上 下
196 / 250
5章 エルフの森

邪神の使徒は涙目

しおりを挟む
 突然の敵対者からの襲撃(簀巻)を食らったわけだが、取り敢えず逃げられると後々面倒なので捕獲することを考える。
 何が面倒かって、主に仲間内への説明が面倒なのだ。
 それに、神様至上主義っぽいこの世界で、邪神の使徒でダンジョンマスターだなんていう奴が居れば、ゴーレムとかミルカさんにちょっとアレな事をした事も有耶無耶に出来るだろう。
 コイツを利用しない手はない。
 とは言え、相手がいわゆる人に属する種族ではなく、多分知能のあるモンスターなんだと思われるので、対人用の非殺傷装備が効果が有るのかが不明というのが問題だ。
 瀕死の状態なわけだしちょっと叩けば倒せすことは簡単そうだが、それだけに下手なことをすると捕まえたいのにうっかり「殺っちゃったZE」ってことになりかねない。
 そうなると、ーーここはチートツールの出番だろう。
 解析ツールで得たコードをチートツールに打ち込んでいく。
 打ち込んでいる間に逃げられると困るので、なんとか煽って時間稼ぎをしたいところだ。

「何故俺を狙った? しかもこんな地味な方法で……」

「ふん、貴様の仲間達の記憶を覗いて、この方法が確実だと思っただけだ。 ドラゴンですら補足出来ぬほどに逃げ足が早いということだったからな!」

 忌々しげに吐き捨てるボロ雑巾パール、もとい万面のカーミラ。
 ドラゴンが補足出来ないとか誰の記憶覗いて得たんだよ……。
 ばんめん? まんめん? 解析ツールにルビが無いから、なんかもうどっちでもいいや、音が若干間抜けて聞こえる「まんめん」の方で呼んでやろうか。

「いや、いっぺんに聞いた俺も悪いが、簀巻にするって選択肢を選んだ理由より、俺を狙った理由を教えろよ……邪神の使徒でダンジョンマスターの万面のカーミラさんよぉ」

「な!?」

 仲間の記憶を覗いたって言うなら、俺の解析ツールを鑑定の凄い版として認識しているはずなのだが、ものすごく驚いているな。
 解析ツールのウインドウは見えているわけだし、名前と所属?を言っただけで驚いたあたり記憶が覗けるのは、ほんの少しだけか条件が厳しいのだろう。
 まあ、条件無しに人の記憶をホイホイ覗けたら爆発に巻き込まれることも無かっただろうし、今俺が時間稼ぎをしようとしている事もバレているはずだから、さっさと逃げるか観念するかしているところだろう。

「記憶が覗けるとか、ドヤ顔で言っといて、自分の情報を知られて驚くとか邪神の使徒の癖に恥ずかしい奴だな。 シェイプシフターの癖に化けるのが下手くそすぎだろう、もしや退化でもしたのか?」

「き、貴様……」

 シェイプシフターというのは、ミミックなどを初めとした擬態するモンスターの事だ。
 アイデンティティとも言える擬態をこき下ろすと、射殺さんばかりの目で俺の事を睨みつけてくる。
 逆上して殴りかかってもこないし、取り敢えず逃げる素振りは無いので良しとしよう。
 抵抗できないくらいボロボロなだけかもしれないが、まだコードを打ち終わって無いので、もいちょっと煽って意識をそらしておくか。

「大体、化ける対象にパールを選んだあたりも程度が知れるな。 知り合った時期が一番浅いから多少の違和感があっても誤魔化せるとでも思ったのか? 程度の低さを自覚しているのは良い事かもしれんが、そんなモブ的なの奴が俺を殺しに来るっていうの解せんな。 邪神ってのは、そんな事もわからない程知能が低いのか?」

 実際結構ヤバかったし、完全に騙されていたわけだが、悔しいのでさらに煽っておく。
 使い魔の繋がり的なものを全く感じないのに、全然気が付かなかったっていうあたりもこの際棚に上げておく。

「邪神様を愚弄するか気か!」

「そうさせているのはお前だろ? 判断材料がボロ雑巾になってる使徒のお前しかいないんだし。 邪神の使徒なんて看板背負ってるやつがその程度ってことは、その親分の邪神ってのもたいしたことはないってことになるんだ。 つまりお前が邪神の顔に泥を塗ったってわけだな」

「な……なんだと!?」 

 驚愕する万面のカーミラ。
 ってか、いちいち俺の話を真に受けすぎだろ。
 詐欺とかに簡単に引っ掛かりそうだ。

「例えお前が凄い下っ端で捨て駒的な存在で、威力偵察って想定をしに来たのだとしても、そうしないと情報も拾えないって事になる。 どちらであるにせよ、神を名乗ってる割には能力も知能も配下も程度が人間と同等程度と判断せざるを得ないわけだ」

 あ、なんか涙目になってきたな。 いっつも不遜なパールと同じ顔だから違和感がすごい。

「舐めるな! 直接血祭りにあげてくれる!」

 逆上した万面のカーミラが、俺に何か魔法攻撃を仕掛けようとしているようだ。

「はい残念賞ー!」

 煽っている間にコードの打ち込みが終わったので、ただちにMPと魔法のスキルレベルを0にしてやる。

「なに!? 貴様何をした!?」

 万面のカーミラが魔法を放とうと両手を前に付きだしたが、スキルレベル0になった時点で、当然不発に終わる。
 擬態用のスキルだと思われるシェイプチェンジ以外のスキルも軒並みレベルを0にしてやる。
 擬態用のスキルを0にしないのは、本当の姿がグロかったら嫌だなーという理由だ。
 回復されると素の身体能力だけでも少々厄介なので、ステータスも一律で10に下げてやると、ガクリと膝をついた。

「ち、力が抜けていく!?」

 ステータスを上げると痛かったり苦しかったり気もち悪かったりするのに、下げた場合は脱力感を感じるだけというのが微妙に納得いかないが、これでもう何にも出来ないだろう。

「うえるかむとぅーざ、れべるわーんず、わあああるどおお。 レベル1の世界にようこそ」

「まさか人ごときがレベルドレインを使ったのか!?」

「似たようなもんかな? まあ、レベルもステータスも固定している状態だから逃げたら野垂れ死にするだけだ。 ついでに言うと、すでにお前は邪神の使徒でも無くなっているぞ」

 自分の現状の状態がわかったのか、愕然とした表情でペタリと座り込む万面のカーミラ。

「ねえ、騙して殺そうとした人間に、あっさり返り討ちにされて、ゴブリンより弱くされて、更に敬愛する邪神にまで見捨てられたのってどんな気持ち? ねえ、今どんな気持ち?」

 万面のカーミラの周りをぐるぐる周りながら気持ちを聞いてみると、舌唇を噛んでぷるぷると悔しそうにこちらを睨んでくる。

「さて、もう邪神の使徒ではなくなったことだし、洗いざらい知っている事を吐いて貰おうか」

「くっ、殺せ!」

 お前まさかのくっころさんかよ!
 そういうの女騎士とかが言うセリフだろうに。
しおりを挟む

処理中です...