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第三章 灰色の対極
3-21
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その後、券売機の列に並んで、そのやばそうなホラータイトルの券を買った。券売機についてはいろいろ難しそうな印象があったけれど、人数や座席などを選ぶだけ。学生証を持ってきていなかったから一般の大人と同じ料金で券を買った。二人分。
私も出すよ、と彼女が言ったけれど、それを制止する。こういうときにお金が出せなくては、男が廃る、というものだ。……まあ、正直よくわからない感覚ではあるけれど。
その後は、上映時間というものに行動を左右される。買ったらすぐに見れるというわけでもないらしい。あまりにも知らないから、そのまま向かおうとしたら葵が苦笑しながらそれを止めた。
「なんか昼ごはん食べよ?」
そういえば、緊張で忘れていたけれど、昼飯時だ。胃がキリキリしていて食べ物を受け入れられる気がしない。
映画館の近くにはそこそこに飲食店が並んでいる。駅前ということもあるが、その盛んに運営されている雰囲気はどこか都会的だとも感じる。
「葵は何を食べたい?」
こういうときは、僕が何かおすすめの場所とかを用意して、そうしてエスコート?みたいなやつをやるべきなのだろうが、自分で行動したらどこかへまを更に積み重ねそうだから、諦めて彼女に聞く。
彼女は頭を傾けて髪を揺らす。考えるようなしぐさを取る。
「うーん、ファミレスでいいんじゃないかな」
◇
そうして来たのは、緑色の看板が下げられているよく見るファミリーレストラン。母と何度か行ったこともあるし、葵とも何度か食べに行ったことがある。
そう言えば、トラックに轢かれたあの日の昼食もここだったような気がする。もうすごい昔のようにも感じるのが不思議だ。
ここに来たのはいいものの、デートの行先で普通のファミレスに来ていいのだろうか。
今日に関してはこんな葛藤ばかりだ。デートというものを意識しすぎているために、その行動すべてを誤っているような気がする。いつもの彼女との距離感を図ることができない。
「環は何頼むの?」
「……そうだなぁ」
映画の料金が結構かかったので、財布と相談しなければいけない。バイトというものをしとけばよかったのだと後悔をするけれど、母がそれを許してはくれないし、なんなら魔法使いになってからはそんな時間を見出すことはできなかったから、どうしようもない後悔なんだけれど。
──ああ、僕は魔法使いではなく、悪魔祓いでしかなかった。
現実を認識する。葵に渡されたメニュー表、注文票とボールペンを目に映しながら、いろいろな思考が飛び交う。
──こんなことを考えるべきではないのに、そうして思考は、──劣等感が──。
『いいじゃないか。別にそれで』
──甘い声が、言葉が聞こえてくる。それを受け容れてしまえば楽になるだろうに、そう劣等感が、対極が声をかけてくる。
五月蠅い。五月蠅いから、聞こえないふりを続ける。それでも、言葉は心に反響し続けるのだけれど。
◇
あらゆることに視線を逸らして、葵と昼食をとった。ドリンクバーを頼んで、そうして彼女が取りに行く、と悪戯めいた顔をして持ってきたのは、いろいろと掛け合わせたミックスのジュース。混沌とした色が広がっていて面白かった。それを飲んで噴き出す僕の姿、それを彼が笑う姿、心地がよかった。
楽しいことに身を浸しておかなければいけない。楽しいことに視線を移して、そのほかの事には視線を向けてはいけない。彼女の声にだけ耳を貸していれば、そうして世界は安寧を保ってくれる。だから、無視を続けろ。無視を続けろ。
『──────』
対極は、ずっと僕に語りかけている。意識をするな、無視を続けろ。無視を続けろ。この瞬間だけは、自意識を殺めて、殺めて、殺め続けよう。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて
「それじゃあ、そろそろ映画の時間だから行こうか」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「うん」
彼女の声に意識を逸らせ。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「おいしかったね」
彼女の声音に安心感を留めろ。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「あのジュースはびっくりだけどね」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
抱く感情、意識、感覚、すべてのものを殺め続けろ。
『────殺めて』
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて──。
◇
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて──。
「いやあ、めっちゃくちゃ血がすごかったね!!」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「心臓に悪かったよ、本気で」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「環が叫んでるの新鮮でかわいかったよ?」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「かわいい、って言われると戸惑います」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
──僕は、いつまで自分を殺し続ければいいのだろう。
◇
いつの間にか、時刻は夕暮れ時になっていた。なんならそこにもう太陽はない。ちらつくオレンジ色の雲だけがそこにある。もう夜が来てしまう。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
心がどこまでも自身への殺意を肯定する。ケリをつけなければいけないから、いい加減にそれを止めなければいけないのに、すべての感情が自分を殺め続ける。それを劣等感でさえも、対極でさえも肯定している。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて──。
「──ここ、だったよね」
「──え?」
殺めて。殺めてる意識を殺めて、そうして意識を取り戻す。
葵から、声をかけられて、正常な意識を、思考をする。
目の前に広がる景色。見覚えのある交差点。信号、当時の状況をそのままに再現したように、僕と彼女しかいない静かな空間。僕たちの存在を許容してくれる、そんな静かな世界。
「……そう、だね」
ここから、すべてが始まったのだ。
ここから、非現実的なすべてが。
彼女がここで僕を生かしてくれなければ、辿り着くことのできなかった今がある。
今を紡ぐために、彼女が流した血がある、感情がある。そして、僕の感情もそのために積み重ねたのだと、そう実感する。
──言葉を吐くなら、今だ。
自分を殺めている場合じゃない。対極でさえ働かな今の自意識で、今の在原 環で、彼女に言葉を伝えなければいけない。
今日言えなかったら、もう一生、今の在原 環の言葉は届くことがない。だから、今しかないのだ。
「──あのさ」
深呼吸。すべてが固着した空気。天使の時間と見まがうほどに、重苦しく肺に蔓延る酸素ども。抵抗感のある気まずさ。彼女が息を飲み込むのが伝わるほどに繊細になった聴覚。どこか自分の鼓動さえ聞こえてきそうな
「ここで、葵が助けてくれなかったら、僕はここまで来ることはできなかったんだ」
「……うん、知ってる。その話は前にもしたじゃん」
困ったように彼女は笑う。以前は見慣れなかった困り顔。最近ではよく見てしまう困り顔。見たくはないはずの顔なのに。それを拭うために僕は努力をしたつもりだったけれど、そのどれもが否定された。
僕は、魔法使いじゃないから。
彼女はそんな自分でも肯定してくれると言葉を吐いてくれた。寄り添ってくれた。駄目なことでもいいのだと、依存する先として自らを差し出した。その優しさに甘えていたくなる。
でも、幼馴染というだけの関係性でそれは許されるわけがない。
僕は、彼女が好きだ。『本当にそうなのだろうか』
僕は、彼女と恋人になりたいのだ。『関係性を変えることで、依存を肯定したいだけなのではないか』
僕は、彼女に踏み出したいのだ。『いいや、お前は踏み出すことで逃げる選択肢を見ているだけだ』
言葉を吐くべきだ。『言葉を吐くべきではない』
思いを伝えるべきだ。『伝えるべきではない』
彼女に、きちんと向き合わなければいけないのだ。『向き合ってはいけないのだ』
対極が倫理観をなぞる。それがどれだけ後ろめたいことなのかを理解させるために、意識の裏で罪をなぞり続ける。どこか吐き出しそうな感覚がある。でも、どうでもいい。
「葵──」
「──……うん」
「──好きなん」
好きなんだ、と適切な言葉を吐こうとした。
彼女に対して真っすぐに向き合うために。
でも、言葉は紡がれなかった。
紡ぐことはできなかった。
声はかき消された。
言葉はなかった。
声はなかった。
仕方がない。
彼女の声。
それが。
彼女の声。
それだけが。
交差点前にて。
響いて還るから。
「──ダメ、だよ」
言葉を彼女は呟いた。
「──今の環じゃダメ」
──自分を殺める言葉を。
───僕は再び繰り返した。
私も出すよ、と彼女が言ったけれど、それを制止する。こういうときにお金が出せなくては、男が廃る、というものだ。……まあ、正直よくわからない感覚ではあるけれど。
その後は、上映時間というものに行動を左右される。買ったらすぐに見れるというわけでもないらしい。あまりにも知らないから、そのまま向かおうとしたら葵が苦笑しながらそれを止めた。
「なんか昼ごはん食べよ?」
そういえば、緊張で忘れていたけれど、昼飯時だ。胃がキリキリしていて食べ物を受け入れられる気がしない。
映画館の近くにはそこそこに飲食店が並んでいる。駅前ということもあるが、その盛んに運営されている雰囲気はどこか都会的だとも感じる。
「葵は何を食べたい?」
こういうときは、僕が何かおすすめの場所とかを用意して、そうしてエスコート?みたいなやつをやるべきなのだろうが、自分で行動したらどこかへまを更に積み重ねそうだから、諦めて彼女に聞く。
彼女は頭を傾けて髪を揺らす。考えるようなしぐさを取る。
「うーん、ファミレスでいいんじゃないかな」
◇
そうして来たのは、緑色の看板が下げられているよく見るファミリーレストラン。母と何度か行ったこともあるし、葵とも何度か食べに行ったことがある。
そう言えば、トラックに轢かれたあの日の昼食もここだったような気がする。もうすごい昔のようにも感じるのが不思議だ。
ここに来たのはいいものの、デートの行先で普通のファミレスに来ていいのだろうか。
今日に関してはこんな葛藤ばかりだ。デートというものを意識しすぎているために、その行動すべてを誤っているような気がする。いつもの彼女との距離感を図ることができない。
「環は何頼むの?」
「……そうだなぁ」
映画の料金が結構かかったので、財布と相談しなければいけない。バイトというものをしとけばよかったのだと後悔をするけれど、母がそれを許してはくれないし、なんなら魔法使いになってからはそんな時間を見出すことはできなかったから、どうしようもない後悔なんだけれど。
──ああ、僕は魔法使いではなく、悪魔祓いでしかなかった。
現実を認識する。葵に渡されたメニュー表、注文票とボールペンを目に映しながら、いろいろな思考が飛び交う。
──こんなことを考えるべきではないのに、そうして思考は、──劣等感が──。
『いいじゃないか。別にそれで』
──甘い声が、言葉が聞こえてくる。それを受け容れてしまえば楽になるだろうに、そう劣等感が、対極が声をかけてくる。
五月蠅い。五月蠅いから、聞こえないふりを続ける。それでも、言葉は心に反響し続けるのだけれど。
◇
あらゆることに視線を逸らして、葵と昼食をとった。ドリンクバーを頼んで、そうして彼女が取りに行く、と悪戯めいた顔をして持ってきたのは、いろいろと掛け合わせたミックスのジュース。混沌とした色が広がっていて面白かった。それを飲んで噴き出す僕の姿、それを彼が笑う姿、心地がよかった。
楽しいことに身を浸しておかなければいけない。楽しいことに視線を移して、そのほかの事には視線を向けてはいけない。彼女の声にだけ耳を貸していれば、そうして世界は安寧を保ってくれる。だから、無視を続けろ。無視を続けろ。
『──────』
対極は、ずっと僕に語りかけている。意識をするな、無視を続けろ。無視を続けろ。この瞬間だけは、自意識を殺めて、殺めて、殺め続けよう。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて
「それじゃあ、そろそろ映画の時間だから行こうか」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「うん」
彼女の声に意識を逸らせ。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「おいしかったね」
彼女の声音に安心感を留めろ。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「あのジュースはびっくりだけどね」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
抱く感情、意識、感覚、すべてのものを殺め続けろ。
『────殺めて』
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて──。
◇
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて──。
「いやあ、めっちゃくちゃ血がすごかったね!!」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「心臓に悪かったよ、本気で」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「環が叫んでるの新鮮でかわいかったよ?」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
「かわいい、って言われると戸惑います」
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
──僕は、いつまで自分を殺し続ければいいのだろう。
◇
いつの間にか、時刻は夕暮れ時になっていた。なんならそこにもう太陽はない。ちらつくオレンジ色の雲だけがそこにある。もう夜が来てしまう。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて。
心がどこまでも自身への殺意を肯定する。ケリをつけなければいけないから、いい加減にそれを止めなければいけないのに、すべての感情が自分を殺め続ける。それを劣等感でさえも、対極でさえも肯定している。
殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて殺めて──。
「──ここ、だったよね」
「──え?」
殺めて。殺めてる意識を殺めて、そうして意識を取り戻す。
葵から、声をかけられて、正常な意識を、思考をする。
目の前に広がる景色。見覚えのある交差点。信号、当時の状況をそのままに再現したように、僕と彼女しかいない静かな空間。僕たちの存在を許容してくれる、そんな静かな世界。
「……そう、だね」
ここから、すべてが始まったのだ。
ここから、非現実的なすべてが。
彼女がここで僕を生かしてくれなければ、辿り着くことのできなかった今がある。
今を紡ぐために、彼女が流した血がある、感情がある。そして、僕の感情もそのために積み重ねたのだと、そう実感する。
──言葉を吐くなら、今だ。
自分を殺めている場合じゃない。対極でさえ働かな今の自意識で、今の在原 環で、彼女に言葉を伝えなければいけない。
今日言えなかったら、もう一生、今の在原 環の言葉は届くことがない。だから、今しかないのだ。
「──あのさ」
深呼吸。すべてが固着した空気。天使の時間と見まがうほどに、重苦しく肺に蔓延る酸素ども。抵抗感のある気まずさ。彼女が息を飲み込むのが伝わるほどに繊細になった聴覚。どこか自分の鼓動さえ聞こえてきそうな
「ここで、葵が助けてくれなかったら、僕はここまで来ることはできなかったんだ」
「……うん、知ってる。その話は前にもしたじゃん」
困ったように彼女は笑う。以前は見慣れなかった困り顔。最近ではよく見てしまう困り顔。見たくはないはずの顔なのに。それを拭うために僕は努力をしたつもりだったけれど、そのどれもが否定された。
僕は、魔法使いじゃないから。
彼女はそんな自分でも肯定してくれると言葉を吐いてくれた。寄り添ってくれた。駄目なことでもいいのだと、依存する先として自らを差し出した。その優しさに甘えていたくなる。
でも、幼馴染というだけの関係性でそれは許されるわけがない。
僕は、彼女が好きだ。『本当にそうなのだろうか』
僕は、彼女と恋人になりたいのだ。『関係性を変えることで、依存を肯定したいだけなのではないか』
僕は、彼女に踏み出したいのだ。『いいや、お前は踏み出すことで逃げる選択肢を見ているだけだ』
言葉を吐くべきだ。『言葉を吐くべきではない』
思いを伝えるべきだ。『伝えるべきではない』
彼女に、きちんと向き合わなければいけないのだ。『向き合ってはいけないのだ』
対極が倫理観をなぞる。それがどれだけ後ろめたいことなのかを理解させるために、意識の裏で罪をなぞり続ける。どこか吐き出しそうな感覚がある。でも、どうでもいい。
「葵──」
「──……うん」
「──好きなん」
好きなんだ、と適切な言葉を吐こうとした。
彼女に対して真っすぐに向き合うために。
でも、言葉は紡がれなかった。
紡ぐことはできなかった。
声はかき消された。
言葉はなかった。
声はなかった。
仕方がない。
彼女の声。
それが。
彼女の声。
それだけが。
交差点前にて。
響いて還るから。
「──ダメ、だよ」
言葉を彼女は呟いた。
「──今の環じゃダメ」
──自分を殺める言葉を。
───僕は再び繰り返した。
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