフは思わず甘さを含んだ声で呟く。
「……綺麗だ」
その言葉はちゃんとレフィーナに届いたようで、彼女は少し照れたようにはにかんだ。
レフィーナと共に壇上に上がり、ヴォルフは神父に視線を移して驚く。先程見た時と姿が変わっていたのだ。それも、一度見たことのある神の姿に。
「……な……」
驚いたような声が隣から聞こえてくる。レフィーナも神父の正体に気付いたようだ。参列者の方からは特に驚いた様子は伝わってこないので、何か不思議な力を使っているのかも知れない。
驚く二人に神が言葉を紡ぐ。
「……おめでとう。レフィーナ、ヴォルフ。君たちの結婚を直接祝福したくて、少し紛れ込ませてもらったよ」
「……神に直接、結婚の誓いができるなんて凄いな」
思わずそんな風にポツリと呟くと、神は優しく微笑んだ。それから神は何事もなかったように式を進行させた。
ヴォルフもレフィーナも落ち着きを取り戻し、神の前で誓いの言葉を交わす。そして、二人は向き合い互いの指に夫婦の証である指輪を嵌めた。
二人で見つめ合って囁き合う。
「レフィーナ、幸せにするからな」
「……ええ。二人で幸せになりましょう」
互いに幸せそうな笑みを浮かべ、ヴォルフはゆっくりとレフィーナと唇を重ね合わせたのだった。
レフィーナに求婚し、彼女の両親に許しを得て、今日ようやく結婚式の日を迎えた。
ヴォルフはダットが作り、ザックが贈ってくれた衣装を身にまとっている。繊細な金の装飾が施された黒い騎士服で、ぴったりと体に合い、着心地もいい。初めは花婿が着る白い衣装を提案されたのだが、やはり変えてもらってよかった。黒の方が落ち着くし、ヴォルフからすれば、十分華やかだ。それに、今日の一番の主役はレフィーナなのだから。
「……早く、レフィーナの姿を見たいな……」
一人きりの部屋でぼそりと呟く。花嫁の姿が見れるのはチャペルの中だ。待ち遠しい気持ちを持て余していると、ノックの音が響き、ザックとアードが部屋に入ってきた。
ザックはニコニコとした笑みを浮かべ、アードはヴォルフのつま先から頭の天辺まで見回す。
「なんか、あんまり代わり映えしないなー」
「いつもよりは華やかだろう」
「そうだけど……。社交界の時とそんなに変わらなくない?ねえ、騎士団長?」
「そうか?十分、花婿に見えるぞ!」
ザックはそう言って豪快に笑った。そもそも細かいことは気にしないザックに同意を求めるのが間違っていると思う。アードはどこか不満げな表情でため息をついた。
「まあ、似合ってるからいいんだけどさ。それより騎士団長、アレ、やらなくていいんですか」
「ん?……ああ!そうだった!」
何かを思い出したようにザックはテーブルに置かれていた小さな箱を手に取った。この部屋に通された時に、まだ開けないでくださいとだけ言われていたものだ。
箱を片手に近づいてきたザックにヴォルフは首を傾げる。
「それが何か知っているのか?」
「俺はね!それじゃあ、俺は先に会場に行ってますから」
アードはザックにそう告げると部屋を出ていった。それを見送って、ヴォルフは正面に立ったザックを見上げる。
真剣な表情で箱を開けた彼は、慎重な手つきで中身を取り出した。
「……ヴォルフ。結婚おめでとう」
祝の言葉と共に胸元に白いブートニアが飾られる。花嫁のもつブーケと同じ花で作られるそれは、ヴォルフの黒い衣装を華やかに彩った。
「ザック……」
「俺は、お前を誇りに思う。立派な騎士になったように、いい夫としてお嬢ちゃんを幸せにするんだぞ」
少しだけ涙目になったザックは父親の顔をしていた。
それを見て、胸に色々な感情が込み上げる。母親を亡くした日からザックが家族になってくれた。広い背中は憧れで、目標でもあった。
ヴォルフは金色の瞳を細めて、微笑みを浮かべる。
「もちろんだ。レフィーナの事を大切にして幸せにする。……今までありがとう、ザック。一番近くで寄り添ってくれて。俺に憧れをくれて。感謝している」
「ヴォルフ……」
「さあ、そろそろ会場に移動したほうがいいだろう」
恥ずかしくなってヴォルフは話を切り替える。ザックは感極まったように、一度ヴォルフを抱きしめ去っていった。
穏やかな気持で胸元を彩るブートニアに触れていると、男性のスタッフがやって来て、チャペルへと案内される。
「扉が開きましたら、壇上の手前でこちらに向き直って、花嫁様をお待ちください」
「はい」
頷きながら返事をすると、スタッフが扉の横に立つ。ヴォルフは緊張をほぐすように深呼吸をしてから、すっと扉に視線を向けた。すると、扉がゆっくりと開かれる。
壇上を見据えて赤い絨毯の上をゆっくりと歩く。にこやかな表情を浮かべる神父と目があって、少しだけ視線を逸らし、扉の方を振り返った。
少しして再び扉がゆっくりと開き、ヴォルフは息を呑んだ。
純白のドレスを身にまとったレフィーナは美しく、そして、とても幸せそうな表情を浮かべていた。アイフェルリア公爵と共にゆったりと近づいてくる彼女に、勝手に心臓が早くなる。
レフィーナ達がヴォルフの正面に到着し、公爵が囁くような声が耳に届く。
「娘を……頼んだぞ」
「はい」
しっかりと返事をして、公爵からレフィーナの手を受け取った。レフィーナが一歩踏み出し、隣に並ぶ。緋色の瞳と目が合って、ヴォルフは思わず甘さを含んだ声で呟く。
「……綺麗だ」
その言葉はちゃんとレフィーナに届いたようで、彼女は少し照れたようにはにかんだ。
レフィーナと共に壇上に上がり、ヴォルフは神父に視線を移して驚く。先程見た時と姿が変わっていたのだ。それも、一度見たことのある神の姿に。
「……な……」
驚いたような声が隣から聞こえてくる。レフィーナも神父の正体に気付いたようだ。参列者の方からは特に驚いた様子は伝わってこないので、何か不思議な力を使っているのかも知れない。
驚く二人に神が言葉を紡ぐ。
「……おめでとう。レフィーナ、ヴォルフ。君たちの結婚を直接祝福したくて、少し紛れ込ませてもらったよ」
「……神に直接、結婚の誓いができるなんて凄いな」
思わずそんな風にポツリと呟くと、神は優しく微笑んだ。それから神は何事もなかったように式を進行させた。
ヴォルフもレフィーナも落ち着きを取り戻し、神の前で誓いの言葉を交わす。そして、二人は向き合い互いの指に夫婦の証である指輪を嵌めた。
二人で見つめ合って囁き合う。
「レフィーナ、幸せにするからな」
「……ええ。二人で幸せになりましょう」
互いに幸せそうな笑みを浮かべ、ヴォルフはゆっくりとレフィーナと唇を重ね合わせたのだった。
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