【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛

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39.落ち度のない彼女(ソフィアSide)

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「ソフィア」

 名前を呼ばれ、過去から意識が浮上する。アロルドの背中を追い、いつのまにか人けのない場所まで来ていた。大通りから逸れた住宅地は入り組んでいる。人がすれ違うのもやっとの建物と建物の間で、アロルドは私に向き直った。

「おまえに一つ、聞きたいことがある」
「はい、なんでしょう」

 尾行のことだろうか。それとも、アロルドに婚約を打診してほしいと再三父にわがままを言っている件? 魔獣騎士団間の共同演習を増やしてほしいと草案を投げている件かも。……心当たりが多すぎてわからない。
 
 ……どれもこれもアロルド絡みだけど、迷惑だと言われるんだろうか。
 
 顔を見れず足元ばかり見ていたら、アロルドは思いもよらない質問を口にした。
 
「ルートヴィヒとおまえが恋仲だという噂があることは知っているか?」
「え……? 私たちは恋人ではありません」
「知っている」
「えっと、……それなら、アロルド団長とどんな関係が……?」
「質問の答えは?」
「……」

 知っているか知らないかで言えば、答えは「知っている」だ。
 
 誰が流したのか、ルートヴィヒと私が理想のカップルという噂があると王家の影からも聞いていたが、勘違いも甚だしい。私はアロルドを、ルートヴィヒは奥様を長年一途に想い続けている。
 だけど、その噂を都合よく利用した部分も確かにある。公に否定しなかったことで婚約の打診が避けられているのだから、助かっていると言うのが正直な気持ちだ。だって、ルートヴィヒの家柄、容姿、経歴に勝てる令息などめったにいないもの。

 ……アロルドはもしかして、その噂に怒ってくれているの? それって、やきもち……とか?

 まさか、と思いながら口元が綻ぶのを止められない。にやけそうになる口元をぎゅっと引き結んだ。
 
 だけど、そんな私に向けられたのは、甘い言葉ではなく厳しい叱責だった。

「……その顔は知ってたんだな?」
「耳にはしましたが、事実無根です」
「ほう……。浅ましいことよ。おまえがその噂を利用したことを知らないとでも?」
「……え?」
「おまえの礼儀作法を担当した講師に確認した。マナー、礼儀作法に関してはずいぶんと優秀なお姫様だったらしいな? ルートヴィヒに対するあの距離感は誤解を与えて当然だ……噂を知った上で敢えて助長したな?」

 違うの! 団員たちとフランクに接していれば、あなたにも気軽に触れられると思ったから! ルートヴィヒになんて、一ミリも心を動かされたことはないわ!

「っ、誤解です! ルートヴィヒは弟のような存在で、ただの仲が良い――」
「ああ、いい、いい、言い訳はいらない。おまえの事情はどうでもいい。だけどな、ソフィア」

 アロルドは金属のように冷たい黄金の瞳で私を見下ろした。

「ルートヴィヒの妻がどんな扱いを受けたか、考えたことはなかったのか? 理想のカップルを邪魔する悪妻だと言われていることを知ってたんだよな? 『国民の妹』を無条件に応援する市民のせいで、落ち度のない彼女が世間から責められていると考えたことは一ミリもなかったのかと聞いてるんだっ!」

 語気の強まったアロルドに、喉がひゅっと鳴った。
 
 あ……、アロルドは亡くなった奥様とルートヴィヒの妻の姿をどこか重ねて……。

 大失態をしたことに気がついた。ルートヴィヒの妻? 社交が苦手で引きこもっていると聞いていたし、公の場に出てこないのだから構わないとどこかで思っていた。……噂の真相がどうであれ、もしも耳にしたとしたら彼女が傷つかないわけなかったのに。

「おまえの自分勝手な行動のせいであいつらは別れるかもな。……殿下。貴族社会のルールやマナーに配慮できないのなら、王族としてドレスを着て外交をなさっていてください。王女の立場なら多くの部下があなたの尻拭いをするはずです」
「アロル――」
「このまま魔獣騎士団の団員として過ごすのなら過度な接触はおやめください。多くの騎士に妻もしくは婚約者がおります」
「アロルドっ!」
「……なんだ」

 軽蔑するような視線に耐え切れず、涙が溢れた。

「ごめんなさい……私が、私が悪かっ――」
「いえ、魔獣騎士団長として風紀の乱れが気になっただけなので。それではこれで失礼します」
「待って!」

 ひるがえそうとしたその体を引き留めようと、思わずぎゅっと掴んでしまった腕。気安く触るなとまた怒鳴られると思ったけど、アロルドは背を向けたままながらも立ち止まってくれた。

「……アロルド、私じゃだめなの? アロルドこそ、私の気持ちを知っているでしょう?」

 人の機微に敏感なアロルドが気づいていないわけがない。
 アロルドはゆっくり振り向くとふっと目元を緩め、吐息がかかるほど顔を寄せてきた。



「はっ……俺に抱いて欲しいのか? いくらでも抱いてやるよ、あばずれ王女様」
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