主人公VSえっちしないと出られない部屋(with幼馴染)

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

文字の大きさ
8 / 26

第三部屋 幼馴染妹、現る(中編)

しおりを挟む


 辞世の句はやっぱり『わが生涯に一片の悔いなし』とかがいいのかな。辞世の句、詠んだことも見たこともないから知らんけど。というか悔いしかないんですけど。言われもないことで死の危機に直面していることに、俺はどうしたって理不尽を感じずにはいられないんですが。

 ……いやいやいや、冷静になれ彰人。なんで俺は何も悪くないってことを理解しているのに、その上で死を覚悟しようとしているんだ。間違っているのは確実にこの状況で会って、俺は何も間違っていないだろう?

 ここは流石に抵抗、というか否定をしなければならない。きちんと俺じゃなく朱里がやったということを、いろいろな根拠を並べていくしかない。……藍里ちゃんにそれを伝えるのは滅茶苦茶怖いけれど、それでも事実を伝えて、なんとか死を回避しなければ。

「……え、ええと、喋ってもいい、……です、かね?」

「どうぞ? ようやく罪を白状する気になったのなら止めませんよ」

「い、いや、そういうことじゃなくてですね。あのぉ、……俺が書かせた、というのは?」

 とりあえず俺は純粋な疑問を口にしてみた。いろいろと否定することから始めるよりも、きちんと彼女がどのように誤解をしているのかを把握しなければ、解決も何も図れなさそうだったから。

 俺がそういうと、ぴく、と彼女の眉が動いた。眉間にしわを寄せるようにして「はぁぁ」とあからさまなくらいにものすごく大きなため息を吐く。視線はいつまでも俺のことを見下げていて、その目からは『そんなこともわからないの?』という意図が孕んでいるような気がした。というか絶対そういう意図で睨んできてる。

「いいですか?」と藍里ちゃんは口上を置いて、そこから語り始めていく。

「そもそもですよ。あのお姉ちゃんが卑猥な文言を書く、ということがありえないんです。そういった言葉を知っている節もありませんし、そういった言葉を知る情報元、つまりソースというものがお姉ちゃんの部屋にはないんです」

「……」

 なんで姉の部屋にそういったものがないことを知っているんだよこえーよ。

「そんな姉がですよ? 未だに子供はコウノトリが運んでくると本当に思い込んでいるお姉ちゃんが、…………そ、その。え、えっち、っていう単語をですよ、発したり記すことはないはずなんですっ」

「まあそりゃアイツには無理だろうな──」

「──は? もしかしてお姉ちゃんを馬鹿にしてます?」

「──ひぃっ! め、滅相もございません……」

 いや、藍里ちゃんが言ったから俺も肯定しただけなのに……。

「ともかくですよ」

 藍里ちゃんはこれまた深い溜め息を吐き出した後に話しを続けていく。

「そんなお姉ちゃんが書くことはない文字を何故か書いているんです。……ええ、確かに彰人さんの言う通り、あの筆跡はお姉ちゃんのもので間違いありませんよ。……でも、だからこそ彰人さんがお姉ちゃんに『書かせた』ということ以外じゃ辻褄が合わないんですよ」

「え、えぇ……?」

 そこで俺に限定する意味あるかなぁ。朱里が影響を受けるのであれば、確実にアイツの女友達から借りてくる漫画とかの影響だと思うんですけど。

 正直、そのままこの気持ちを伝えてもいいかもしれないけれど、それはそれとしてその事実を伝えたら新たな被害者が生まれてしまう可能性がある。

 ……二次被害を増やさないためにも、ここは何とか誤魔化していくしかない。

「で、でもですよ? 俺がアイツに書かせた証拠とかってないでしょう? ……そんな証拠もないのに俺を犯人だって決めつけるのは──」

「──ありますけど」

「流石にちょっと──、え、あるの……?」

 え、なにそれこわい。俺の知らない証拠が勝手に出来上がっているこの世界怖い。

 戸惑いしか生まれないこの状況。俺は唖然としながら藍里ちゃんを見る。

 ……この上ない嫌悪感を覚えているような、そんな苦虫を噛み潰したような表情。

「えっ、本当にあるんすか……?」

「なかったらこんな風に彰人さんを責めたりしないでしょうが」

「そ、そっすよね……、……」

 ほんとかぁ? と言葉が漏れそうになったけれど、なんとか呑み込む。

 藍里ちゃん、いつも俺を敵対視しているから、証拠なくても俺を食い殺しに来そうだけど、……それはともかくとしてだ。

「じゃ、じゃあその証拠とやらを見せてくださいよ……。俺もそれを見て納得できたら、もうなんでも言うこと聞きますから」

 ……まあ、『死ね』という命令以外なら聞いてやりますとも。俺ができる限りは。

「……いいでしょう」

 藍里ちゃんはそれから得意げになったような表情を浮かべて、彼女の来ている制服からスマホを取り出していく。

 ……そして。



『……ええと、彰人が紙に気づいたら、ええと。ア、アレー? ナニナニー? エッチシナイトデレナイヘヤダッテェー? ……うーん、もっと声に気持ちを込めなきゃ──』



 ──幼馴染である朱里が、朱里の部屋で台本を読み込んでいる映像が、そうして俺の眼前に突きつけられた。





 えっ、なんでさも当然のようにこの妹ちゃんは姉の部屋を撮ってるの? 盗撮じゃないのこれ? 

 っていうかそれ以前に、なんかこの映像見てると恥ずかしくなるんだけど。なんだろう、めちゃくちゃ共感性羞恥を感じさせられるような──。

『──ア、アー! ナニアレー! エッチシナイトデレナイヘヤダッテェ?!──』

「──や、やめてさしあげて……。これ以上朱里の恥ずかしい姿を俺に見せないで……」

 いろいろとツッコミたいところはあるけれど、それについてを口に出したら、すぐに首がチョンパされる運命を辿るだろうから、盗撮の件については口にしない。

 ……うん、そこは絶対につっつかない。

「ほら、その反応が証拠じゃないですか。あなたが作った台本を、お姉ちゃんは健気に読み込んで練習しているんですよ? その姿が後ろめたいから見たくないんでしょう? はあ、本当に最低ですよ彰人さん。あなたがそんな人だとは思いませんでした。健気で無知、純粋な姉を利用して、こんなことを仕組むなんて。……この、変態ッ」

 蔑む視線が俺のすべてに注がれている。いや、俺がその映像を見続けたくないのは共感性羞恥からだし、そもそも朱里に手を出すなんて、高校生活における世間体がかかっているから、3ミリくらいしか考えたことないのに。

 ……それはそれとして、年下の子に変態って言われるの、傷つくのとは違う感覚があるな。なんだこれ、新しい感情……?

「……ほら、またそうやっていやらしいことを考えているじゃないですか。本当に変態はどこまでも変態でしかないんですね。……軽蔑します」

「い、いや? ちっとも考えてないけど?」

 少し図星を突かれたような気がして、俺はそんな風に強がってみるけれど、もう藍里ちゃんの視線は俺から他のものに移っている。何を見ているんだ、とそう思ったけれど……。

「変態と同じ空気を吸うのも嫌になってきました。……窓開けて新鮮な空気を吸わなきゃ」

 ……単純に、軽蔑している対象である俺に視線を合わせたくなかったらしい。藍里ちゃんはそれから言葉通りに窓際の方まで行って、窓を豪快に開けていく。

 そうして吹く風。熱風。夏に吹く風は、どこかドライヤーのようにも感じる。まあ、あれよりもじめっとしているからドライヤーの方がましだけど。

 ただ、それでも冷房を付け始めたばかりの部屋には少しの清涼剤くらいの役割は果たしていて、それはなかなかの強さを持った風が部屋に流れ込んでくる──。



 ──バタンッ。



「ん?」

「え」



 ──そんな、何かが開閉する音が背中の方から聞こえてくる。

 俺はそうして後ろを見た。

 ぺらぺらと風に靡く、卑猥な文言が書かれた書き初め用紙。どれだけ風が強くても剥がれず、そして破れずにいつまでもドアの上に鎮座している。

 そして、──強風によって勢いよく閉まってしまったドアの姿。

 ……更に。



「──と、とうとう私にまで手を出そうって言うんですか……!? こ、この色情魔ァ!」



 そんなドアの音に反応した藍里ちゃんの、これでもか、ってくらいに俺を責めるような、その視線、声、言葉。

 えぇ……、俺悪くないのに……。

 俺はそんな戸惑いと諦めを抱いたような溜め息を吐くことしかできなかった。





──────────────────────────
 この幼馴染姉妹、どっちもどっちじゃね?
 それはそれとして、感想やいいね、お気に入り登録、そのほか誤字報告などしていただきありがとうございます! 本当に助かります! 励みになります! 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...