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第一章 灰色の現実
1-9 チュートリアル:紋章と世界と詠唱
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立花先生にそう言われると、もともと人間であった僕が本当に魔法を発動できるのか不安になってくる。
「ああ、安心しなよ。君のその身体は確実に魔法が発動できるだろうから」
その不安を見抜いたように、先生は僕の左手を取った。
「前も言ったと思うけれど、魔法使いには、魔法使いの証明ともいえる紋章が必ずついてくる。その紋章が君に宿っているのなら、君はもうちゃんと魔法使いなんだよ」
ま、本来は右手にあるものが左手にあるのは少し不思議だけれどね、と立花先生は苦笑する。
「きっと、本来は人間でしかなかった君が魔法使いになったから、その変化のせいで左手に宿ったのかなぁ、というのが僕の推測ではある。
あ、そうだ。それならついでに紋章についても説明しておこうか
紋章っていうのは魔法使いの証明とは言ったものの、それだけで存在するわけじゃない。
昨日、みんなの自己紹介でそれぞれ紋章について話していたけれど、紋章にはその魔法使いそれぞれの特性というか、未来というか……。もっともらしい言い方をすると『研究するべき目標』が刻み込まれている」
「研究するべき目標……、ですか?」
「うん。魔法使いは魔法を使えるから魔法使いっていうわけじゃない。魔法使いにはそれぞれ使命というものがあってね。それが紋章によって示されている。
例えば葵ちゃんなら炎の紋章だから、炎の魔法を使った使命、というか研究目標。明楽くんなら風という研究目標かな」
「……それって、絶対研究しなければいけないやつなんですか?」
「絶対ではないさ。でも、使命と言われているからには、魔法使いはそれをどことなく意識している。紋章に沿って魔法を使って、その先にある”世界”を求めているのさ」
……話が飛躍していて、よくわからない。
「よくわからない、っていう顔をしているね。まあ、これは魔法使いの感覚的な話だからすぐには理解しなくてもいいよ。だけれども、魔法使いの最終目標というものがあるから、その目標に沿って紋章があるとでも思ってくれ」
「……最終目標?」
立花先生は、僕の言葉にうきうきと目を輝かせて、にじり寄ってくる。
「……知りたい?知りたい?知りたいよねぇ!いやあ、そんなに食いつかないと思っていたから、正直語るべきではないかなぁ、と思ったけれど、興味を持ってくれたようだから説明するよ!」
……とりあえず分からないからオウム返しで言葉を紡いだことは黙っておこう。
「魔法使いの最終目標っていうのはね、さっきも言った通り”世界に到達”することだ」
「……世界の支配者的な、あれな感じですか?」
「いや、そうじゃないさ。地球単位でものを考えちゃあいけないよ。少し規模が大きくなる話だから、ある程度覚悟して聞いてくれたまえ」
立花先生は、楽しそうに話を続ける。
「この世界っていう単位は、単純に地球規模の話ではないんだ。そもそも世界というものが何なのかを君に伝えなければいけないね。
世界……、の前にまずは宇宙の話をしなければいけないかな。いや、宇宙というかなんというか……。まあいいや。説明しづらいけれど、茶々は入れずに聞いていてくれ」
そう前置きされたので、とりあえず聞く。
ええと、まず、宇宙は無限に広がり続けるけれど、その中には無限に存在する惑星を内包している。そして、更にそんな無限の宇宙を無限に内包した『内海』というものが存在していて、更にその内海を無限に内包した──」
「──すいません。規模が大きすぎませんかね?!」
「だから規模が大きいって言ったじゃないか……。ま、ともかくとして、それを無限に内包した云々を続けた最後に、あらゆるすべてを内包した『世界』というものがあるんだよ。魔法使いは、その世界を目指しているんだ」
「……めっちゃ外側に行くってことですか?」
「うーん、近からずとも遠からずって感じかな。世界って言うのは、いわばあらゆる存在すべての器であると魔法使いは考えていて、さらにそこには無限の可能性が広がっていると考えている。その無限の可能性を魔法使いは手に入れたい、というのが最終目標なんだよ」
「……すごいっすね」
「……君、いま思考放棄したな?」
だって、よくわからないし、規模とか凄すぎて理解の範疇に収まらないし……。
「でも、魔法使いは魔法使えるから、無限の可能性とかなくても、やりたいようにやれるんじゃないですか?」
「いや?魔法はそんなに便利じゃないさ」
先生は話を続ける。
「僕たちが扱える魔法は、あくまで現実を上書きする程度のこと。しかも、その上書きができる対象となるのは自分ともう一人っていうくらいだ」
「……どういうことですか?」
「うーん、今ので説明で理解できないなら難しいけれど、そうだなぁ。
魔法使いが魔法を使うのは、『自身が魔法を使える』という想像を現実に上書きしているって話したと思うけれど、だからと言って魔法使いが『人間は魔法を使える』という想像をしたところで、その上書きはできないんだよ。
更にめちゃくちゃざっくり言ってしまえば、自分規模でしか世界は変えられないってところかな」
「……はあ」
「まあ、魔法って言ってもそこまで便利じゃないっていうことと、最終目標のために魔法使いは頑張る、ってことだけ覚えておきなよ。きっと今はそれで十分だから」
立花先生は、そこで一旦話を区切る。本来の話から脱線したね、と付け足しながら。
「ま、ともかく紋章はそんな最終目標のために魔法使いに刻まれている証。そして、魔法使いはその紋章に沿って魔法を研究する!これを覚えていてくれ!」
「……それじゃあ、僕の研究するべき魔法ってなんなんですかね」
「……うーん。見たことないから分かんないんだよなぁ。紋章って色と形で分かりやすく示されているけれど、君のは……」
そうして見やる左手の甲。そこには色なんかなくて、形もよくわからないなにかが記されている。
「……えっと、闇魔法的なやつとかじゃ?」
「闇魔法なんてものはないんだよ……」
「さいですか……」
それなら、本当にこの紋章については何なのだろうか。理解することはできない。
「ま、本来ならそこから最初の魔法を選定して、実戦練習と行きたいところだけれど、君の場合はとりあえず簡単な魔法からやっていこうか」
先生は話を続ける。
「先ほど言った通り、魔法を発動するには、概念的な性質を持つ魔法使いの血液と詠唱が必要だと言ったね。だからこそ、魔法使いは自傷行為を行って出血をし、それを代償に捧げながら、詠唱を行い、非現実的事象を現実に上書きしていく。
……あ、詠唱の言葉については説明したっけ?」
「いえ、今のところ必要なものの整理くらいしか聞いていませんね」
「お、それならきちんとそこも説明しないとね」
「魔法の詠唱については、特に深く考えなくてもいい。基本的な言語を喋れば勝手に魔法が発動するからね」
「……あのよくわからない言語を適当にですか?」
「適当なわけないじゃないか。あれはきちんと文法があって、そうして魔法を発動している。まあ、決まり文句と、後の言葉を暗記しておけば発動はできるから」
先生は語り続ける。
「まず、接頭語となる詠唱についてだ。葵ちゃんの魔法を間近に見ていて、なんて言っていたのかは覚えているかい?」
「ええと、……えのすなんたら、ですよね」
「……まあ、うん。正式な発音だと、Enos Diesだ。日本語的な発音だとエノスディエスかな。
これがなければ、その後にどんな魔法言語をしようしても魔法は発動することはできない。だからきちんと覚えようね。リピートアフターミー?」
英語の教師のように促される。
「Enos Dies」
「エノォス ディエェス」
「Enos Dies」
「……エノォス ディエェス」
「……お家で練習してきてね」
残念なものを見るような目をしている。
英語についてはからっきしだからしょうがなくない?しょうがないよね?
「ちなみにこの言葉の意味は『我、希う』だ。つまり希わなければ魔法は発動できないからね。
そうだなぁ、自分自身を神だと思って、自分に言い聞かせるように家で練習すればいいと思うよ」
「……わかりました」
葵みたいに発音できるかわからないし、先生が言うように、希うというのがいまいちしっくりこないけれど、これについては練習するしかないだろう。
「さて、魔法発動を実際にやってみよう、と言いたいところではあるけれど、発音が赤ちゃんだから、今日のところはここまでにしておこうかな」
「……赤ちゃん」
……まあ、リスカをこの後しよう、って言われるよりかはマシかもしれない。
「さて、環くんには宿題だ。
Enos Diesの発音を完璧にしておくこと。わからなければ葵ちゃんにでも聞いてみればいい。
あとは魔法を日常と同じくらいに思い込むこと。これは日ごろから考えておきなさい。そうすれば、割と心に刻まれていくものだからさ」
そう呟きながら、先生はだんだんと僕から距離を置いていく。
「それじゃあ、また明日」
そして立花先生は、魔法の詠唱、リスカを行い、目の前から消えていく。
誰もいない空間。一人残されたことを実感して、僕は呟く。
「エノォス ディエェス」
……頑張って練習しなきゃな。
「ああ、安心しなよ。君のその身体は確実に魔法が発動できるだろうから」
その不安を見抜いたように、先生は僕の左手を取った。
「前も言ったと思うけれど、魔法使いには、魔法使いの証明ともいえる紋章が必ずついてくる。その紋章が君に宿っているのなら、君はもうちゃんと魔法使いなんだよ」
ま、本来は右手にあるものが左手にあるのは少し不思議だけれどね、と立花先生は苦笑する。
「きっと、本来は人間でしかなかった君が魔法使いになったから、その変化のせいで左手に宿ったのかなぁ、というのが僕の推測ではある。
あ、そうだ。それならついでに紋章についても説明しておこうか
紋章っていうのは魔法使いの証明とは言ったものの、それだけで存在するわけじゃない。
昨日、みんなの自己紹介でそれぞれ紋章について話していたけれど、紋章にはその魔法使いそれぞれの特性というか、未来というか……。もっともらしい言い方をすると『研究するべき目標』が刻み込まれている」
「研究するべき目標……、ですか?」
「うん。魔法使いは魔法を使えるから魔法使いっていうわけじゃない。魔法使いにはそれぞれ使命というものがあってね。それが紋章によって示されている。
例えば葵ちゃんなら炎の紋章だから、炎の魔法を使った使命、というか研究目標。明楽くんなら風という研究目標かな」
「……それって、絶対研究しなければいけないやつなんですか?」
「絶対ではないさ。でも、使命と言われているからには、魔法使いはそれをどことなく意識している。紋章に沿って魔法を使って、その先にある”世界”を求めているのさ」
……話が飛躍していて、よくわからない。
「よくわからない、っていう顔をしているね。まあ、これは魔法使いの感覚的な話だからすぐには理解しなくてもいいよ。だけれども、魔法使いの最終目標というものがあるから、その目標に沿って紋章があるとでも思ってくれ」
「……最終目標?」
立花先生は、僕の言葉にうきうきと目を輝かせて、にじり寄ってくる。
「……知りたい?知りたい?知りたいよねぇ!いやあ、そんなに食いつかないと思っていたから、正直語るべきではないかなぁ、と思ったけれど、興味を持ってくれたようだから説明するよ!」
……とりあえず分からないからオウム返しで言葉を紡いだことは黙っておこう。
「魔法使いの最終目標っていうのはね、さっきも言った通り”世界に到達”することだ」
「……世界の支配者的な、あれな感じですか?」
「いや、そうじゃないさ。地球単位でものを考えちゃあいけないよ。少し規模が大きくなる話だから、ある程度覚悟して聞いてくれたまえ」
立花先生は、楽しそうに話を続ける。
「この世界っていう単位は、単純に地球規模の話ではないんだ。そもそも世界というものが何なのかを君に伝えなければいけないね。
世界……、の前にまずは宇宙の話をしなければいけないかな。いや、宇宙というかなんというか……。まあいいや。説明しづらいけれど、茶々は入れずに聞いていてくれ」
そう前置きされたので、とりあえず聞く。
ええと、まず、宇宙は無限に広がり続けるけれど、その中には無限に存在する惑星を内包している。そして、更にそんな無限の宇宙を無限に内包した『内海』というものが存在していて、更にその内海を無限に内包した──」
「──すいません。規模が大きすぎませんかね?!」
「だから規模が大きいって言ったじゃないか……。ま、ともかくとして、それを無限に内包した云々を続けた最後に、あらゆるすべてを内包した『世界』というものがあるんだよ。魔法使いは、その世界を目指しているんだ」
「……めっちゃ外側に行くってことですか?」
「うーん、近からずとも遠からずって感じかな。世界って言うのは、いわばあらゆる存在すべての器であると魔法使いは考えていて、さらにそこには無限の可能性が広がっていると考えている。その無限の可能性を魔法使いは手に入れたい、というのが最終目標なんだよ」
「……すごいっすね」
「……君、いま思考放棄したな?」
だって、よくわからないし、規模とか凄すぎて理解の範疇に収まらないし……。
「でも、魔法使いは魔法使えるから、無限の可能性とかなくても、やりたいようにやれるんじゃないですか?」
「いや?魔法はそんなに便利じゃないさ」
先生は話を続ける。
「僕たちが扱える魔法は、あくまで現実を上書きする程度のこと。しかも、その上書きができる対象となるのは自分ともう一人っていうくらいだ」
「……どういうことですか?」
「うーん、今ので説明で理解できないなら難しいけれど、そうだなぁ。
魔法使いが魔法を使うのは、『自身が魔法を使える』という想像を現実に上書きしているって話したと思うけれど、だからと言って魔法使いが『人間は魔法を使える』という想像をしたところで、その上書きはできないんだよ。
更にめちゃくちゃざっくり言ってしまえば、自分規模でしか世界は変えられないってところかな」
「……はあ」
「まあ、魔法って言ってもそこまで便利じゃないっていうことと、最終目標のために魔法使いは頑張る、ってことだけ覚えておきなよ。きっと今はそれで十分だから」
立花先生は、そこで一旦話を区切る。本来の話から脱線したね、と付け足しながら。
「ま、ともかく紋章はそんな最終目標のために魔法使いに刻まれている証。そして、魔法使いはその紋章に沿って魔法を研究する!これを覚えていてくれ!」
「……それじゃあ、僕の研究するべき魔法ってなんなんですかね」
「……うーん。見たことないから分かんないんだよなぁ。紋章って色と形で分かりやすく示されているけれど、君のは……」
そうして見やる左手の甲。そこには色なんかなくて、形もよくわからないなにかが記されている。
「……えっと、闇魔法的なやつとかじゃ?」
「闇魔法なんてものはないんだよ……」
「さいですか……」
それなら、本当にこの紋章については何なのだろうか。理解することはできない。
「ま、本来ならそこから最初の魔法を選定して、実戦練習と行きたいところだけれど、君の場合はとりあえず簡単な魔法からやっていこうか」
先生は話を続ける。
「先ほど言った通り、魔法を発動するには、概念的な性質を持つ魔法使いの血液と詠唱が必要だと言ったね。だからこそ、魔法使いは自傷行為を行って出血をし、それを代償に捧げながら、詠唱を行い、非現実的事象を現実に上書きしていく。
……あ、詠唱の言葉については説明したっけ?」
「いえ、今のところ必要なものの整理くらいしか聞いていませんね」
「お、それならきちんとそこも説明しないとね」
「魔法の詠唱については、特に深く考えなくてもいい。基本的な言語を喋れば勝手に魔法が発動するからね」
「……あのよくわからない言語を適当にですか?」
「適当なわけないじゃないか。あれはきちんと文法があって、そうして魔法を発動している。まあ、決まり文句と、後の言葉を暗記しておけば発動はできるから」
先生は語り続ける。
「まず、接頭語となる詠唱についてだ。葵ちゃんの魔法を間近に見ていて、なんて言っていたのかは覚えているかい?」
「ええと、……えのすなんたら、ですよね」
「……まあ、うん。正式な発音だと、Enos Diesだ。日本語的な発音だとエノスディエスかな。
これがなければ、その後にどんな魔法言語をしようしても魔法は発動することはできない。だからきちんと覚えようね。リピートアフターミー?」
英語の教師のように促される。
「Enos Dies」
「エノォス ディエェス」
「Enos Dies」
「……エノォス ディエェス」
「……お家で練習してきてね」
残念なものを見るような目をしている。
英語についてはからっきしだからしょうがなくない?しょうがないよね?
「ちなみにこの言葉の意味は『我、希う』だ。つまり希わなければ魔法は発動できないからね。
そうだなぁ、自分自身を神だと思って、自分に言い聞かせるように家で練習すればいいと思うよ」
「……わかりました」
葵みたいに発音できるかわからないし、先生が言うように、希うというのがいまいちしっくりこないけれど、これについては練習するしかないだろう。
「さて、魔法発動を実際にやってみよう、と言いたいところではあるけれど、発音が赤ちゃんだから、今日のところはここまでにしておこうかな」
「……赤ちゃん」
……まあ、リスカをこの後しよう、って言われるよりかはマシかもしれない。
「さて、環くんには宿題だ。
Enos Diesの発音を完璧にしておくこと。わからなければ葵ちゃんにでも聞いてみればいい。
あとは魔法を日常と同じくらいに思い込むこと。これは日ごろから考えておきなさい。そうすれば、割と心に刻まれていくものだからさ」
そう呟きながら、先生はだんだんと僕から距離を置いていく。
「それじゃあ、また明日」
そして立花先生は、魔法の詠唱、リスカを行い、目の前から消えていく。
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