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第四章 異質殺し
4-48 ──反発する感覚
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◆
後ろを振り返れば、そこには青年がいた。皺がかった声から勝手に老人の顔つきを想像していたのに、それでもそこには青年がいた。そんなことに一瞬戸惑いを抱いてしまったが、魔法使いの巻き戻りの性質を思い出して、僕はひとりで勝手に納得した。
彼は朱音や天音たちよりも離れた場所にいた。俺が目線を合わせても、少しぼやけるほどに遠いような、そんな場所にいた。だいたい俺が既死を解体した後の場所の方に転がっていた。
朱音と天音は警戒するように魔法使いに視線を向けていた。先ほど、朱音が示していた憤怒は消え去ったように、困惑したような顔を浮かべながらそちらを見るのが視界に入った。
「ずいぶんと医者らしい格好をしているな。コスプレが趣味なのか?」
俺は言葉を吐いた。
「医者は仕事柄でね。致し方ないことなんだ。でも客人が参られた、というのであれば英国紳士としての身なりを整えるのは当然のことだろう?」
「医者や紳士なら相応の倫理観を持つものだと思うけどね」
俺がそう語ると、魔法使いはくすくすと笑った。
「医者は実験と発展が好きなんだ、そして、紳士であるというのならば命を尊重するものだろう。何も間違っていないよ」
はっはっ、と砕けるように笑う彼に対して、俺も同様に笑ってやった。そこに面白い冗談は一つもなかったが、染め上がっていく憎悪が口角をゆがませ歯ぎしりを挟ませる。
──僕はこいつを殺さなければいけない。
殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺──。
──殺す。
「それでは、こっちもお望みどおりに──」
俺は、魔法使いのもとへと駆け出していた。
◆
俺は勝手な優位性というものを感じていた。それを感じていたのはなぜだろう。僕はそんな傲慢な思考をやめろと言った。確かにそうだ、と俺は肯定をした。
魔法使いと悪魔祓いの相性というものを考えたことがある。どれだけ魔法使いが努力を行い、そのうえで魔法を行使しようとも、悪魔祓いはそれを意志も意図もなく反発をする。そのことを考えてしまえば、基本的に魔法使いという存在は悪魔祓いを天敵である、という結論をすることができる。
もし、魔法を使おうものなら、それを彼に向けて反発をすればいい。もし、周囲に被害を催すような魔法を彼が使うというのならば、鮮血の雨を降らせてしまえばいい。
頭の中で戦闘に対する論理を組み立てる。今一度間違っていないかを僕に問う。僕はそれを了承した。
意識が同化する。意識が同一になる。二つの意識が一つになる。最初からそうであったかのように、受容した対極が自分のものになる。俺は僕であり、僕は俺である。二つ分の意識が受容されたことによって、世界の時間は半分になっていく。
意識は加速する、意識が加速する。あらゆるものが遅くなっていく。駆け出した足にさらに力を踏みしめる。自分の脚がばねになったような想像をして、地面をけり上げながら前をすすむ。
別に何が来てもいいはずだ。何か魔法がこようとも、俺はそのすべてに対処をすることができる。そして、今回は俺と天音だけではなく朱音もその場にいる。
ふと、彼女らの方へと視線を向けた。俺が動き出しているにもかかわらず、彼女らはその場にとどまって動こうとしなかった。困惑が勝っているのか、状況に対して呆気なく意識を持っていかれている。
別に、どうでもいい。彼女たちが動こうとも動かなくとも、すべてが自分で完結させればいい。それでいいんだろ、俺。ああ、それでいいよ、僕。
距離は近づく、不快な臭いを垂らしている目の前の光景に、そうして俺は、僕は近づいてくる。ゆっくりとする景色の中、一秒、一瞬でも早く彼を殺すべきだと、俺は足を前に蹴りだし続ける。
──そうだ、どうやって殺そう。魔法使いの殺し方はまだ教わっていない。天使時間の時の犯人を朱音はどうやって殺していたのだろう。ああ、そうだ、喉を十字の槍で貫いていたっけ。ああ、そうだ、そうしよう。喉を切れば出血は起こるが、喉を切ってしまえば詠唱は行えない。現実に対して希うための世界の言葉は紡げない。ああ、なんだ知っていたんじゃないか、僕。そうだね、ああ、そうだ。
彼に、魔法使いに、糞爺にたどり着くまで六秒──。
「E n o s D i e s」
あらゆる音が低く感じる。時間は遅くなっている。足を踏み出すたびに、加速している意識に追いつこうとする身体が、さらに時間を引き延ばす。
五秒、今さら詠唱を始めても意味はない。詠唱に意味はない。お前が対峙しているのは悪魔祓いなのだから──。
「F i l l e s e n t A q u n n a l y」
聞いたことのない言葉、その言葉の詠唱がどのような非現実をもたらすかはわからない。でも、魔法であるということは確定している、だから、別に気にしなくてもいい。
四、三秒──、目の前にいる男の腕に赤色がにじんでいる姿が視界に入る。白衣の裾に絡まるような、そんな赤色が俺は滑稽に思えた。
「── だ め っ ! た ま き !」
引き延ばされている時間の中で、天音の声が耳に届く。何がダメなのかわからない。そしてもう足を止めることなど俺にはできやしない。
二──、もう眼前には彼が目の前に。殺せる、刃を振るえる距離にいる。
──そして、一。
「や は り 君 は 猿 以 下 ら し い」
加速する意識の中で届いた侮蔑の言葉に、俺は笑えなかった。
──反発する感覚。
「──!!」
頭部に勢いのいい轟音が届く。それがどこからなっているのかを理解することはできていない。理解することのできないまま、遅れてやってくる鈍痛、いや、それ以上の何かに覆われて──。
──僕は、弾け飛んだ。
後ろを振り返れば、そこには青年がいた。皺がかった声から勝手に老人の顔つきを想像していたのに、それでもそこには青年がいた。そんなことに一瞬戸惑いを抱いてしまったが、魔法使いの巻き戻りの性質を思い出して、僕はひとりで勝手に納得した。
彼は朱音や天音たちよりも離れた場所にいた。俺が目線を合わせても、少しぼやけるほどに遠いような、そんな場所にいた。だいたい俺が既死を解体した後の場所の方に転がっていた。
朱音と天音は警戒するように魔法使いに視線を向けていた。先ほど、朱音が示していた憤怒は消え去ったように、困惑したような顔を浮かべながらそちらを見るのが視界に入った。
「ずいぶんと医者らしい格好をしているな。コスプレが趣味なのか?」
俺は言葉を吐いた。
「医者は仕事柄でね。致し方ないことなんだ。でも客人が参られた、というのであれば英国紳士としての身なりを整えるのは当然のことだろう?」
「医者や紳士なら相応の倫理観を持つものだと思うけどね」
俺がそう語ると、魔法使いはくすくすと笑った。
「医者は実験と発展が好きなんだ、そして、紳士であるというのならば命を尊重するものだろう。何も間違っていないよ」
はっはっ、と砕けるように笑う彼に対して、俺も同様に笑ってやった。そこに面白い冗談は一つもなかったが、染め上がっていく憎悪が口角をゆがませ歯ぎしりを挟ませる。
──僕はこいつを殺さなければいけない。
殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺──。
──殺す。
「それでは、こっちもお望みどおりに──」
俺は、魔法使いのもとへと駆け出していた。
◆
俺は勝手な優位性というものを感じていた。それを感じていたのはなぜだろう。僕はそんな傲慢な思考をやめろと言った。確かにそうだ、と俺は肯定をした。
魔法使いと悪魔祓いの相性というものを考えたことがある。どれだけ魔法使いが努力を行い、そのうえで魔法を行使しようとも、悪魔祓いはそれを意志も意図もなく反発をする。そのことを考えてしまえば、基本的に魔法使いという存在は悪魔祓いを天敵である、という結論をすることができる。
もし、魔法を使おうものなら、それを彼に向けて反発をすればいい。もし、周囲に被害を催すような魔法を彼が使うというのならば、鮮血の雨を降らせてしまえばいい。
頭の中で戦闘に対する論理を組み立てる。今一度間違っていないかを僕に問う。僕はそれを了承した。
意識が同化する。意識が同一になる。二つの意識が一つになる。最初からそうであったかのように、受容した対極が自分のものになる。俺は僕であり、僕は俺である。二つ分の意識が受容されたことによって、世界の時間は半分になっていく。
意識は加速する、意識が加速する。あらゆるものが遅くなっていく。駆け出した足にさらに力を踏みしめる。自分の脚がばねになったような想像をして、地面をけり上げながら前をすすむ。
別に何が来てもいいはずだ。何か魔法がこようとも、俺はそのすべてに対処をすることができる。そして、今回は俺と天音だけではなく朱音もその場にいる。
ふと、彼女らの方へと視線を向けた。俺が動き出しているにもかかわらず、彼女らはその場にとどまって動こうとしなかった。困惑が勝っているのか、状況に対して呆気なく意識を持っていかれている。
別に、どうでもいい。彼女たちが動こうとも動かなくとも、すべてが自分で完結させればいい。それでいいんだろ、俺。ああ、それでいいよ、僕。
距離は近づく、不快な臭いを垂らしている目の前の光景に、そうして俺は、僕は近づいてくる。ゆっくりとする景色の中、一秒、一瞬でも早く彼を殺すべきだと、俺は足を前に蹴りだし続ける。
──そうだ、どうやって殺そう。魔法使いの殺し方はまだ教わっていない。天使時間の時の犯人を朱音はどうやって殺していたのだろう。ああ、そうだ、喉を十字の槍で貫いていたっけ。ああ、そうだ、そうしよう。喉を切れば出血は起こるが、喉を切ってしまえば詠唱は行えない。現実に対して希うための世界の言葉は紡げない。ああ、なんだ知っていたんじゃないか、僕。そうだね、ああ、そうだ。
彼に、魔法使いに、糞爺にたどり着くまで六秒──。
「E n o s D i e s」
あらゆる音が低く感じる。時間は遅くなっている。足を踏み出すたびに、加速している意識に追いつこうとする身体が、さらに時間を引き延ばす。
五秒、今さら詠唱を始めても意味はない。詠唱に意味はない。お前が対峙しているのは悪魔祓いなのだから──。
「F i l l e s e n t A q u n n a l y」
聞いたことのない言葉、その言葉の詠唱がどのような非現実をもたらすかはわからない。でも、魔法であるということは確定している、だから、別に気にしなくてもいい。
四、三秒──、目の前にいる男の腕に赤色がにじんでいる姿が視界に入る。白衣の裾に絡まるような、そんな赤色が俺は滑稽に思えた。
「── だ め っ ! た ま き !」
引き延ばされている時間の中で、天音の声が耳に届く。何がダメなのかわからない。そしてもう足を止めることなど俺にはできやしない。
二──、もう眼前には彼が目の前に。殺せる、刃を振るえる距離にいる。
──そして、一。
「や は り 君 は 猿 以 下 ら し い」
加速する意識の中で届いた侮蔑の言葉に、俺は笑えなかった。
──反発する感覚。
「──!!」
頭部に勢いのいい轟音が届く。それがどこからなっているのかを理解することはできていない。理解することのできないまま、遅れてやってくる鈍痛、いや、それ以上の何かに覆われて──。
──僕は、弾け飛んだ。
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