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出会い4

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「だがお前の名は、記さなくてもすぐに覚えた。こういってはなんだが、お前の自己紹介はすごく印象的だった」
「あー……、そっか。そうだよな」
 慶は兵藤に声をかけたときのことを思い出した。兵藤が感情を表にしない人物だというのは、わずかに話をしただけでよく分かる。そんな兵頭が、慶に声をかけられたときだけ表情を変えたのだ。
「やっぱり……俺みたいなのに声かけられたの、迷惑だったか?」
「そんなことはない。先ほども言ったように、ありがたいと思っている。……だが、その様子ではあの自己紹介は冗談ではないのだな。恋愛対象が男だということも」
「うん。冗談なんかじゃないよ。俺、ゲイなんだよね」
 慶の自己紹介はいつも決まっていた。名前や趣味などのほかに、必ず自身の恋愛対象を明言させる。場の雰囲気で言えないこともあるが、そんなときも親しくなる前に必ずはっきりと伝えていた。
「なぜおおっぴらにする。同性愛は珍しいことでないと聞くが、それでも奇異な目で見られるのには変わりないだろう」
「まあね。気持ち悪がって近づかなくなるヤツもいるよ。でもそれは本人の自由だし。仲良くなって急に離れていかれるほうがこっちも堪えるしさ。それなら最初からありのままの俺を受け入れてくれるヤツのほうがいいじゃん。女の子にも変な期待抱かせたくないし」
「ふむ。これがお前にとって褒め言葉になるかは分からないが、確かに女性に好かれそうな外見をしている」
「お? イケメンって褒めてくれてる?」
「……整った顔立ちをしているとは思う。それに洒落ているだろう。同性愛者と言われなければ、相当浮名を流した男に見えたと思う」
「う、浮名って……現代で使う単語じゃないだろ、それ……」
 兵藤だけ過去からタイムスリップしてきたのかと疑いたくなる。
 だが言葉は古臭いが、兵藤の言っていることは当たっていた。慶は同性愛者だと告白しなければ、異性から好意を向けられやすい外見をしている。
 身長は平均よりも高く、とりわけ足が長い。ラフな格好をしてもある程度キマッて見えるのはそのおかげだろう。アーモンド型の瞳は柔和で人懐っこく見えるが、どこか色気を感じさせるのは少し厚めの唇のせいだ。
 フットワークの軽い性格が相まって、遊び人と思われることも少なくはないが、その辺りは特に気にしたことはない。
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