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8 ジークの秘密

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 ◇◇◇

「はぁ、ジークに逢いたい……」

 あれから一カ月。ジークの行方は未だに分かっていない。学園に戻った私はジークのいない日々の寂しさをつくづく身にしみて感じていた。朝起きて、ジークがいない。ご飯を食べてもジークがいない。夜寝るときもジークがいない……

「うう、毎日ジークの顔を見れないだけで心が擦り切れそう。ジークがいない人生なんてっ!」

「はいはい。早く逢えるといいな」

 面倒臭そうに相槌を打っているのはロイスだ。学園の裏庭で一人、ジークのいない悲しみをブツブツ呟いていたところ、たまたま女連れのコイツを発見した。ムカついたので散々嫌みを言った挙げ句、愚痴を聞かせる相手として無理やり連行してきた。単なる嫌がらせだ。

「っていうか、何で俺がお前ののろけ話を聞かなきゃなんねーんだよ」

「さぁ?」

「はぁ?マジで訳わかんねー女だな。俺は忙しいっつってんだろ」

「嘘ばっかり。さっきも女とイチャイチャしてただけでしょ。いやらしいわね」

「お前にはいわれたくねーよ」

「何よ、失礼ね!こっちだってあんたには言われたく無いわよ」

「はいはい。って言うか、そのジーク?どこのどいつだよ。学園にいんのか」

「……ジークは私の専属執事よ。学園には専属メイドとしてついて来て貰ってたの。でも、私の結婚が決まった途端、失踪しちゃって……うう、ジークのバカっ」


「……はい?今なんかおかしな情報が紛れてたんだが……」

「だから、私の結婚に絶望して失踪したのよっ私のジークがっ!今頃、どこで何をしてるのか。もしかして……うう、こうしちゃいられないわ。やっぱり突然急病になったことにして学校を休んで探しに行くわっ」

「いや、待て、ちょっと落ち着け」

「何よ!」

「いや、その、ジークってもしかして……女?」

「何顔赤く染めてんのよ!何考えたのよ!全くいやらしいわね!ジークは男に決まってるでしょ!見たこともないくらいのレベルの美人なんだからっ」

「え?いや、だって今専属メイドって……」

「ああ、ジークはあまりにイケメン過ぎてそのまま女子寮なんかに連れて行ったら野獣ども他の令嬢や使用人に襲われちゃうでしょ?仕方がないから女装して貰ってたのよ」

「は?いや、いくつだよそいつ」

「22才だけど?」

「いや、絶対無理だろ。気持ちわりーだけだって。お前それ、なんの拷問だよ……そいつに同情するわ」

「最初は冗談のつもりだったんだけど……似合ったのよね、これが」

「マジか……」

「マジで」

「ちょっとジークに会いたくなったわ」

「はぁ。ジークに逢いたい……」

「しっかし、執事と令嬢の恋か。お前も苦労するな」

「ジークは父の側近としてもとても優秀だからなんの問題もないわ。あんたがいなきゃね」

「はいはい。悪うございました。全部俺が悪いわけね」

「そうよっ!あんたさえいなければ私達は幸せになれたのに!」

「はぁ、だるっ。そりゃ俺も恋人同士引き裂く野暮なまねなんかしたくねーよ」

「本当?」

「当たり前だろ?別に女に飢えてるって訳でもねーし」

「あんたが女好きのろくでなしで本当に良かった……」

「いや、それ絶対ほめ言葉じゃねーからな?」

「最大級のほめ言葉よ?」

「そうかよ……この間は悪かったよ」

「何が?」

「お前のことアバズレって言ったこと。お前は一途ないい女だわ」

「何よっ!気持ち悪いわね!」

「まぁそういうなって。本音だから」

「そう、それじゃありがと」

「みんなお前みたいに単純バカだといいのにな……」

「やっぱりほめてないじゃないっ!」

 思わずロイスに右ストレートをお見舞いした私はやっぱりわるくないと思う。

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