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42.カヤ参上!
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「クラリスお嬢様――――――っ!!!」
「カ、カヤ!?」
な、なんでカヤがここに!?
ぎゅむっと抱きつかれそうになった寸前でルートヴィヒ様がカヤの襟を掴む。
「おい! その勢いで突進したらクラリスが潰れるだろう?」
「おっといけない。クラリスお嬢様、カヤが参りましたからご安心くださいね~」
「えっと、これは一体どういう……?」
「ヴェルナール家の皆様がお嬢様を心配なさって私を向かわせたのですよ」
ルートヴィヒ様に襟を掴まれたまま、眉尻を下げるカヤ。ってことはつまり……あの噂を耳にしたってことなのね。
心配かけたくなかった家族の耳にとうとう入ってしまったのだと思うと気が重くなる。だけど、幼い頃から側にいてくれたカヤが来てくれたことは素直にうれしい。その、……ちょっとけたたましい所はあるのだけど。
「不肖カヤ、クラリス様のご配慮で輿入れにはついていかず、領地で婚姻を、とのことでしたが貰い手がなく。この機会にクラリス様のお側でまた働かせていただこうと、レーンクヴィスト伯爵令息に許可をいただいた次第でございます」
「おい、その呼び方……まあいい。そういうわけでクラリス。君の専属メイドはカヤで構わないか?」
「ええ、もちろんです……!」
「あぁっ、クラリス様……!」と私に再び抱きつこうとしたカヤを止め、ルートヴィヒ様は「おまえはメイドらしくできないのか?」と苦虫を嚙み潰した顔をする。
婚約が決まるかどうかの頃からルートヴィヒ様とカヤは顔を合わせているけど……、そういえば二人ってお世辞にも相性がいいとは言えなかったわよね?
すでに一触即発の様相を呈しているんだけど、大丈夫かしら。
腕を組んだカヤは、前世でいうチンピラのごとくガンを飛ばし、ルートヴィヒ様を「やんのかコラ」状態で下からねめつける。ちょ、ちょっとカヤったら……相変わらずの強心臓ね。
「カヤ、いつ邸に着いたの?」
「今日の昼前に着きました! お嬢様はお出かけされたとのことで、荷ほどきやら屋敷の案内やら自己紹介やらを済ませ、お待ちしていた次第でございます」
「そう…………。その、大丈夫だった?」
気弱なクラリスの元専属メイドが実家からやってきたなんて聞いたら、オパールたちが何かいじわるしたんじゃないだろうか。カヤにまで迷惑を掛けてしまったのではないかと思うといたたまれなくなる。
「お嬢様……、カヤの心配はご無用でございますよ。ところで。レーンクヴィスト伯爵令息。クラリス様との婚約、しいては結婚にあたって誓った言葉、よもやお忘れではありますまい」
「は? 急に何を……」
「泣く泣く! 泣く泣く手放した至宝のお嬢様、それがクラリス・ヴェルナール。わたくしの大切なお嬢様でございます。あなた様の熱烈な求婚によって、そこまでおっしゃるのならとお人好しなヴェルナール家がとうとう絆され、かっさらわれるように嫁いだものと記憶しておりますが?」
「あ、ああ。言い方はちょっとあれだけど……なんだよ」
手の甲で口元を隠しながら、ルートヴィヒ様がふいっと視線を逸らす。顔が真っ赤だ。
「ほほう……。ならば、クラリス様を大切に大切になさっておいでですよね? そうですよね?」
「うっ……それはその……、言葉が足りていなかったところはこれから直していこうと……だけど気持ちだけはあの時のまま……いや、それよりももっと……」
ごにょごにょと口ごもるルートヴィヒ様。
カヤは冷ややかに口にした。
「わたくしっ! メイド長のオパールとやらに聞き捨てならないことを言われたのですが? ……我が主ルートヴィヒ様は王女殿下と結ばれるべき。根暗な奥様をようやく実家が迎えに来たのか、と嘲笑いやがったのですが。一体どういうことでございますか?」
「……………………は?」
「カ、カヤ!?」
な、なんでカヤがここに!?
ぎゅむっと抱きつかれそうになった寸前でルートヴィヒ様がカヤの襟を掴む。
「おい! その勢いで突進したらクラリスが潰れるだろう?」
「おっといけない。クラリスお嬢様、カヤが参りましたからご安心くださいね~」
「えっと、これは一体どういう……?」
「ヴェルナール家の皆様がお嬢様を心配なさって私を向かわせたのですよ」
ルートヴィヒ様に襟を掴まれたまま、眉尻を下げるカヤ。ってことはつまり……あの噂を耳にしたってことなのね。
心配かけたくなかった家族の耳にとうとう入ってしまったのだと思うと気が重くなる。だけど、幼い頃から側にいてくれたカヤが来てくれたことは素直にうれしい。その、……ちょっとけたたましい所はあるのだけど。
「不肖カヤ、クラリス様のご配慮で輿入れにはついていかず、領地で婚姻を、とのことでしたが貰い手がなく。この機会にクラリス様のお側でまた働かせていただこうと、レーンクヴィスト伯爵令息に許可をいただいた次第でございます」
「おい、その呼び方……まあいい。そういうわけでクラリス。君の専属メイドはカヤで構わないか?」
「ええ、もちろんです……!」
「あぁっ、クラリス様……!」と私に再び抱きつこうとしたカヤを止め、ルートヴィヒ様は「おまえはメイドらしくできないのか?」と苦虫を嚙み潰した顔をする。
婚約が決まるかどうかの頃からルートヴィヒ様とカヤは顔を合わせているけど……、そういえば二人ってお世辞にも相性がいいとは言えなかったわよね?
すでに一触即発の様相を呈しているんだけど、大丈夫かしら。
腕を組んだカヤは、前世でいうチンピラのごとくガンを飛ばし、ルートヴィヒ様を「やんのかコラ」状態で下からねめつける。ちょ、ちょっとカヤったら……相変わらずの強心臓ね。
「カヤ、いつ邸に着いたの?」
「今日の昼前に着きました! お嬢様はお出かけされたとのことで、荷ほどきやら屋敷の案内やら自己紹介やらを済ませ、お待ちしていた次第でございます」
「そう…………。その、大丈夫だった?」
気弱なクラリスの元専属メイドが実家からやってきたなんて聞いたら、オパールたちが何かいじわるしたんじゃないだろうか。カヤにまで迷惑を掛けてしまったのではないかと思うといたたまれなくなる。
「お嬢様……、カヤの心配はご無用でございますよ。ところで。レーンクヴィスト伯爵令息。クラリス様との婚約、しいては結婚にあたって誓った言葉、よもやお忘れではありますまい」
「は? 急に何を……」
「泣く泣く! 泣く泣く手放した至宝のお嬢様、それがクラリス・ヴェルナール。わたくしの大切なお嬢様でございます。あなた様の熱烈な求婚によって、そこまでおっしゃるのならとお人好しなヴェルナール家がとうとう絆され、かっさらわれるように嫁いだものと記憶しておりますが?」
「あ、ああ。言い方はちょっとあれだけど……なんだよ」
手の甲で口元を隠しながら、ルートヴィヒ様がふいっと視線を逸らす。顔が真っ赤だ。
「ほほう……。ならば、クラリス様を大切に大切になさっておいでですよね? そうですよね?」
「うっ……それはその……、言葉が足りていなかったところはこれから直していこうと……だけど気持ちだけはあの時のまま……いや、それよりももっと……」
ごにょごにょと口ごもるルートヴィヒ様。
カヤは冷ややかに口にした。
「わたくしっ! メイド長のオパールとやらに聞き捨てならないことを言われたのですが? ……我が主ルートヴィヒ様は王女殿下と結ばれるべき。根暗な奥様をようやく実家が迎えに来たのか、と嘲笑いやがったのですが。一体どういうことでございますか?」
「……………………は?」
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