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――彼、若草優と伊織は、小学校時代(引っ越す前)からの幼馴染兼親友で、暮らす地域が離れた中学以降も度々連絡を取り合って一緒に遊んでいたりしていたらしい。
伊織達の前の家と今暮らすこの家は、距離はあるが同県内であるため、電車やバスなどを使っての移動でなんとでもなったのだろう。
そしてその親交は、同一の大学に通う今も継続している。

俺が初めて優君と顔を合わせたのは、確か伊織の家出騒動があった数ヶ月後、当時中学生の優君が、伊織に招かれて我が家に初めて遊びに来た時のことだったと思う。
第一印象は、初対面の俺にも物怖じせずに笑いかけてくる、この年にしては珍しく愛想のいい子だなというくらいのものだった。

しかし、その帰り際。

玄関まで来ていた優君の忘れ物があったとかで、伊織が一旦自室に戻り、見送ろうとしていた俺と優君が2人きりになる瞬間があった。
若干の気まずさを感じつつ伊織を待っていると、彼はじいっと、何かを確認するように俺を見上げて、

「伊織のお父さんが居なくなってから、ずっと伊織のことを心配してたんですけど……、

うん! お兄さんで良かったです!」

そう言って、人好きのする満面の笑顔を見せてくれた。
――その瞳の奥深くに、「伊織を傷付けることは許さない」と言わんばかりな、気のせいでは済まされない程の牽制の意思を迸らせて。

ああ、彼が。
愛想が良く、温和そうな彼が。
まだ素性も知れない大人に警告を示せるほどに、伊織を本当に大切に思ってくれているという事実に、熱く胸を打たれたことを覚えている。

それから、伊織の友達付き合いのついでのような形で交流を続けていくうちに、優君は俺とも随分親しくなってくれたように思うが……。
いや、何というか、若草優と言う人間は本物の『人たらし』なのである。

デフォルトの表情は人懐っこそうな邪気の無い笑顔で、礼儀正しく丁寧、老若男女誰にでも分け隔てなく優しく、色んなことに気付いては気取られないよう自然に気を遣ってみせるし、空気を読め、非常にノリもいい。
そしてそんなところを鼻にかけているわけでもなければ、全くもって嫌味たらしさも無い。
勉強で躓いたり、少し愚痴を零してみたりなんかして、親近感がわくような程よい隙も見えるし、友達想いの熱い一面もあったりするし、接する人との話をしっかり聞いてくれて何なら自分ですら忘れた頃に「言ってたよね?」とふいに話に出してくるし、
え、何だろ。お金貰ってそういう営業をされてる方??って思うくらいに嫌いなところが一切見つからない。
意味わかんない。
古城よりよっぽど素晴らしい人間だと思う。
正に人間モテする人間だ。

言わなくてもわかると思うが、既に俺も優君にたらされた大多数の人間の内の1人である。
彼の魅力に抗う術は今の人類には無いと言っても過言ではない。



先にリビングのデスクへ座らせた優君が、コーヒーを準備する俺に「お構いなく」と声をかける。
それとほぼ同時に、あたりをぐるりと見渡してかすかに首を傾げた。

「潤は部活ですか?」

「うん。 それでそのまま隆二君の家で遊んで帰ってくるって、さっき連絡あった」

「変わらず仲良いですね~あいつらも」

「本当に。 でも伊織と優君も全然負けてないから! 俺伊織の友達、優君しか居ないと思ってるくらいだしね。 本当に、伊織がお世話になってます優様」

湯を注いだだけの簡易なコーヒーを、まるで神の供物であるかのように恭しく差し出す悠也に、優は大きく口を開けて笑う。

「あはは、大げさです! 流石に伊織にも友達いますって! 学部が違うから毎日会うわけじゃないけど、たまに学内で見かける時は複数人で楽しそうに話してたりしますよ」

「一方そのころ優君は?」

「老若男女大人数でパーリナイっスね!」

「規模が違うんだよな…」

「いや冗談ですからね!? 普通です普通!」

悠也には嘘か誠かの判断が付き辛い話を冗談と笑い飛ばした優は、「いただきます」と一言告げて湯気の立つコーヒーに口を付けようとする。
しかし、先ほどまで沸騰していたそれは猫舌ではなくともまだ普通に熱かったようで、「今のは練習です」とはにかみながら、一口も飲まずに素早く元の位置に戻した。
ほぼ一秒でなされた素早い動作が可笑しくて二人してクスクスと笑っていたが、その声の切れ目の絶妙なタイミングで、優が静かに問いかける。 

「――悠也さん、伊織と何かありましたか?」

「え、」

「不躾にすみません。 伊織、最近ずっと元気なくて、何か悠也さんと仲違いをしてる…みたいなことを聞いたんで。 ええと、お節介なのは分かってるんですけど、」

軽く頬を掻きながら、控えめな苦笑いを浮かべる優の、聖職者のように善良なオーラにあてられ、
悠也は己の行動を再確認した故の情けなさから、徐々に両手で顔を覆い、頭を垂らしていった。

「……あ~~…、本当、兄弟共々ご迷惑を…」

「いえいえ!? 迷惑だなんて思ってないです! 悠也さん一家に関わることが出来て、俺は嬉しいですよ。
もし悠也さんの口から伊織に言いにくい事があるなら、俺から何とかいい感じに言いますので! …こっそり教えてくれませんか?」

優は自身の口元に、内緒話をするように手を添えると、片目を瞑って悪戯っぽく微笑む。
うわっっ!!アイドルか何かかな!?!?輝きが一般人のそれじゃない!!

優君の申し出は、俺にとって物凄くありがたいし、魅力的だ。

ーーただしそれは、ごく普通の原因からなる喧嘩の場合は、という枕詞がつくものである。

当然ながら、優君に伊織の自慰の話をするわけにもいかないし、かといって上手い言い訳ができるわけでもない。
何か、全体像をぼやかした感じで、かつ内容は確信に迫れるような、そんな話を…、

「い、伊織ってさ……」

「はい」

視線をあちらこちらと盛大にウロウロさせ、悠也は酷く言いにくそうに何度も口ごもる。
そんな面倒くさい男のまごつきを、優は一切急かすことなくじっと待ってくれていた。

少しの沈黙の後、悠也は覚悟を決めたようにごくりと大きく喉を鳴らして、

「……好きな子とか、いんの?」

「………、えっと、恋バナですか??」

間をおいて、意表を突かれた顔をした優に、悠也が必死で意識しないように抑えていた羞恥心が一気に全身を駆け巡る。

「うぅあーー! やっぱナシナシ!! 今のナシ!! 何でもない!!」

「い、や、いやいや!! 今後の伊織にとって結構重要な話な気がするんでもっと詳しく聞かせてほしいです!!」

30超えた男が、イケイケの大学生に真面目な恋バナはキッツイ!!!駄目だ!!死にたくなるくらい恥ずかしい!!!

優に言語化されたことによって、より明確になった相談事項に苦しめられている悠也と、それを必死になだめて何とか話を聞こうとする優で、リビングは一時騒然としていた。


ややあって、一旦落ち着こうと二人してコーヒーを一口飲んでから、優が切り出す。

「伊織のそういう恋愛事情、気になるんですか? 伊織が何か言いました?」

「そういうわけじゃないけど…その……、」

優は、目を逸らして煮え切らない言葉を返す悠也を見つめつつ、少し考える風にして顎に軽く指先を添えた。 

「……、そうですねー、伊織は愛想は無いけど格好良いし、性格も真面目なので結構モテますよ。 何回か告白されてるとこも見たことあります。
でも、誰か特定の人と付き合ったって話は俺の知る限りじゃ聞かないですね。 根も葉もない噂は沢山ありますけど」

「そ、そうなんだ…」

伊織本人に話を聞くことも、また進んで話されることも無い恋愛事情を聞き、素直に感心する。

いやそうだよな…、伊織は美形だし、やんちゃな遊びなんかにはどちらかというと嫌悪感を持つ方だから目立った非行に走ったりもしない。中学の家出騒動はまた別件だが。
潤に甘いところや、優君との年相応な会話風景を見ると、きっと友人にも情を持って接しているんだと想像できるし……、うん、モテるんだろうなーーー!!!

「中高の恋愛遍歴は正直俺には分かりませんけど、きっと、そこでも彼女は作ってなかったんじゃないですかね?」

「え、何で言い切れるの?」

「何でだと思います?」

「……、伊織は中高で優君を越える人に出会えなかったから?」

「ぶは!! 何で俺基準!?」

優の問いにいたって真剣な気持ちで答えた悠也だったが、何故か爆笑される。
あれ?違ったか?優君という素晴らしい人間が近くに存在したことによって、友人恋人共に伊織の理想が高くなってしまったのかもと思ったんだけどな…。
本気で。

「あはは!! 違います違います。
――伊織にはもうずっと、心に決めた人が居るんですよ」

「それって…?」

「悠也さんは、誰だと思いますか?」

「……すぐ、」

「あ、俺ではないです」

再び真剣な表情で『優君』と言おうとしたら、手の平を顔前に突き出されて、先手を打たれる。

伊織が、もう、心に決めた人。

「……潤?」

「あーー、確かに、潤もそれに近しいですけど、ベクトルの向きが異なっているかと」

「あ、ていうか、そもそもそれって俺の知ってる人?」

「ーー本当はもう分かってるんじゃないですか?」

悠也を見つめ意味深に微笑む優の声が、二人しかいないリビングにやけに大きく響いた気がした。
虚を突かれた悠也は目を少しだけ見開くが、全てを見透かされているような優の瞳を見続けることが出来ず、咄嗟に視線を逸らしてしまう。

彼の言わんとしていることを多少なりとも察して、
じわり、自身の頬が熱を持つのが分かった。

「んー、これは……。
何らかの出来事があって、伊織が悠也さんに恋愛感情を持ってることがご本人にバレてしまった、と」

「うえ!? な!! ちがっ、……え、ていうかそれ言っていいの!?!?」

「伊織から直接聞いたってわけじゃないですけど、俺からしたら結構あからさまだし、もう長いですし。 悠也さんもほぼ確信してるみたいだったんで、認識を共有してた方が話も進めやすいかな~、と思いまして」

何も話していないにもかかわらず事実を的確に言い当ててきた優の言葉に焦り、反射的に否定してしまったが、それよりも悠也は優がその情報を当然のように知り得ていることと、何の躊躇も無く『本人』である悠也に伝えてきたことの方が気になり、思わず聞き返してしまった。
やけにあっさり、そして淡々と告げる優に、悠也の動揺も比較的素早く引いていく。

あの生意気な伊織が、あからさま…?長い…?優君には俺とは大分違う景色が見えていそうだな…。

「確信って…、何で…?」

「だって、少し前の悠也さんなら、俺にこんなこと聞かれたとしても『自分自身』って回答にはまず行きつかないでしょうし、表情を変えることもないかと。 選択肢の一つとして悠也さん自身が入った時点で、それはもうそういうことかなって」

確かにそうなのかもしれないけど、いや純粋にスゲェな優君!!?

悠也の優への尊敬度合いが、本人が与り知らぬところでもう一段階上がった。

「それで、伊織の気持ちに意図せず気づいてしまって、養い親のお兄さんとしては伊織にどう接していいかわからなくなり、結果的に距離を取ってしまっている…、ってことでいいですか?」

「エスパーか何かかい君は?」

「あはは、相談事には慣れてますので!」

本当にそれは相談事の数をこなすことによって得られるスキルなのだろうか???

優の探偵張りの推理による驚きで呆然としている悠也を尻目に、彼は「うーん、それならー…」と解決策を出してくれようと頭をひねる。

対面でその様子を見つめていた悠也は、膝に置いていた手に無意識に力を込めた。


ここまで事情を知っていて、なおかつそれに過剰に反応することも無い相手は、今後現れないかもしれない。
優君は俺より結構年下だけど、長年あの伊織の友達をやってくれてるくらいだから、どこぞの他人より信頼もできるし、何より俺にはこの件を相談できる友達なんて居ないし……、って、ああもう言い訳ばっかりだ!!

とりあえず、自分の『この気持ち』を相談するのは今ここしかない!
年上としてみっともないとか情けないとか言ってられない!
だって俺は本気で悩んでる!!

乾いた口内をそのままに、悠也はゆっくりその右手を顔の高さほどに上げ、

「…その…あと、…それを満更でもなく思ってる自分がいる、から、……困って、マス」

「え…」

「……、」

しばしの沈黙に、羞恥で赤く染まっていた悠也の顔から段々と血の気が引いていき、冷汗が滲んでいく。
あれ、もしかしてこれ俺、失敗した?軽蔑された?冗談って笑い飛ばすべきか?
光の速さで何パターンもの最悪を想定しながら、悠也が恐る恐る優の方を見やると、

――彼は、予想に反して、その表情をキラキラとした感激一色に染めていた。

え?眩しっ。

「じゃあ両思いで万事OKじゃないですか!!」

次いで、興奮したようにデスクに両手を付き、身を乗り出した優に、言い出しっぺの悠也の方が酷くあたふたと動揺してしまう。

「い、いやいやいや! OKじゃないよ!! …だ、だって俺は歳の離れた兄で、しかも育て親だし…! アウトすぎでしょ!!」

「まぁ確かに。 全然知らない育て親が、養い子兼弟に手を出したって聞いたらドン引きますけど」

「ドン引くんじゃん!!」

「――でも、悠也さんと伊織なんで」

そう言って歯を見せて微笑む優からは、悠也達に対する絶対的な信頼感を感じ取れる。
思わぬ発言に、悠也は一時照れたように呆けていたが、その表情はすぐに影を落としたものに変わった。

「…で、も…、まだ、伊織が俺のことを好きって決まったわけじゃないし、…これで家族愛の方でしたって言われたら…、いやそれはそれで嬉しいんだけど。
……それに、伊織と潤には絶対に幸せになって欲しいから、俺がその障害になるようなことをしたくないんだ。 伊織はまだ若いし、こんなおじさんより全然素敵な人を好きになる可能性大だろ?」

あの男より、良い育て親に、二人を幸せにできる兄になろうと決めたのは己なのだと、そう自分に言い聞かせる。

冗談めかした笑みで取り繕う悠也の言葉を、優は口を挟まず静かに聞いていた。

「だから、俺は伊織と潤がいつか俺から離れる時まで、このまま、 家族のままでいたいんだ」

話の終わりと共に、悠也はデスクの上のもう湯気が立たなくなったコーヒーをじっと見つめる。
まっすぐこちらを見ているであろう優とは、何故だかどうしても視線を合わせることが出来なかった。

少しの沈黙の後、ふっと、笑ったようにも、仕方ないなとため息を吐いたようにも聞こえる優の吐息に、悠也はおずおずと顔を上げる。

優は、眉を下げた優し気な表情で悠也を見つめていた。

「分かりました。
…でもそれ、ちゃんと伊織に言ってやってください。 きっぱり、『自分にはそんな気持ちが無いから』って。
俺の親友は一途なヤツなんで、ずっと宙ぶらりんは可哀想です。 、ちゃんと悠也さんの心の内を話してやってください」

「……うん」

未だ、少し何かがくすぶるようなスッキリしない心をそのままに、悠也が返事をすると、
優はもう聞けることは聞いた、とばかりに途端に明るく晴れやかな表情で笑う。

「このお菓子、いただいても良いですか?」

「っあ、うん! ちょっと待って、コーヒー淹れなおし、てっ!?」

「悠也さんっ!!」

優の切り替えの早さに驚きながらも、改めてもてなそうと席を立った悠也だったが――、

がたん!!
気が急いてしまったか、椅子に足を取られ、そのまま後ろ向きにバランスを崩す。

身体を襲う浮遊感と、想像できる痛みへの恐怖に、悠也はひやりとして咄嗟に目を固く閉じた、
――が、悠也が思っていたような強い衝撃が来ることは無かった。

「――っぶなかったですね…!」

「う、うんっ…ビビった…、ってごめん! 大丈夫!?」

「はい、俺は何とも――、」

床に仰向けに倒れそうになる悠也を、その直前で咄嗟に優が庇ってくれたのだ。
最終的に悠也は殆ど横たわってしまっていたが、背中から頭にかけて抱きしめるように回してくれていた優の手がクッションになり、全くの無傷だった。

ということは優君の方に衝撃がいったのでは!?と状況を聞きながら、傍から見ればまるで優君が俺を押し倒しでもしているような体制だな、なんて、恐怖でドキドキと跳ねる心臓を落ち着けるために、頭の隅でどうでも良い事を考えていた、
その瞬間、

ガチャリとリビングの扉が開き、『傍から見れば』の『傍』が現れてしまう。

しかもそれは、絶賛喧嘩(?)中かつ、先ほどまで話の中心人物であった伊織その人で――、

「お、おかえり」

「……何、してんの」

とりあえず帰りの挨拶をした悠也だったが、直後に言わなければよかったと後悔した。
仰向けに倒れたままの悠也を見下ろす伊織の目は、正に絶対零度と言っても過言ではない程に冷たいもので――。

思わず助けを求めて優を見やれば、彼も「あちゃー、タイミング悪男ー」とでも言いたげな、悠也と似たような表情を晒していた。

「あー…、伊織、これは、」

「早く立てば」

「お、おぉ」

「…あの、伊織、」

「……から、」

「え?」

真っ先に、優が伊織に現状を説明しようと口を開くが、途中で言葉を遮られる。
伊織の言う通りにまず悠也の上から移動した優に代わって、上体を起こした悠也が伊織に声をかけようとすると、
伊織が何事かを呟いた。

反射的に聞き返すと、感情が抜け落ちたような冷たい無表情ながらも、その内に確かに宿る、燃えるような憤りを含んだ瞳で鋭く睨みつけられる。

「アンタと顔合わせたくねぇから、今日は外で飯食う」

言い訳する悠也を遮って、そのまま外へ向かう伊織。

「おい伊織!! っ悠也さん、ちゃんと俺が説明しとくから! …っ待て! 伊織!!」

呆然と言葉を発せない悠也をそのままに、伊織はさっき通ってきたところを再び戻って、外に向かう。
そしてそんな伊織を、すぐさま優が追いかけて行った。


優が伊織を呼び止めようとする声を最後に、バタン!と玄関のドアが閉まる音が大きく響いてから、一瞬にして部屋がシンと静まり返る。

怒涛の展開に追いつけぬままポツンと1人家に残された悠也が、どうすべきなのかわからず立ちすくんでいると、
ポコンっ!と、ズボンのポケットに入れていたスマホから軽快なメッセージ通知音が鳴った。
緩慢な動作でそれを確認すれば、送り主は潤だ。

『隆二の家にそのまま泊まることになったー!』というその文面を一時じっと見つめてから、片手で返信を打つ。

『分かった。隆二君と、親御さんにもよろしく伝えといてくれ』
『迷惑かけないようにな』

送信したメッセージにはすぐさま既読のマークが付き、敬礼をしたよくわからない動物キャラクターのスタンプが返ってきた。
そしてそれから間をおかず、『仲直り!』というカラフルな文字の下で肉食動物と草食動物が肩を組んで微笑んでいるシュールなスタンプも送られてくる。

『仲直り頑張れ!』

ポコン

家電のわずかな稼働音だけが聞こえるリビングで、その通知音は良く響いた。

――頑張る相手がいなくなっちゃったんだよな。
そんなことを心中で思い浮かべながら、悠也はふいに部屋を見渡す。


誰も居ないリビングを見て、
そんなの、いつだって見慣れているはずなのに、


何だかそこがとても広くて、自分の知らない場所であるかのように思えた。


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