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第四章 異質殺し
4-37 環がいるからな
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◇
俺が一人で倫理観に苛まれていたしばらくの時間を過ぎた後、コンコンとノックの音が聞こえてきた。感覚を取り戻した身体で痛みを覚えながら音の方へと視線を向ければ、ガチャリと扉が開く音が耳に届く。
「そろそろ元気になったか?」
「……これを元気というのかはわからないけどね」
俺は苦笑をしながら返すと「そうやって返事ができるのなら元気ってことだな」と朱音も同様に苦笑をする。俺も彼女の言葉には、確かにそうだな、と思った。
◇
「まだ目覚めたばかりのお前に事件のことをいきなり話す、というのはあまりしたくないのだけども」と朱音は口頭に置いて、それから言葉をつづけた。
「──また、行方不明者が増えてきた。一昨日は二十三人、昨日は二十七、今日にいたっては大台の三十四人という具合にな」
「……待って」と俺は言った。
「俺、何日間くらい寝てたのさ」
俺の言葉に彼女は首を傾げながら、うーんと喉を唸らせると「だいたい三日くらい」と曖昧な返事をした。
「正直、天音の血を輸血すればなんとかなるだろうな、って思ったんだけども、それでも目が覚めるまでには時間がかかっちまったようでさ」
「……もしかして、天音から俺に輸血させたのって朱音だったりします?」
「おう!」
何の躊躇いもなく、そしてまずいことをやってしまった、という自覚もなさそうな声で気丈に彼女はそう言った。
……いや、まあ、いいんだけどさ。輸血関係っていうのは魔法使いの中だけでの話でしかないし、人間や悪魔祓いには関係ない話だし。自分自身でそれは理解してはいるつもりだけれど、それでもどこか禁忌を犯したような感覚がするのはなぜなのだろう。もしかしたら思想が魔法使いに寄っているからなのかもしれない。
「まあ、そんな話はともかくとしてだな」と朱音は言葉を続ける。ともかくとする彼女に一声文句をつけたい気持ちはあったものの、この価値観を朱音に話したところで何も解決はしないので、俺は言葉を飲み込んだまま、彼女の言葉に耳を傾けた。
「お前が今日目覚めたということで、明日の夜にこの事件へ終止符を打とうと考えている」
「……」
どうしてそんなに急ぐのか、と問いたい気持ちはあるけれど、そんなことを聞かなくても理由はわかる。彼女が言うには毎日行方不明者が増えてきているのだ。それをここで止めなければ、更に多数の被害者が生まれてしまう。
魔法使いが何をやっているのかはわからない。だが、この事件に魔法使いがかかわっていることは、この前の一件で理解することができた。だから、これ以上悪さをさせるわけにはいかない。
「とりあえず、お前たちが言った雑貨屋に空間の座標が残っていることから、そこを侵入経路とする。今は店長が行方不明となったことで立ち入り禁止にはなっているけれども、悪魔祓いは顔パスだから特に問題はないだろう。
私たちが座標で空間に転移した後、環、お前にはアリクトエアル内で更に座標を探してもらう」
「……ええと、……どういうこと?」
いまいち把握しきれない言葉に、俺はそう言葉を返した。
「この前天音と行ったアリクトエアルが敵の本拠地なんじゃないの?」
「そうだったのならよかったんだけどな。でも、あそこにはお前たち以外誰もいなかったんだろ?」
俺は渋々彼女の言葉に頷きながら当時の景色を思い出す。思い出して、ようやく理解する。
「……そうか。魔法使いは更に転移させたのか」
そうじゃなければ、あそこに行方不明になった犠牲者が多数いるはずだ。だが、あのアリクトエアルには僕と天音、そして魔法使い(声だけで実際いたのかどうかはわからないけれど)しかいなかった。いきなり消えた店員の姿も見かけなかったのだから、更に転移をしたと考えた方が辻褄は合う。
そして、俺が座標を更に見つける、とか云々の話は、対極の心臓を加速させたときに見える景色で見つけることができるのだろう。そうじゃなければ、そもそも俺たちは店の中にいるときにアリクトエアルの痕跡も見つけることができなかったのだから、大丈夫なはずだ。
「おそらく犯人の悪魔は、アトランダムにアリクトエアルを地面に展開し、そうして閉じて被害者を増やしている。その後、アリクトエアル内で足がつかないように転移をしているんだろうが、明日でそれも終わりだ。なにせ、私たちには環がいるからな」
「……」
そこまで活躍できるかはわからないけれど、俺は曖昧にうなずいておいた。期待に応えられるかはわからないけれど、確かにこの心臓にはそういった能力が備わっていそうだし、活躍できるところではきちんと活躍できるかもしれない。
問題があるとすれば、まだ重くのしかかる気だるさくらいだろうか。なんとか声も出せるし、身体も少しずつ動かせるようにはなってきているけれど、当日になって動けない、とかになってしまわないか。そんな不安だけが付きまとう。
「作戦内容については以上だ。敵の本拠地についたら、私が一目散に悪魔を殺してやる。きっと環は動けないだろうし、天音は魔法を詠唱する時間だけ遅くなっちまうからな」
まあ何とかなるだろ! と彼女はあからさまに笑った。天音は彼女の言葉に、ぱちぱちぱち、と控えめに拍手をする。
俺はその言葉を聞いて、少しだけ安心感を覚える。朱音が相手を殺してくれる、というのならば、俺は殺さなくていい、ということに安堵を覚えている。
それが悪魔祓いの上を、教会の頂点を目指すものとして正しいのかはわからない。けれど、俺はそれだけでもゆっくりと眠れるような気がした。
「それはそれとして早く回復しろよな。私と天音、ここ最近安宿で寝てるんだから」
「……今気づいたけど、ここって朱音の部屋なのね。……というか俺たちの部屋とかないの?」
「挨拶回りもしてねぇのにあるわけねぇだろうがっ!」
「なんでちょっとキレてるんすか……」
俺が一人で倫理観に苛まれていたしばらくの時間を過ぎた後、コンコンとノックの音が聞こえてきた。感覚を取り戻した身体で痛みを覚えながら音の方へと視線を向ければ、ガチャリと扉が開く音が耳に届く。
「そろそろ元気になったか?」
「……これを元気というのかはわからないけどね」
俺は苦笑をしながら返すと「そうやって返事ができるのなら元気ってことだな」と朱音も同様に苦笑をする。俺も彼女の言葉には、確かにそうだな、と思った。
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「まだ目覚めたばかりのお前に事件のことをいきなり話す、というのはあまりしたくないのだけども」と朱音は口頭に置いて、それから言葉をつづけた。
「──また、行方不明者が増えてきた。一昨日は二十三人、昨日は二十七、今日にいたっては大台の三十四人という具合にな」
「……待って」と俺は言った。
「俺、何日間くらい寝てたのさ」
俺の言葉に彼女は首を傾げながら、うーんと喉を唸らせると「だいたい三日くらい」と曖昧な返事をした。
「正直、天音の血を輸血すればなんとかなるだろうな、って思ったんだけども、それでも目が覚めるまでには時間がかかっちまったようでさ」
「……もしかして、天音から俺に輸血させたのって朱音だったりします?」
「おう!」
何の躊躇いもなく、そしてまずいことをやってしまった、という自覚もなさそうな声で気丈に彼女はそう言った。
……いや、まあ、いいんだけどさ。輸血関係っていうのは魔法使いの中だけでの話でしかないし、人間や悪魔祓いには関係ない話だし。自分自身でそれは理解してはいるつもりだけれど、それでもどこか禁忌を犯したような感覚がするのはなぜなのだろう。もしかしたら思想が魔法使いに寄っているからなのかもしれない。
「まあ、そんな話はともかくとしてだな」と朱音は言葉を続ける。ともかくとする彼女に一声文句をつけたい気持ちはあったものの、この価値観を朱音に話したところで何も解決はしないので、俺は言葉を飲み込んだまま、彼女の言葉に耳を傾けた。
「お前が今日目覚めたということで、明日の夜にこの事件へ終止符を打とうと考えている」
「……」
どうしてそんなに急ぐのか、と問いたい気持ちはあるけれど、そんなことを聞かなくても理由はわかる。彼女が言うには毎日行方不明者が増えてきているのだ。それをここで止めなければ、更に多数の被害者が生まれてしまう。
魔法使いが何をやっているのかはわからない。だが、この事件に魔法使いがかかわっていることは、この前の一件で理解することができた。だから、これ以上悪さをさせるわけにはいかない。
「とりあえず、お前たちが言った雑貨屋に空間の座標が残っていることから、そこを侵入経路とする。今は店長が行方不明となったことで立ち入り禁止にはなっているけれども、悪魔祓いは顔パスだから特に問題はないだろう。
私たちが座標で空間に転移した後、環、お前にはアリクトエアル内で更に座標を探してもらう」
「……ええと、……どういうこと?」
いまいち把握しきれない言葉に、俺はそう言葉を返した。
「この前天音と行ったアリクトエアルが敵の本拠地なんじゃないの?」
「そうだったのならよかったんだけどな。でも、あそこにはお前たち以外誰もいなかったんだろ?」
俺は渋々彼女の言葉に頷きながら当時の景色を思い出す。思い出して、ようやく理解する。
「……そうか。魔法使いは更に転移させたのか」
そうじゃなければ、あそこに行方不明になった犠牲者が多数いるはずだ。だが、あのアリクトエアルには僕と天音、そして魔法使い(声だけで実際いたのかどうかはわからないけれど)しかいなかった。いきなり消えた店員の姿も見かけなかったのだから、更に転移をしたと考えた方が辻褄は合う。
そして、俺が座標を更に見つける、とか云々の話は、対極の心臓を加速させたときに見える景色で見つけることができるのだろう。そうじゃなければ、そもそも俺たちは店の中にいるときにアリクトエアルの痕跡も見つけることができなかったのだから、大丈夫なはずだ。
「おそらく犯人の悪魔は、アトランダムにアリクトエアルを地面に展開し、そうして閉じて被害者を増やしている。その後、アリクトエアル内で足がつかないように転移をしているんだろうが、明日でそれも終わりだ。なにせ、私たちには環がいるからな」
「……」
そこまで活躍できるかはわからないけれど、俺は曖昧にうなずいておいた。期待に応えられるかはわからないけれど、確かにこの心臓にはそういった能力が備わっていそうだし、活躍できるところではきちんと活躍できるかもしれない。
問題があるとすれば、まだ重くのしかかる気だるさくらいだろうか。なんとか声も出せるし、身体も少しずつ動かせるようにはなってきているけれど、当日になって動けない、とかになってしまわないか。そんな不安だけが付きまとう。
「作戦内容については以上だ。敵の本拠地についたら、私が一目散に悪魔を殺してやる。きっと環は動けないだろうし、天音は魔法を詠唱する時間だけ遅くなっちまうからな」
まあ何とかなるだろ! と彼女はあからさまに笑った。天音は彼女の言葉に、ぱちぱちぱち、と控えめに拍手をする。
俺はその言葉を聞いて、少しだけ安心感を覚える。朱音が相手を殺してくれる、というのならば、俺は殺さなくていい、ということに安堵を覚えている。
それが悪魔祓いの上を、教会の頂点を目指すものとして正しいのかはわからない。けれど、俺はそれだけでもゆっくりと眠れるような気がした。
「それはそれとして早く回復しろよな。私と天音、ここ最近安宿で寝てるんだから」
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