魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第一章 灰色の現実

1-15 模擬戦闘をやってみます

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 「どうしたもんかなぁって、僕は考えたんだよ」

 「あ、はい」

 前日と同じように他の生徒よりも早くに空間に行くと、先生にそんな言葉をかけられる。

 「君の魔法についてもそうだし、なんというか、君と天原くんの不仲っぽい雰囲気も、なんだかなぁって思うし」

 「……はい」

 ……不仲、という程のものでもないし、一方的に敵意を抱かれているだけだと思うけれど。

 「……今、僕は違うし、とか思わなかった?」

 「……そんなことはないですよ」

 「……そんなことを思う時点で、多少なりとも彼を意識してはいるんだよ、君は」

 痛いところをつくなぁ、と思う。それ以上反論することはできなかった。

 「だからさ、僕は考えたんだ。それらの問題を改善する方法っていうのをさ」

 「はあ」

 ……なんとなく、嫌な予感を覚える自分がいる。きっと、気のせいではない。

 この先生は真面目なところでは真面目にふるまう印象はあるけれど、とんでもないところでは地雷をばらまくような教師だということは意識しなくても理解できている頃合いだ。

 だから、どんな爆弾が投げ込まれるのか、そう考えて、彼の発言を待つと──。

 「というわけで、模擬戦闘をやってみます」

 ──やっぱりろくでもない言葉を投げてきたぞこの人。

 



 模擬戦闘、という聞きなれない言葉の意味をとらえてみる。戦闘、という言葉がどこまでも心に引っかかる。

 戦闘ということは、それは当たり前だけれど、戦うということだ。

 それが模擬、ということは……。

 「そう、君と天原くんで軽くバトってもらおうと思ってね」

 「……どうやってですか?」

 ……ここまでくれば大体の想像はつく。

 戦闘というからには、普通に想像できるのは魔法の戦い。それぞれが魔法を使って、そうして争う絵面。

 だからこそ、理解はできない。

 だって、僕はまだ魔法が使えていないのだから。

 「まあ、君がまだ魔法を使えていないのは理解しているさ。でも、それで魔法が使えないのは、”期限が設けられていない”緊張感だと僕は思うんだよね」

 「……緊張感」

 「そう、緊張感。夏休みの宿題みたいなものさ。期限が近づかないと、なかなか行動できない小学生みたいな、そんな心理だと僕は勝手に思ってる」

 ……そうだろうか。

 「というわけで君には一週間後に天原くんとバトってもらうよ。そろそろ魔法を使う場面をそれぞれ目撃しないと飽和するからね」

 「一週間?!」

 一週間は七日間、その間にも学校生活は送らなければいけないし、その上でまだ発動をすることさえできていない魔法を練習する時間なんて、あまりにも限られすぎている。

 「そう、その焦りこそが、君の本当の力を解き放つと思うんだ」

 そんなことを言われても、あまりにも期限が短すぎる。そもそも、戦闘というからには、確実に痛い目にあう可能性は確実なのに。

 「不満そうな顔をしているけれど、僕はこれを変えるつもりはない。ある程度、強要されるくらいじゃないと、君の魔法の発動は更に遠ざかってしまうと思うからね。これも一応僕なりの優しささ!」

 「……そこは”一応”をつけずに言ったら格好良かったと思いますよ」

 「はは、僕はなるべく正直に生きたいんだよ」

 というわけで、一週間後に模擬戦闘を行うことになってしまった。





 人の目があると集中できないかもしれない、ということで、そこから一週間は『空間』に来なくともいい、と言われる。でも、僕はまだ水の魔法しか理解できていないし、それで発動することができたとしてどうすればいいのか分からないと先生に言えば、発動した時にまた聞きに来なさい、とそうお達しをいただいた。

 魔法教室からの帰り道、その道中で誰かと会うことはない。よくよく考えれば、それが当たり前なのだ。他の魔法使いには魔法がきちんと使えるのだから。

 ──心に渦巻く、劣等感の塊。幼い頃から僕を支配して縛り続ける、醜く気持ちが悪いどうしようもない感情。いつになっても解消されない感情の一部。自分の存在意義とは何なのか、それを切り詰める劣等感。自分という存在がどれだけ他者に劣っているのかを認識させ続ける、どうしようもない自己否定。

 脳裏に消えない、前日での彼の言葉と、あの場面。どこか思い上がっていた。自分が魔法使いという存在だから、どこか特別な目で見られるべきだと、そんな思い上がり。目を逸らしてきた、気持ちの悪すぎる空白を生む感情。

 どこまでいっても、僕という存在は僕以上に変質することはなく、そうして僕の感情は救われない。救われることなんてない。

 ──魔法なんて、なければよかったのに。

 そんなことを思いながら帰る道。吐き気を覚えるほどの劣等感は、家に帰っても結局拭うことはできなかった。 

 



 切る。血が出る。痛い。痛さが響く。切る場所を間違えたのかもしれない。でも、血が出るから別にいい。切り続ける。そして、僕は言葉を紡ぐ。

 Enos Dies, Merctor.

 繰り返し唱え続ける、呪いの言葉。おまじないごと。自分の存在を上書きしたい、そんな願望から、いつしか腕を切ることに対しての抵抗感は一切なくなって、ただただ、僕の部屋の床が鮮血に彩られていく。

 ──切るところを間違えて、勢いよく血が出る。床に垂れるだけじゃなく、壁にも飾られる僕の血液。そんな勢いであっても、傷口はすぐに塞いで、そうして血は流れなくなる。自分が人間とは違うということを認識させる回復力。

 でも、それだけでしかない。

 魔法を発動させることはできず、そうして異常に回復し続ける僕の身体は、人間にも、魔法使いにも該当しない不気味な感覚を覚えさせる。

 ──ただ単に、魔法使いになれない魔法使いのなりそこない。魔法が使えない魔法使い。それであれば、人間のままで死ねた方が、きっと幸せだったのかもしれない。

 それからも、何度も。何度も。何度も何度も何度も。

  何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も 何度も何度も何度も、自傷行為を続けた。

 いつしか、自傷行為という過程を求めているのか、自傷行為という結果を求めているのか、そんな曖昧さに浸りながら、意識は保つことをやめて。

 そうして、暗闇に意識は還元された。
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