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初めての友達2

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「そんなに大袈裟なもんかよ」
 慶は赤く染まった兵藤の耳をピンっと指で弾いて笑う。
「多分俺がここまで言ってもお前はどうせ、責任が~とか思うだろ。だからさ、俺がお前にとってほしい責任のとりかたを決めてきた」
 今度は兵藤が僅かに身構える。
「責任とって、俺の良き友人になってくれよ?」
 そう言って慶は、イタズラでもした後の子供のように歯を見せて笑う。
 顔は広いが、深い付き合いの友達は慶にはいなかった。
中学までの友人は慶が同性愛者と知ると離れていき、高校時代は慶が荒れていて怖がって近づかない者が大半だった。夜の街での顔見知りと、今の慶になってそれなりに友人は出来たが、親友と呼べる深い付き合いの人間はいない。
 今まで友達のいなかった兵藤と、浅い人間関係しか築いてこなかった慶。二人は似ていないようで、どこか似ているのかもしれない。
 慶の言葉に、兵藤は唇をキュッと結んだ後、堪えきれないといったように顔を綻ばせた。
「お前の良き友人になれるよう、一層努力しよう」
「いや、そんな大層なもんじゃないから」
 軽口を叩きながら、慶は兵藤との距離が少し近づいたのを感じた。奇妙な二人の関係に、ようやく名前がついた瞬間だった。
 その後、慶は誘われるまま兵藤宅で夕食を共にした。兵藤の祖母が腕によりを掛けた渾身の手料理を、文字通り腹がはち切れそうになるまで堪能し、慶が兵藤家を後にしたのは空がすっかり明るさを無くした頃だった。
 兵藤家に行く道中は慶一人だったが、帰り道は兵藤が隣を並んで歩いている。
「送らなくていいって言ってんのに」
 慶は心に乙女を飼っているが、見た目は男そのものだ。夜の街を遊び歩いた過去もあり、夜道に恐怖はない。それでも兵藤は送ると言ってきかなかった。
「俺が送りたいと思ったんだ。もう少し話もしたいと思ってな」
 普段通りに見える兵藤だが、どうやらまだ少し興奮しているらしい。それは慶も同じだった。ようやく堂々と友と呼べる仲になり、このまま帰るのは少々勿体無いと思う。
「じゃあさ、ちょっと寄り道して帰ろうぜ」
「寄り道? どこに行くんだ?」
 少し唇を尖らせ、慶は考える。
 今日は兵藤の世界をよく見た1日だった。自分とはまるで違う環境と家族。慶にとって新鮮で、特別な世界を覗き見た気分だ。
 今度は兵藤に、そんな特別な世界を味合わせたい。自分の世界を見せたいと慶は思った。自分と過ごした時間が、少しでも兵藤の記憶に残るように。
「俺、腹ごなしに行きたいところがあるんだけど」
「腹ごなし? 運動でもするつもりか?」
 兵藤は行くとも行かないとも言わない。慶は兵藤を帰したくなくて、あえて焦らすようにこう言った。
「着いてからのお楽しみってことで」
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