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 個人練習なら何の問題もなかった。それが、クリスティーヌの伴奏をすることになって、ちっとも集中できない。弾く鍵盤を間違った。

「あっ」

「集中なさい。クリスティーヌに、またはじめから歌わせるんですか? あなたは」

 クスッ。

 クリスティーヌの小さく笑う声が嫌でも耳に入る。天井に鼻の穴を向けて声高に歌うクリスティーヌ。それで美しいと思っているんだから恐れ入るわ。

 とにかく、課題曲をミスなく弾けるようにならないと。

 なんとか一曲弾き終えることができた。ちょっと休憩したいと思ったとき、クリスティーヌが清々しい表情で先生に訴えかけた。

「この曲はもっと早く弾いても素敵かもしれませんね。先生、どうでしょう? 躍動感溢れるアレンジを加えたいのです」

「ね、ねえ、ちょっとクリスティーヌ」

「アミシアが追いつかないわね。アミシア、個人練習でテンポを上げましょう。それでいけるのなら本番はアレンジも取り入れるわ」

 ちょっとララ先生まで。

 私が個人練習をはじめると、横でクリスティーヌは違う発表曲の個人練習をはじめた。横で違う曲を歌うとかどうかしてるわ。絶対音感を持ってたら気持ち悪くならないのかしら。これじゃあ、いつまでたっても集中できないじゃない。もう悔しいからクリスティーヌが歌ってる間は咳でもして妨害してやるしかないわね。

「アミシア。具合が悪いのですか?」

「い、いええ」

 やっぱり怒られそうだからやめとこう。すると、今度はクリスティーヌが咳こんだ。ララ先生はクリスティーヌには相変わらず優しく声をかける。

「今日はこれくらいにして横になった方がよくないかしら? 体調を崩したら元も子もないですよ」

「いいえ。私、頑張ります。アミシアお姉さまが上手くなったって先生が褒めて差し上げるまで、お姉さまは練習をやめないのです。だったら私も最後までつき合います」

「まあ、駄目よ。今日はもうあがっていいわクリスティーヌ。アミシアは個人レッスンね」

 うわー、まんまとやられたわ。クリスティーヌが去り際に私を一瞥する。睨み返すと視線がぶつかり合う。見えない火花が見えた気がする。

 私だけ夕食の時間がずれ込んでしまうぐらい遅くまで練習させられた。今夜もお父さまがあの開かずの間に行くのか気になったけど、それどころじゃなかった。夕食を口にしたらそれだけで眠りこけてしまいそうなほどくたくたよ。
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