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41.どうして、どうして、どうして!
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「……ひとりでいたいから別邸にいたと思っているんですか? そして、それは私のわがままだと……?」
「そんなことは言っていない! ……いや、俺の言い方が悪かった、すまない。その……、君の希望はどんなことでも叶えるつもりでいる。……叶えたいんだ」
は? 私の希望はどんなことでも叶えるですって?
王女様との恋愛を楽しむために、私を当て馬にした負い目があるから?
目の前で眉尻を下げるルートヴィヒ様へ無性に腹が立ってきた。
「……笑える」
「クラリス?」
「私の希望なんて知らないくせに……」
怒りで声が震えてしまったのは許してほしい。
私の希望ですって?
私はただ、初恋の人に嫁いでお互いにお互いを思いやりたかっただけ。
燃え上がるような恋でなかったとしても、お互いを慈しみ、平穏に暮らしたかっただけよ。
間違っても本命がいる人の見せかけの妻として嫁ぎ、冷遇される生活なんて望んでいなかった!
「すまない、言葉を間違えたかもしれない。……今まで俺たちはあまりにも会話が――」
「ええ。私は傲慢な悪妻ですもの。だから冷遇されても仕方がないと思います」
うん。貴族として家同士が結んだ婚姻を、夫に恋人がいるから別れようと思っているんだし、確かにわがままだし傲慢だわ。
「は? 君が傲慢な悪妻? 一体何を言って……」
困惑の表情を浮かべるルートヴィヒ様。私、国民の理想のカップルを邪魔する悪役なんですが……?というか、あなたのせいなんだけど。
「……」
言いたいことはたくさんある。
どうして王女様と恋仲なのに私と結婚したのか。
どうして初夜をして夫としての務めを果たしてくれなかったのか。
どうして私をレーンクヴィスト家の一員として扱ってくれないのか。
どうして使用人たちの冷遇を見て見ぬふりをするのか。
どうして、どうして、どうして……!
三年の白い結婚が成立するまで残すところ九か月。
……だけど、もう我慢しなくてもいいよね?
「……警備の問題もあると思うので、本邸に戻ります。ですが、私からのお願いも聞き入れてもらえますか?」
「っ! ああ、ああ! もちろんだ」
こくこくと頷くルートヴィヒ様。そんなに簡単に聞き入れて大丈夫なのかしら。
「その前に……君は専属のメイドを選ぼうとしないからつけたくないと思っていたんだが、こんな状況なこともあって手配させてもらったよ。というか、立候補者がいて」
「……」
選ぼうとしなかったというより、誰もやりたくなさそうだったし、つけたら何をされるか不安で指名できなかったんだけど。
私のそんな思いも知らず、ルートヴィヒ様はうれしそうだ。……何その顔。
ベッドに座ったままの私をその場に残し、ルートヴィヒ様は「呼んで来るからちょっと待っていてくれ」と部屋の外へ出て行った。
この屋敷で働くメイドを思い浮かべてみる。当たり障りがない、私への冷遇を傍観していた数名ならまだマシかな、なんてため息をかみ殺す。
離縁するまでの九か月、本邸で暮らすならメイドはいた方が生活はしやすい。
だけど、専属メイドがついたらドラちゃんのお世話係はどうしよう。お金を握らせたら黙っていてくれるかな。
……ううん。もうメイドに何を言われたってかまわないわ。うちの奥様は外で仕事をしているんですって、外で言えるもんなら言ってみなさいな。国民の理想のカップルを邪魔する悪妻なんて言われるよりマシだわ。むしろ立派なことだもの。
なんだ、大した悩みじゃなかったな、なんて思っていたらノックの音とともにルートヴィヒ様が顔を覗かせた。
彼の「クラリス」と言いかけた言葉を遮り。
あろうことかこの家の主を押しのけ、懐かしいおさげ髪の美女が私に突進してきたのだ。
「そんなことは言っていない! ……いや、俺の言い方が悪かった、すまない。その……、君の希望はどんなことでも叶えるつもりでいる。……叶えたいんだ」
は? 私の希望はどんなことでも叶えるですって?
王女様との恋愛を楽しむために、私を当て馬にした負い目があるから?
目の前で眉尻を下げるルートヴィヒ様へ無性に腹が立ってきた。
「……笑える」
「クラリス?」
「私の希望なんて知らないくせに……」
怒りで声が震えてしまったのは許してほしい。
私の希望ですって?
私はただ、初恋の人に嫁いでお互いにお互いを思いやりたかっただけ。
燃え上がるような恋でなかったとしても、お互いを慈しみ、平穏に暮らしたかっただけよ。
間違っても本命がいる人の見せかけの妻として嫁ぎ、冷遇される生活なんて望んでいなかった!
「すまない、言葉を間違えたかもしれない。……今まで俺たちはあまりにも会話が――」
「ええ。私は傲慢な悪妻ですもの。だから冷遇されても仕方がないと思います」
うん。貴族として家同士が結んだ婚姻を、夫に恋人がいるから別れようと思っているんだし、確かにわがままだし傲慢だわ。
「は? 君が傲慢な悪妻? 一体何を言って……」
困惑の表情を浮かべるルートヴィヒ様。私、国民の理想のカップルを邪魔する悪役なんですが……?というか、あなたのせいなんだけど。
「……」
言いたいことはたくさんある。
どうして王女様と恋仲なのに私と結婚したのか。
どうして初夜をして夫としての務めを果たしてくれなかったのか。
どうして私をレーンクヴィスト家の一員として扱ってくれないのか。
どうして使用人たちの冷遇を見て見ぬふりをするのか。
どうして、どうして、どうして……!
三年の白い結婚が成立するまで残すところ九か月。
……だけど、もう我慢しなくてもいいよね?
「……警備の問題もあると思うので、本邸に戻ります。ですが、私からのお願いも聞き入れてもらえますか?」
「っ! ああ、ああ! もちろんだ」
こくこくと頷くルートヴィヒ様。そんなに簡単に聞き入れて大丈夫なのかしら。
「その前に……君は専属のメイドを選ぼうとしないからつけたくないと思っていたんだが、こんな状況なこともあって手配させてもらったよ。というか、立候補者がいて」
「……」
選ぼうとしなかったというより、誰もやりたくなさそうだったし、つけたら何をされるか不安で指名できなかったんだけど。
私のそんな思いも知らず、ルートヴィヒ様はうれしそうだ。……何その顔。
ベッドに座ったままの私をその場に残し、ルートヴィヒ様は「呼んで来るからちょっと待っていてくれ」と部屋の外へ出て行った。
この屋敷で働くメイドを思い浮かべてみる。当たり障りがない、私への冷遇を傍観していた数名ならまだマシかな、なんてため息をかみ殺す。
離縁するまでの九か月、本邸で暮らすならメイドはいた方が生活はしやすい。
だけど、専属メイドがついたらドラちゃんのお世話係はどうしよう。お金を握らせたら黙っていてくれるかな。
……ううん。もうメイドに何を言われたってかまわないわ。うちの奥様は外で仕事をしているんですって、外で言えるもんなら言ってみなさいな。国民の理想のカップルを邪魔する悪妻なんて言われるよりマシだわ。むしろ立派なことだもの。
なんだ、大した悩みじゃなかったな、なんて思っていたらノックの音とともにルートヴィヒ様が顔を覗かせた。
彼の「クラリス」と言いかけた言葉を遮り。
あろうことかこの家の主を押しのけ、懐かしいおさげ髪の美女が私に突進してきたのだ。
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