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言葉で伝えて3

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「俺がお前への気持ちが恋だと確信したのは、お前がきっかけだ」
「へ? 俺?」
 唐突な自分の登場に、慶は間抜けな声をあげる。
「閲覧室で、お前が俺の頬に接吻をしただろう。あのとき俺は、舞い上がった。生きてきた中で一番幸福を感じたと言ってもいい。それは恋をしたからだとはっきり分かった。正直あのときお前がすぐに閲覧室を出ていかなければ、本能のまま行動してしまいそうだった」
 地蔵のように微動だにしなかった兵藤がそんな衝動と戦っていたとは露とも知らず、慶は改めて今赤面する。
 ほんの少しの悪戯心が、王子様を目覚めさせるきっかけになるとは思いもしなかった。
「お前とその……ああいうことをした時のことを、俺はできるだけ思い出さないようにしていた。合意があったわけではなかったし、みだらに思い出してお前を汚すのも失礼な気がして。だが一度好きだと認めてしまえば、思い出さないことも無理だった」
「えっ、ちょ……え……」
 遠慮がちに慶に回されていた兵藤の腕が、グッと力を込め慶は兵藤に引き寄せられる。
互いの体温がはっきり伝わるほどの距離にどぎまぎすると同時に、下腹部にあたる何やら熱く硬さのあるものに、慶は激しく動揺した。
「兵藤……もしや勃ってらっしゃる?」
「……お前の尻を思い出せば、すぐにこうなる」
 なんで今ここで尻を思い出すんだと問いただしたい。動揺している間にもそれはどんどん成長しているのを感じた。
「精神は鍛えていたつもりだったが、俺もただの男だな。好いた者と身体を寄せているだけで我慢ができないようだ」
 慶の全身が煮えたように熱くなる。求められていることに、身体が喜びを感じていた。好きな男が自分に欲情している姿は、思わず生唾を飲み込むほど野生的な色気が溢れている。堅物なイメージがある兵藤が放つ愛欲だからこそ、ギャップが余計に心をくすぐる。
「兵藤が俺相手にそうなってくれるのはすごく嬉しいんだけどさ。でも……いいの?」
「何がだ」
「何がって、兵藤は婚前交渉がダメなタイプじゃなかったっけ」
 だからこそ兵藤は責任を取るなどと言い出したのだ。恋愛感は古風で若い男女が密着することや、肌を露出する服装にも抵抗を抱く男だった。
 心が通じ合い、距離が近付けば抱かれたいとは当然思う。だが兵藤が婚前交渉が苦手なのなら、慶は待つのもやぶさかではなかった。もっとも男同士では婚姻を結ぶことは現時点で出来ないので、いつまで待てばいいのか分からなかったが。ある程度は覚悟して、操をたてるつもりではあった。
「兵藤に抱かれたいと思うけど、無理にとは言わないし、待つ覚悟もそれなりは……」
「佐倉……お前が気を遣ってくれるのは嬉しく思う。だがな……」
 兵藤の熱い吐息が慶の耳を掠める。
「好きな奴に抱かれたいと言われて、俺は断れるような男ではない」
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