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お父さまは、昨夜のことはなにもなかったかのような顔で朝食を召し上がった。
「今日はピアノのララ先生が来る日だったな?」
習い事に関して口うるさくないお父さまだけど、今日に限りどこか嬉しそうな口ぶりだ。
「はい。毎週一回です。楽しいので三日連続で習う日もあります。お父さまも見学なさいますか?」
お父さまが見ているところで、歌ったりピアノを演奏するのは恥ずかしいのだけど念のため聞いてみた。
「いや、まだいい。楽しみに取っておくよ」
期待していないとか聞きたくないとか突っぱねられなくてよかった。待って、楽しみに取っておくって言わなかった、今?
「練習量も多いと聞いてな」
お父さまが感心を示している。昨日から優しくなったのは気のせいじゃないわよね。
「私もクリスティーヌも熱心にやりすぎるので、最近は楽しんで学んでいるか心配されますね」
一応、サボリ癖のついたクリスティーヌもフォローしておく。いつの間にかサボリぐせが私と逆転したのよねー。クリスティーヌはせっかくフォローした私を睨むだけで感謝なんてこれっぽっちもしないんだけどね。
「楽しんでやっているならいいんだ。もし、お前たち二人が苦になるのなら、私は無理にピアノや歌を習わなくていいと思っている」
「いいえ、やりたいからやってるのよ。お父さま」
安堵したお父さまの笑顔を見ると、何だか心が和む。不思議ね。今までどうして楽しくいっしょに朝食を取れなかったのかしら。こういう些細なことを楽しめる余裕がなかったのかも。
でも、午後にやってきたララ先生の発言でお父さまの危惧していたことの真相を知ることになった。
「音楽会を催します。内容はアミシアのピアノに合わせてクリスティーヌが歌うというものです」
「へ?」
「お姉さまとぉ!?」
ララ先生は誇らしげに胸を張る。
「音楽会は舞踏会と並行して行うことが多いのです。お二人はまだ成人していないので社交界について学んでいる最中でしょう。いずれ行われる舞踏会のいわばリハーサルのようなものです。それに音楽会なら、このお屋敷で催すこともできますからね。ラ・トゥール家の今後の繁栄を願い伯爵さまと相談して結果決めたことです」
お父さまが私たち二人の成長を願ってのことね。だけど、困ったわ。よりにもよってクリスティーヌの伴奏を私が?
「よろしくお願いしますね。お姉さまっ」
こいつ、心にもないことを。いいわ、私もぶりっ子してやるわ!
「聖女さまの歌声に私のピアノなんかが相応しいかしら」
ララ先生は少しあざ笑うかのように眉を顰める。ちょっとは応援してくれてもいいじゃない。
「本番までまだ日数はあります。上達して必ず成功させましょう」
ララ先生はクリスティーヌびいきだから、私がクリスティーヌに合わさないと。ええ、上手くやって見せるわよ。必ず上達して、歌声より目立ってやってもいいんだからね。クリスティーヌを睨むと、そのほわほわとした柔らかい表情の下で闘志がたぎっているのが見てとれた。
「お姉さま……足を引っ張らないでね?」
「あら? あなたも本番でミスしないでね? 教会で会う人たち以外に歌を聞かせるの、はじめてなんでしょう?」
睨み合うと火花の音が聞こえてきそう。なのに、何を勘違いしたのかララ先生は私たちの姉妹愛に胸打たれている。
「二人とも仲良く相談? いいわね。さ、本番に向けて今日から猛特訓よ」
「今日はピアノのララ先生が来る日だったな?」
習い事に関して口うるさくないお父さまだけど、今日に限りどこか嬉しそうな口ぶりだ。
「はい。毎週一回です。楽しいので三日連続で習う日もあります。お父さまも見学なさいますか?」
お父さまが見ているところで、歌ったりピアノを演奏するのは恥ずかしいのだけど念のため聞いてみた。
「いや、まだいい。楽しみに取っておくよ」
期待していないとか聞きたくないとか突っぱねられなくてよかった。待って、楽しみに取っておくって言わなかった、今?
「練習量も多いと聞いてな」
お父さまが感心を示している。昨日から優しくなったのは気のせいじゃないわよね。
「私もクリスティーヌも熱心にやりすぎるので、最近は楽しんで学んでいるか心配されますね」
一応、サボリ癖のついたクリスティーヌもフォローしておく。いつの間にかサボリぐせが私と逆転したのよねー。クリスティーヌはせっかくフォローした私を睨むだけで感謝なんてこれっぽっちもしないんだけどね。
「楽しんでやっているならいいんだ。もし、お前たち二人が苦になるのなら、私は無理にピアノや歌を習わなくていいと思っている」
「いいえ、やりたいからやってるのよ。お父さま」
安堵したお父さまの笑顔を見ると、何だか心が和む。不思議ね。今までどうして楽しくいっしょに朝食を取れなかったのかしら。こういう些細なことを楽しめる余裕がなかったのかも。
でも、午後にやってきたララ先生の発言でお父さまの危惧していたことの真相を知ることになった。
「音楽会を催します。内容はアミシアのピアノに合わせてクリスティーヌが歌うというものです」
「へ?」
「お姉さまとぉ!?」
ララ先生は誇らしげに胸を張る。
「音楽会は舞踏会と並行して行うことが多いのです。お二人はまだ成人していないので社交界について学んでいる最中でしょう。いずれ行われる舞踏会のいわばリハーサルのようなものです。それに音楽会なら、このお屋敷で催すこともできますからね。ラ・トゥール家の今後の繁栄を願い伯爵さまと相談して結果決めたことです」
お父さまが私たち二人の成長を願ってのことね。だけど、困ったわ。よりにもよってクリスティーヌの伴奏を私が?
「よろしくお願いしますね。お姉さまっ」
こいつ、心にもないことを。いいわ、私もぶりっ子してやるわ!
「聖女さまの歌声に私のピアノなんかが相応しいかしら」
ララ先生は少しあざ笑うかのように眉を顰める。ちょっとは応援してくれてもいいじゃない。
「本番までまだ日数はあります。上達して必ず成功させましょう」
ララ先生はクリスティーヌびいきだから、私がクリスティーヌに合わさないと。ええ、上手くやって見せるわよ。必ず上達して、歌声より目立ってやってもいいんだからね。クリスティーヌを睨むと、そのほわほわとした柔らかい表情の下で闘志がたぎっているのが見てとれた。
「お姉さま……足を引っ張らないでね?」
「あら? あなたも本番でミスしないでね? 教会で会う人たち以外に歌を聞かせるの、はじめてなんでしょう?」
睨み合うと火花の音が聞こえてきそう。なのに、何を勘違いしたのかララ先生は私たちの姉妹愛に胸打たれている。
「二人とも仲良く相談? いいわね。さ、本番に向けて今日から猛特訓よ」
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