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第一章 灰色の現実
1-6 それじゃ転校生を紹介するよ
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空洞の中は、いつまでも暗闇に染められている。視界に安定性がなく、躓きそうになる感覚が何度もする。けれど、葵がそのたびに手を引っ張ってくれるから、転ぶようなことはなかった。
道を進んでいるのか、停滞しているのかよくわからなくなる。確かに足は前を進んでいて、後ろにあった外の世界はだんだんと遠くなってきている。けれども、その実感については薄いもので、歩いている道が下り道なのか、それとも上り坂なのか、普通に平たんな道なのかもわからない。ただの学校の壁の空洞に、どれだけ距離を歩めばいいのか、そんな疑問を抱きながら前に進む。
「あ、もうすぐだよ」
葵がそういうので、僕は下を向いていた顔を上げた。
光のようなものが確かに見える。真っ白い光で、ストロボに照らされるような、それでいて一筋だから淡く見えるような、そんな光が。明暗のギャップに瞳は酩酊して、焼き付いた光の残像を未だに追いかけている。
そうして、歩みを進めれば──。
「おー、遅かったじゃないか」
先生の声が聞こえてくる。視界の情報はまとまらないまま、とりあえず魔法学校のような場所にたどり着いたという実感が心に沸いた。
「すいません、転移ができず……」
葵がそう言っている間に、視界の情報をまとめて、そうして魔法学校がどういう場所なのかを視認する。
……なんだこれ。
傍らの景色に映るのは、葵と先生と、そのほかの同年代のような男女の人間三人。……まあ、人間というか、ここにいるから魔法使いなんだろうが。
それはともかくとして、それ以外に広がる光景としては、あまりに異質なものでしかない。
──天井がない。天井がないから、どこまでも暗い世界が上に続いている、宇宙よりも黒い感覚を初めて見る感覚がする。
そして、どこまでも地続きに広がる無限の床、というか空間。グラウンドのような広さだとか、東京ドームのような広さだとか、そういうレベルの広さではなく、本当に無限に空間が広がっているような、そんな場所。
先ほどまで歩いていた場所を振り返れば、白い壁がある。白い壁に穴が開いていて、僕とアオイはそこから来たんだ、ということは理解できるけれど、それ以外については理解しようもない。それ以外には、人以外何も存在していない。
……ここが、魔法学校?
想像していたような場所とはまるで違う。あまりに無機質で、ここでは温度を感じないような、そんな感情を抱いてしまう。
「戸惑っている様子だけれど、何か変なところでもあったのかい?別にそこまで不思議な場所ではないと思うのだけれど」
「……いえ、なんというか、魔法学校と聞いて想像していた場所とはあまりにかけ離れていたものですから」
「何?ホグ〇ーツ魔法学校とかトリステ〇ン魔法学院とか想像してた?」
「言っちゃうんですね……」
……まあ、おおむね想像していたのはファンタジー感のある学校だったのは確かではある。木造りで彩られて絵画が飾られていたりするような、そんな学び舎。
でも、目の前の光景は、どちらかというとSFチックだ。どこまでも広がる無機質な空間。別になにか機械やら科学的なものがあるわけではないけれど……。
僕の様子を見て、先生は言葉を続けた。
「ここはね、『空間』っていうんだ」
「そのまんまですね」
「まあ、それ以上に名前の付けようもないって感じだしね。
ここは君たちが入ってきた場所以外に壁は存在せず、そして果ても存在しない。……まあ、ここに壁がある時点で果てが存在しているようなものだけれども、それはともかくとして、とりあえず無限に広がる空間だ。端的に数学的な空間だととらえてもいい」
「数学的な空間?」
「ほら、三次元空間だよ。XYZの軸で表される数学的な空間。概念的なものだからここには果てなど存在しない。まあ、そのXYZ軸で表される『正』のみの空間ととらえてもらって構わないかな」
「……理解が及びません」
「うーん。まあ、理解させようと思って話してはいないからねぇ。単純に、壁があるのは、そこから先は負荷領域で実体のあるものは存在できないとか、そんな具合で捉えてくれたまえ」
「……生徒に教育放棄をする先生がいるということだけは理解できました」
はっはっは、と先生はわざとらしい笑い声をあげる。
うん。この人に本当に魔法を教えてもらうことができるのか、だんだんと不安になってきたぞ。……けれども葵に聞いても『ずばー』とか『ぶしゅーん』とかそういう擬音しか出さないから、ここにいる先生以上に頼れる人はいないのだけれど。
「ま、この空間の説明は以上にして──」
先生は、後ろを振り返る。振り返った先には、先ほど見えた三人の同年代の人間がいる。
「それじゃ転校生を紹介するよ」
◇
「えっと、在原 環です。存在の「在」に原っぱの「原」、円環の「環」で在原 環って書きます。高校二年生です。よろしくお願いします」
黒板さえ存在しないから、口頭で自分の名前を説明する。
「面白みのない自己紹介だねぇ」
僕が自己紹介をすると、立花先生はそう言った。
とりあえず自己紹介をしてみなよ、と言われたから、そうしたのだけれど、それ以上に紹介することなんて自分には存在しない。面白い話とかできる自信はないし……。
「ほら、こういうときはね?自分の得意な魔法だとか、紋章とか、もしくは普通に趣味を語るとかでもいいんだよ?最近のゲーム事情とか語るのもいいじゃないか。ドラゴ〇クエストとかファイナルファ〇タジーとかペル〇ナとかさぁ」
「いや、あの先生。僕魔法まだ使えないし、紋章とかもよくわかってないんですけど。……というかそのゲーム事情、全部RPGじゃないですか」
「ははは、よくわかったねぇ。あんまりゲームをやらないって聞いていたけれども。
それはそれとして、確かにそうだなぁ。うん、確かに無茶ぶりをした僕が悪いかもしれないね。それなら僕が責任をとらないとなぁ」
先生はそう言って、僕の左側に立つ。なんで移動したのかはわからないけれど、そうすると僕の左手を手に取って、彼らの前に見せつけるようにした。
「彼ねぇ、面白いんだよ。なぜか紋章が左手にあるし、属性についてもよくわからない。なんか君たち知ってたりしない?」
先生は、葵を含めた四人の生徒にそう聞いた。
「うーん、なんでしょうね?」と葵。
「興味ないです」と眼鏡の男子。
「先生が知らないことを知っているわけがないだろ」とチャラ男。
「……」と沈黙を貫く白い髪の女子。
……なんというか、雰囲気がバラバラすぎる。
「まあ、そりゃそうだよね。紋章が左手にある時点でゲームのバグみたいなもんだし、君たちデバッカーとかじゃないしね。うんうん、仕方ない、仕方ない。
というわけで、今日からこの魔法教室に入校することになった在原環くんだ、みんな、よろしくしてくれたまえよ」
そういうと葵がぱちぱちと拍手をする。それにつられて白髪の女の子もぱちぱちと拍手。それを見て場の空気にのまれたチャラ男がしぶしぶと拍手。そしてメガネの男子は、特に何か動作をとることはなく、そして沈黙を決め込んだ。
……僕、これ馴染めるのかな。
道を進んでいるのか、停滞しているのかよくわからなくなる。確かに足は前を進んでいて、後ろにあった外の世界はだんだんと遠くなってきている。けれども、その実感については薄いもので、歩いている道が下り道なのか、それとも上り坂なのか、普通に平たんな道なのかもわからない。ただの学校の壁の空洞に、どれだけ距離を歩めばいいのか、そんな疑問を抱きながら前に進む。
「あ、もうすぐだよ」
葵がそういうので、僕は下を向いていた顔を上げた。
光のようなものが確かに見える。真っ白い光で、ストロボに照らされるような、それでいて一筋だから淡く見えるような、そんな光が。明暗のギャップに瞳は酩酊して、焼き付いた光の残像を未だに追いかけている。
そうして、歩みを進めれば──。
「おー、遅かったじゃないか」
先生の声が聞こえてくる。視界の情報はまとまらないまま、とりあえず魔法学校のような場所にたどり着いたという実感が心に沸いた。
「すいません、転移ができず……」
葵がそう言っている間に、視界の情報をまとめて、そうして魔法学校がどういう場所なのかを視認する。
……なんだこれ。
傍らの景色に映るのは、葵と先生と、そのほかの同年代のような男女の人間三人。……まあ、人間というか、ここにいるから魔法使いなんだろうが。
それはともかくとして、それ以外に広がる光景としては、あまりに異質なものでしかない。
──天井がない。天井がないから、どこまでも暗い世界が上に続いている、宇宙よりも黒い感覚を初めて見る感覚がする。
そして、どこまでも地続きに広がる無限の床、というか空間。グラウンドのような広さだとか、東京ドームのような広さだとか、そういうレベルの広さではなく、本当に無限に空間が広がっているような、そんな場所。
先ほどまで歩いていた場所を振り返れば、白い壁がある。白い壁に穴が開いていて、僕とアオイはそこから来たんだ、ということは理解できるけれど、それ以外については理解しようもない。それ以外には、人以外何も存在していない。
……ここが、魔法学校?
想像していたような場所とはまるで違う。あまりに無機質で、ここでは温度を感じないような、そんな感情を抱いてしまう。
「戸惑っている様子だけれど、何か変なところでもあったのかい?別にそこまで不思議な場所ではないと思うのだけれど」
「……いえ、なんというか、魔法学校と聞いて想像していた場所とはあまりにかけ離れていたものですから」
「何?ホグ〇ーツ魔法学校とかトリステ〇ン魔法学院とか想像してた?」
「言っちゃうんですね……」
……まあ、おおむね想像していたのはファンタジー感のある学校だったのは確かではある。木造りで彩られて絵画が飾られていたりするような、そんな学び舎。
でも、目の前の光景は、どちらかというとSFチックだ。どこまでも広がる無機質な空間。別になにか機械やら科学的なものがあるわけではないけれど……。
僕の様子を見て、先生は言葉を続けた。
「ここはね、『空間』っていうんだ」
「そのまんまですね」
「まあ、それ以上に名前の付けようもないって感じだしね。
ここは君たちが入ってきた場所以外に壁は存在せず、そして果ても存在しない。……まあ、ここに壁がある時点で果てが存在しているようなものだけれども、それはともかくとして、とりあえず無限に広がる空間だ。端的に数学的な空間だととらえてもいい」
「数学的な空間?」
「ほら、三次元空間だよ。XYZの軸で表される数学的な空間。概念的なものだからここには果てなど存在しない。まあ、そのXYZ軸で表される『正』のみの空間ととらえてもらって構わないかな」
「……理解が及びません」
「うーん。まあ、理解させようと思って話してはいないからねぇ。単純に、壁があるのは、そこから先は負荷領域で実体のあるものは存在できないとか、そんな具合で捉えてくれたまえ」
「……生徒に教育放棄をする先生がいるということだけは理解できました」
はっはっは、と先生はわざとらしい笑い声をあげる。
うん。この人に本当に魔法を教えてもらうことができるのか、だんだんと不安になってきたぞ。……けれども葵に聞いても『ずばー』とか『ぶしゅーん』とかそういう擬音しか出さないから、ここにいる先生以上に頼れる人はいないのだけれど。
「ま、この空間の説明は以上にして──」
先生は、後ろを振り返る。振り返った先には、先ほど見えた三人の同年代の人間がいる。
「それじゃ転校生を紹介するよ」
◇
「えっと、在原 環です。存在の「在」に原っぱの「原」、円環の「環」で在原 環って書きます。高校二年生です。よろしくお願いします」
黒板さえ存在しないから、口頭で自分の名前を説明する。
「面白みのない自己紹介だねぇ」
僕が自己紹介をすると、立花先生はそう言った。
とりあえず自己紹介をしてみなよ、と言われたから、そうしたのだけれど、それ以上に紹介することなんて自分には存在しない。面白い話とかできる自信はないし……。
「ほら、こういうときはね?自分の得意な魔法だとか、紋章とか、もしくは普通に趣味を語るとかでもいいんだよ?最近のゲーム事情とか語るのもいいじゃないか。ドラゴ〇クエストとかファイナルファ〇タジーとかペル〇ナとかさぁ」
「いや、あの先生。僕魔法まだ使えないし、紋章とかもよくわかってないんですけど。……というかそのゲーム事情、全部RPGじゃないですか」
「ははは、よくわかったねぇ。あんまりゲームをやらないって聞いていたけれども。
それはそれとして、確かにそうだなぁ。うん、確かに無茶ぶりをした僕が悪いかもしれないね。それなら僕が責任をとらないとなぁ」
先生はそう言って、僕の左側に立つ。なんで移動したのかはわからないけれど、そうすると僕の左手を手に取って、彼らの前に見せつけるようにした。
「彼ねぇ、面白いんだよ。なぜか紋章が左手にあるし、属性についてもよくわからない。なんか君たち知ってたりしない?」
先生は、葵を含めた四人の生徒にそう聞いた。
「うーん、なんでしょうね?」と葵。
「興味ないです」と眼鏡の男子。
「先生が知らないことを知っているわけがないだろ」とチャラ男。
「……」と沈黙を貫く白い髪の女子。
……なんというか、雰囲気がバラバラすぎる。
「まあ、そりゃそうだよね。紋章が左手にある時点でゲームのバグみたいなもんだし、君たちデバッカーとかじゃないしね。うんうん、仕方ない、仕方ない。
というわけで、今日からこの魔法教室に入校することになった在原環くんだ、みんな、よろしくしてくれたまえよ」
そういうと葵がぱちぱちと拍手をする。それにつられて白髪の女の子もぱちぱちと拍手。それを見て場の空気にのまれたチャラ男がしぶしぶと拍手。そしてメガネの男子は、特に何か動作をとることはなく、そして沈黙を決め込んだ。
……僕、これ馴染めるのかな。
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